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コウノトリさん待ってるね

作者: プリムラ
掲載日:2026/02/08

 

 ぽぽちゃんは、この春、一年生になりました。

 三つ編みが似合う元気な女の子です。

 お母さんが洗濯物を干していた時、ぽぽちゃんはベランダのベンチに座って、足をぶらぶらさせていました。


 ぽぽちゃんが、お空を仰いで、「コウノトリさん、遅れてるねえ」と言ったので、後ろにいたお母さんは、思わず振り向きました。


「えっ、何のこと?」


「コウノトリさん、今日も大忙しなのかなあ」


  ぽぽちゃんの言葉で、お母さんは思い出しました。

  昨日、ぽぽちゃんと一緒に図書館へ行ったのです。

  その時、コウノトリが赤ちゃんを運んで来る絵本がありました。

  それを、お母さんは、ぽぽちゃんに読んであげたのです。

  どうしてかと言いますと、つい先週、ぽぽちゃんの仲良しのお友達に妹ができました。


  それ以来、ぽぽちゃんは、妹が欲しくてたまりません。

  毎日夕方になるまで、お友達のおうちに入り浸っています。

  帰って来ると、どんなに赤ちゃんが可愛いか、また、どれだけ赤ちゃんが可愛いかを事細かく、お母さんに説明します。

  そして、最後には必ず、こう聞きます。


「どうして、ぽぽには妹がいないの?」


 この質問にきゅうしたお母さんは、ぽぽちゃんを図書館に連れて行きました。

 そして、『コウノトリのおしごと』という絵本を探し出して読んで聞かせたのです。


「コウノトリさんが、ぽぽをママのおなかまで運んで来たの?」


 ぽぽちゃんは、びっくりして聞きました。


「そうねえ、そう書いてあるわねえ」


 お母さんは、絵を指差して言いました。


「ほら、見て。妹や弟が欲しい子供が沢山いるから、コウノトリさんは、大忙しなんだって。きっと、お空が渋滞しているから、コウノトリさん、遅れてるのよ」


 ぽぽちゃんは、お母さんの言葉を繰り返して言いました。


「皆、妹や弟が欲しいから、コウノトリさん、大忙しなんだね」


 その小さな瞳から、名前も知らない誰かの事を思いやろうとしているのがうかがえました。

 ぽぽちゃんは、自分も妹が欲しくてたまらないけど、他にも欲しい子供はいっぱいいるから我慢して待とうと思ったのです。

 

 優しいぽぽちゃんとお母さんの会話を何も知らない呑気なお父さんは、近頃タロット占いにはまっていました。

 お父さんは、結婚したての頃、バード・ウオッチングにはまりました。 

 ぽぽちゃんが生まれる二、三年前だったでしょうか。

「日本野鳥の会」に会員登録までしてしまったのです。


 ぽぽちゃんが生まれる頃には、すっかり野鳥に魅了されていました。

 お父さんは、ぽぽちゃんの名前を、『雷鳥』から取ってライにしようと言いました。

 でも、お母さんは反対しました。

 お母さんは、雷鳥のヒナしか見た事がなかったので抗議したのです。


「あんな美しくない鳥の名前を付けるだなんて、子供がかわいそう」


 お父さんは、お母さんに雷鳥の写真を見せて言いました。


「まあまあ、これを見てごらん」

 

 お母さんが見ると、雷鳥のメスは雪と同じくらい白くて愛らしい表情をしていました。

 そこで、「これならいいわ」と、お母さんは認めたのです。


 でも、おばあちゃんは猛反対しました。

 それで、ぽぽちゃんの名前は、おばあちゃんの大好きなお花、たんぽぽから取ったのです。


 お父さんのバード・ウオッチングは、ぽぽちゃんが生まれた後も健在です。

 今日もまた、リビングの大きなソファに座って野鳥の本を見ていました。 

 雷鳥のページになると、お父さんは「ほら、これが雷鳥だよ」と言うのです。


「美しい鳥だろう?」


 もう何回聞いたでしょうか。


 ぽぽちゃんは、初めて雷鳥を見た時、首を捻って考えました。

 お父さんが見せてくれた野鳥の中で、ルリビタキという野鳥が千倍美しく思えたからでした。


 ぽぽちゃんは、素敵な事を思い付きました。


「パパ、ぽぽの妹、名前はルリちゃんにしようよ」


 そう急き込んで言ったのですが、お父さんは笑って答えました。


「これは、オスだから綺麗なんだよ。メスは、ほら、下の方を見てごらん。灰褐色だろう?」


 ぽぽちゃんは、がっかりしました。

 お父さんの指の先にいる野鳥は、なんて地味な色をしているのでしょうか。

 雨が降った後の、赤土のような色をしています。

 どうしてメスはこんな色なんだろう、ぽぽちゃんが尋ねようとした時、お父さんは言いました。


「それに、きっと、この次は弟が生まれるよ」


 ぽぽちゃんは、びっくりしました。


「パパ、エルパーだったの?」


 エスパーだよ、お父さんは訂正しながら続けました。


「タロットカードで占ったんだよ」


「占ったら分かるの?」


 ぽぽちゃんは、びっくりして目を丸くしました。


「うん、まあね」


 お父さんの返事は、少し歯切れの悪いものでした。

 なぜなら、【生まれてくる子供の性別を占う方法】は、本に書かれていないからです。


「パパが、タロットカードに、男の子か、女の子かを聞いてみたんだよ。そうしたら、皇帝のカードが出たのさ。皇帝は、男の人だから、きっと男の子だよ」


 お父さんは、胸を張って答えました。

 ぽぽちゃんは、ますますがっかりしました。

 ぽぽちゃんは、どうしても妹が欲しいのです。

 その時、ぽぽちゃんは、ひらめきました。


 (ママに占って貰おう。パパは、当てにならないから)


