第六話
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皆さんは人生の中で、
自己紹介の場面で危機感を覚えたことはありますか。
私は今、ここ最近で一番のピンチを迎えています。
サソリの奴は兄貴分、フクロウの奴は無邪気なイタズラっ子。
ヘビの奴は粘着質で、クマの奴は寡黙。
シャチの奴は自信家の王様。オオカミのやつは不良のばか。
ツルの——奴っていうのは違うな、彼女はクールな美少女。
では私は?
素の自分だとフクロウやシャチとキャラが被る。
どういう方向性で行くべきだろうか。
すました顔で頭はどたばたと暴れ回る。
こういうの、あまり詳しくないから急に振られた自己紹介にどうすればいいか分からないんだが。
この姿で違和感のないキャラはどんなものなんだ…?
頭をフル回転させて考える。
何か…何かないか……!
すると、ピンと一つ思いついた。呼吸を整え覚悟を決める。
私は立ち上がり、手を口の前に持っていく。
「お待たせしてしまったわね。私、蜘蛛と共に進んで行くホワイトスパイダークイーンよ。以後、お見知りおきを。」
よおおし、言ったぞ!
心の叫びは抑えつつ、キャラを保ちながら座る。
思いついたのは、気の強い傲慢な女王様。
しかし、1度落ち着いてみれば
名前にクイーンの文字があり、この姿での口調は高圧的。
このキャラ以外無いっぽい。
昔から自己紹介は苦手だった。そのせいで頭がまわらなかったのかもしれない。
私が座ると、育が話を再開した。
「皆さま、自己紹介が終わりましたね。これから仲良くお願いします」
にっこり微笑みながら、圧をかけるように言う。
この濃い連中と仲良く、ね。
育はプロジェクターを取り出し、スライドを映しだした。
世界観もくそもない。
ほかの皆もそう思ったのか、目を丸くしたり、くすっと笑ったりしている。
「まず、今回のプロジェクト【プレイアブルボス】について。
イベントボスを機械ではなく生身の人間にやっていただくことで、機械にはない新鮮味と魅力を出していただきます」
——日本中のプレイヤーを相手にする。その重大さを改めて実感すると背筋がヒヤリとした。心臓の鼓動が早まり、息が少し荒くなる。
少し余裕が無くなってきた。
育は続ける。
「皆さまを選んだ理由は二つあります。
一つは単純に強いこと。戦闘センス、反射神経、判断速度、そして運です」
当然だ。弱い奴を選んでいたら、このイベントは崩壊する。
「もう一つは演出家としての才能です。
皆様には目の前にプレイヤーが現れ、戦闘になったとき、ただ戦うだけでなく、その戦いを一つのストーリーとして演出できる才能があるのです!」
演出……【皆が楽しむエンターテインメント】か。
私を見て、このイベントを思いついたと言っていたな。
皆が夢中になる物語を生み出したい、ということか。
他のやつらの反応をちらっと見る。険しい顔、楽しそうな顔、何を考えているかわからない顔。
皆は何を思っているのだろう。
「イベントは皆さまの調子次第ですが、来シーズンを予定しております。
こちら、はじめは【???ボスイベント】として宣伝し、後に皆さまでネタバラシしていただきたいと思っております」
ふむ。最初は生身の人間だということを隠すのか。
どでかいこのイベントはプレッシャーがすごいが、想像以上に面白そうだ。
心の中のてるてるが騒ぐ。1度、こんなことをやってみたかったのかもしれない。
「今回の試みは前代未聞ですので、初回のイベントによって続投するか判断いたします」
え、一回でなくなるかもしれない?
