1.エスコートを忘れられた
はじめまして。読んでくださる方が、元気が出るお話を目指しています。どうぞよろしくお願いいたします。
交流会の間、クロエは今日も一人、壁際に立っていた。
ホールの中央では、婚約者のダニエルや仲間達が注目を集めていた。ダニエルの腕には、小さくて可愛い美少女がぶら下がっていた。ダニエルの幼馴染の少女で、よくダニエルの側にくっついている。
学園では、定期的に学生同士の交流会が開かれる。
貴族が多く通う学園なので、卒業後に役立つ人脈作りと、立振る舞いを身に着けるという意図がある。
会はそれなりに華やかだ。
学園内に婚約者がいれば、男子生徒が婚約者相手の女生徒をエスコートして入場するのが決まりである。
ヒソヒソ声がクロエの耳に聞こえてくる。
「また今日もお一人ね。」
「ダニエル様は選ばれし生徒会の中でも1,2を争う麗しさですものね、そのお相手に地味なクロエ様は、ちょっと」
「親同士が昔からの親友ということで決められた婚約だそうけど、エスコート以外でお二人が一緒にいるところを見たことないわ。その程度のご関係ってことね。」
女生徒たちが口元隠しながらくすくす笑う。
(はあ、早く帰りたい)
クロエはため息をつく。
しかしエスコートなしに帰宅するのはマナー上ありえないので、ダニエルが迎えに来てくれるまで待たなければならない。
仲間や取り巻き達の中にいるダニエル。クロエに嘲笑を向ける野次馬たち。もうその風景は見慣れているとはいえ、心のため息は滓のように溜まっていく。
見ないようにしていたら、結局うつむいてしまうのが癖になった。
ますます「哀れな一人ぼっちのクロエ」の図の出来上がりだ。
しかし、今日のクロエは様子が違った。
うつむくと前髪に隠れて周りから見えない、その顔は。
(…ふふふ。ふふふふふっ)
盛大にやけていた。
(今日の靴は新素材なめらかベルベット使用です!なかなかの出来じゃないかしら。友布のリボンを付けたけどいまいち締まらないから、端にパール状のビーズつけて正解!ゆれるとキラキラして可愛い!)
クロエは足先を左右に振って、小さくうなずく。
元々クロエは可愛い靴が好きだった。散財はしないが、おこずかいを貯めてたまに買うのが楽しみだった。
初めは、交流会中ずっと一人ぼっちなら、せめてお気に入りの靴を眺めていたいと思っただけだった。段々欲が出てきた。もっと自分好みの靴にしたい。なんせ一人の時間はたっぷりある。アイデアはいくらでも湧いてくる。いっそ自分で作ってみようかしら…。
だがそんな技術はもっていないので、まずは手持ちの靴にアレンジから始めた。
(生地や道具の扱いを覚えるまで、何度も職人さんの所に通ったかいがあった。とうとう、ここまで作れるようになったわ。今日の靴はほんとに可愛い!)
次はもっと明るい色で飾りをつけようかな、やりすぎると下品になるし…と熱心に考えていたクロエは、周りの哀れみの空気も気にならなくなり、やがて時間がたつのも忘れていた。
時刻を知らせる鐘の音で、クロエは我にかえり、慌てて周りを見渡す。
ほとんどの学生がいなくなり、数名の給仕係が後片付けをしていた。
「あれ、ダニエル様は‥‥?」
閑散としたホールに、ダニエルの姿はない。
この日、とうとう、ダニエルはクロエのエスコートを忘れて、仲間と帰ってしまったのだ。
このお話を見つけて読んでくださった方々、どうもありがとうございます!!
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