 諦めきれないぽぽちゃんは、晩御飯を作っているお母さんの所へ走って行きました。

 お母さんの白いエプロンを無理やり引っ張って、「こっち、こっち」とお父さんの所へ連れて来ました。


「どうしたの?」


 お母さんは、引っ張って行かれながら、後は、すり下ろした人参を入れるだけだから、まあいいかと思いました。

 人参嫌いのぽぽちゃんの為に、お母さんは、人参の形と分からないように、すりおろして入れているのです。


「ママも占って」


「え?何のこと?」


 お母さんは、言われるままに、お父さんと向い合って座りました。

 リビング中に、美味しそうなカレーの匂いが漂っていました。

 ぽぽちゃんが、お父さんのタロットカードを手にして戻って来ました。

 お母さんの隣に腰掛けると、お母さんの耳元で囁いたのです。


「ママだけが頼りだよ。頑張って」

 

「あらまあ、何を占うの?」


 お母さんは、笑いました。


「次に生まれる赤ちゃんの性別らしいよ」


 お父さんが、ぶすっとして代わりに答えました。


「まあ、呆れた。あなたたち、そんな事してたの?」


 お母さんは、おかしそうにぽぽちゃんの方を見ましたが、カードの箱を見つめる目が、あまりにも真剣だったので、お父さんに聞きました。


「どうやればいいのかしら。タロット占いなんてした事ないわ」


 テーブルの上に置かれた箱を見つめながら、お母さんは心細そうに言いました。


「俺が説明しよう。簡単だよ」


 そう言って、お父さんは、二十二枚のカードを箱の中から出しました。 

 

「正式なタロット占いは、七十八枚で占うんだ。大アルカナ、小アルカナという二つのグループが一緒になったものだよ。でも、俺は、小アルカナだけで占う。二十二枚だから、シャッフルするのが楽だよ」


 一つに積み上げたタロットカードを、お母さんの前に、どんと置きました。


「どうやってシャッフルするの?チンプンカンプンだわ」


 お母さんが聞くと、お父さんは、実際にやってみせました。

 両手を使って、時計周りに二十二枚のカードを混ぜるように回します。


「混ぜながら、自分の尋ねたい事を、心の中でカードに問いかけるんだよ」


 お母さんは、お父さんの両手をじっと見つめながら、ぼそっと呟きました。


「なんだか、神秘的な儀式みたいね」


 お父さんは、手を止めて言いました。


「自分が、もういいと思ったら、シャッフルは終わり。次は、カードを三つに分ける。分けたカードを順番に重ねていくんだ。一つにまとめたら、その一番上にあるカードが、お告げのカードだよ」


 お母さんは、お父さんの言う通りにやってみました。

 傍では、ぽぽちゃんが両手を組んで、目をつぶって何やら祈っています。


 【ワンオラクル】という、お父さんが占ったやり方で、お母さんも占ってみました。

 すると、お母さんが引いたカードは、『女帝』のカードでした。


「このカードは、どんな意味があるの?」


 お母さんは、お父さんに聞きました。


「色んな意味があるけど、これは正位置だから、愛情深い女の人という意味もある」


 お父さんがそう言った時、ぽぽちゃんは、ソファの上で飛び上がって喜びました。

 お父さんは、不機嫌そうに、カードを片付け始めました。


「占いなんて、当たらないものさ」


 お父さんは言いました。


「俺は、男の子って決めてるんだ。次は、絶対、男の子に決まってる。男の子なら、白鳥のハク、名前も決めてるよ」


 これを聞いて、お母さんは、声を立てて笑いました。


「まあ、あなた、大人げない。それに、次の子は、私が名付ける番でしょう?」


 カレーの事を思い出したお母さんは、台所へ戻りました。

 戻る前に、お母さんは、お父さんに言いました。


「女の子なら、蓮華れんげ。譲りませんからね」


 お父さんは、万歳をしているぽぽちゃんを見て尋ねました。


「ぽぽは、パパとママ、どっちを信じるんだ?」


 すっかり元気を取り戻したぽぽちゃんは、満面の笑みで答えました。


「ぽぽ、コウノトリさんに両方お願いする。でも、最初はやっぱり、レンゲちゃんがいいな」


 台所で聞いていたお母さんは、声を上げて笑いました。

 お母さんの楽しそうな笑い声を聞いて、ぽぽちゃんも嬉しそうに笑いました。

 ぽぽちゃんが笑うと、お父さんも頭をかいて笑いました。

 そして、仲良くカレーライスを食べました。


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