ここまで関わって、なくなる可能性があるのか。素晴らしい機会が消えるのが寂しいような、プレッシャーから解放されるのが嬉しいような。
「もちろん、評判がよく、問題がなければ、そのまま【??ボス】シリーズとしてこのゲームの目玉になるでしょう」
これは大きな話になってきたな。
両肩に重りがずっしりのっているような気分だ。
「うぉぉまじかよ。俺結構有名になれるんじゃ!?」
そう声をあげたのは、オオカミのやつだ。私は緊張で押しつぶされそうだが、こいつはそんなものとは無縁のようだ。
「ハイ質問!」
手をあげたのは確かナイトホクロウと名乗った、少し小さい男。
「はい、どうぞ」
育はそのナイトホクロウの方を向く。
「そのイベント、自分もプレイヤーとして参加したいんだけどー」
確かに。私もプレイヤーとして参加したい。
周りも頷いている。やっぱり重要なポイントだ。
育は声を少し高める。
「ご安心ください!もちろん考慮しております!」
スライドが変わり、大きなフォントが目に入る。
「そのために、ボスのログイン制度を導入しました」
ログイン制度? 名前だけではわからないな。
育はスライドを切り替える。
「こちらをご覧ください」
それぞれのボスの象徴である生き物のアイコンが並ぶ。
「皆さまには事前に入れる時間をお聞きし、交代でボスとして活動していただきます。
その方がボスとして入る際、全プレイヤーに通知が流れ、こちらのアイコンが光ります。」
なるほど、シフトのようなものか。
「もちろん、報酬は一定量支給させていただきます。」
報酬もあり、私たちがプレイする時間も確保できる。悪くない。
「イベントの説明については以上です。長くなり、申し訳ありません」
育は頭を下げる。
「いやいや、とても大切な説明だ!こちらこそありがとう」
えっと、サソリの、名前…サンドスコーピオンだ。
こういうところでサラっとフォローを入れられるのか。女性人気も取れそうだ。
私がそう漠然と考えていると、
プロジェクターを片付け終えた育が、
「それでは私は失礼します。本日は皆さまで交流を深めてくださいね」
そういって去っていった。おつかれ、育。
心の中でハンカチを振り、すぐにしまった。
育が姿を消すと緊張が走る。
皆が互いの出方を伺っている。
ここからが大事な場面だ。
そう。ここがこのメンバーの関係性が固まる瞬間。
私は足を組み、椅子の手すりから頬杖。なかなか女王様らしいではないか。
キャラブレはなし。さあ、どうする私。
沈黙が流れる。しかしここで私が先手を切るのもキャラではないだろう。
そんな中ナイト…ホクロウが声をあげる。
「みんな、これからよろしくー。せっかくだし話してこーよ」
その無邪気な声に、場の緊張が解けた。
救いの手だ。皆も口を開き始める。
「せやね。情報交換も大切やわ。互いを知っていないと後で困るさかい」
ツルの……人がそう言う。クールな人に見えたから、こういうのは静観するのかと思っていた。少し意外だ。
私も何か話さなくては。いい話題はないかと頭を回す。
あ、そういえば一個不便なのがあった。
「そうですわね。皆さんに話のネタとして一つ提案が」
みんな一斉にこちらを向く。
よし、それらしい話し方、それらしい仕草で。
「それぞれの呼び方を統一しません事?皆さんの名前、覚えづらいですわ」
うーん、少し伺うような言い方になってしまった。
だって正式名称は長いし、覚えるのも大変なんだもん。
「そうだね。それもいいかもしれない」
そういったのはヘビの、えっと…なんとか——さん。
すると皆もそう思ってたのか
「これは?」「あれは?」
「ブラッド略してブラウルはー?」
「え、それだとお前ナイフクだぞ」
と案を出す。正式名称の略や、新しい名前を出すなどのアイデアが出た。
だけど、そのどれもなかなか覚えられる自信がない。モチーフとなった生き物ならわかるのだけど…
うん。それでいいや。これからそうしよう。
「ああごめんなさい、名前覚えるの嫌いだったわ。私から提案しておいてなんだけど、もう動物の名で呼んでも?」
私は少し気だるげに言う。
皆顔を合わせた。
そこで口をあけて笑ったのは、シャチ。
「その通りだな。蜘蛛の女王様。俺もお前らのことを動物の名前で呼ぼう」
「蜘蛛さんとかは動物じゃないけどね。自分もそれがいー」
そうにししと笑ったのはフクロウ。
「私もそれで」
ニヤッとしヘビが言った。顔はいいのだが少し、苦手?かも。
「それ天才か!覚えないとって思ってたから助かったわ」
オオカミは胸を撫で下ろすようにまたそう言った。
「うちもそれでええわ。蜘蛛さん、少ない女子同士どうぞ仲ようさせてくださいな」
そう言ったツルは少し微笑んでいた。
ええもちろん!しかし口は
「それもそうですわね。」
おっと素っ気なく返してしまった。
しかしツルはうれしそうに微笑んだ。
案外甘えん坊なのかもしれない。
「そうだね。みんながそうなら俺もそうしよう」
そこを苦笑いしながらサソリが言った。
彼が一番いろんな呼び方のアイデアを出していたのに、結局没になったからな。
そんなこんなで、この奇妙なボスの集まりで話せる雰囲気ができてきた。
ただ1人を除いて。
腕を組み、険しい顔のクマがこちらを見ていた。
胸がざわつく。何か起こる…そんな予感がする。
口を開こうとした瞬間、クマは立ち上がり、扉に近づいた。
これは、もしかして
そう立ち上がった時にはもう遅かった。
クマはドアノブを握りしめ、冷ややかな視線でこちらを見つめ、こう言った。
「呼び方はそれでもいい。だが、なれ合うつもりはない」
視線が集まる中、クマは扉の向こうに消えていった。
気まずさが漂う。さっきまでの雰囲気が嘘のようだ——
苦手な自己紹介を乗り切り、このイベントの重要さを知った。そして、仲間となるだろうこのメンバーと作ったこの雰囲気。
あいつそれを壊していきやがったんだ!
あのやろう!!
この後どうすんだ!




