表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

第三十一話

「え? 正体がバレそうになったら? どちらでも大丈夫ですよ。そのままネタばらししても、最後まで誤魔化しても」

 

かつて聞いた育の声が、いまさら幻聴のように耳の奥で蘇る。

あの時は、本気で……本気で気をつけようと思ってた。

 

でも、確かに最近は油断していた。

もっと警戒すべきだったのかもしれない。

イベントの時に死を選ぶことさえ厭わず真実を追い求めた。

そんなやつがいるのに。

 

「蜘蛛ってさ……もしかして、てるてる?」

 

これこそ幻覚であってくれと、心の底から願う。

けれど、そう願う言葉ほど、残酷なまでに現実の鼓膜を震わせる。


顔を覗き込もうと、粘りつくような声が近づく。

クソやろ……蛇だ。

 

「ねぇ、蜘蛛?」

 

私はそれでも、沈黙を貫いた。

表情を悟られないよう、ぐいと顎を上げ、拒絶を示すように背を向ける。


やつの声は弾んでいた。

見なくてもわかる。

今、背後でこいつは満面の笑みを浮かべているはずだ。

 

「私の推理を聞いてくれるかな!」


蛇は意気揚々と話し始めた。

 

「きっかけは、君が古参だと確信したことかな。隠していたみたいだけど、ゲームの理解度が異常に高かった。

あのネップシックのイベントにだけは行きたいと言っていたよね? それで古参勢だと踏んだ」


「……」

 

「てるてるだと思い始めたのは、先日の熊との対決だよ」


蛇の声が、一段と楽しそうになる。


「君の鎌の持ち方はてるてるそっくりだ。武器を回す癖まで酷似している」


はあ?まじかそこまで見てたのか。


「そして、フクロウ――はく餡への反応。彼はルナオン初期の人気者だ。そんな彼を見て興奮もしないのは、彼を倒したてるてる本人ぐらいなものなんだよ」

 

……そうか。

私は気付かぬうちに、一般プレイヤーとは離れた行動をしていたわけだ。

 

「……まあ、ここまで言っておいてなんだけど、最後は勘の方が強いんだよね。こんなの他のプレイヤーでもそういう人がいるって言われたらそれで終わり。でも、私の勘って結構当たるんだ。

どうかな、あってる?」

 

「……」

 

「おや、知ってるか? 沈黙は肯定なんだ。早く顔を見せ――」

 

跳ねるように私の前へ回り込んできた蛇が、言葉を失った。

驚きに目を見開いている。


バレてはいけない。

ここで動揺しても、開き直ってもいけない。

 

深呼吸。

今の私は、ホワイトスパイダークイーン。

――いい子の仮面を被り続けた、尾川凛。


演技なら、慣れてる。


「そ、そう……私、てるてるに見えるのね」


口角を優しく上げ、震える声で呟く。

 

ならば私ができることはただ1つ。

 

「く、蜘蛛?」


「いや、意識してたわけではないわ! ただ、嬉しいっていうか」


ナイスタイミングな風が長い髪を靡かせる。

私は何かを慈しむような表情を作った。


「私、てるてるになれてる?」


てるてるのファンが、てるてるの真似をしてるだけなんだぜ!

 

「……あ、いや」


蛇が言葉に詰まる。


 細かいところまで覚える観察力、そこから繋げる思考力。そして勘で、答えを当てる感性。


 仮面の下で、目の前の男を見つめる。


 そして、同じくルナオンに対しての知識は私に並ぶほどだ。蛇のフィールドを観ればよくわかるよ。


その程度で私を追い詰めたなんて片腹痛いわ!

そんな推理で、他人にヒントを与えるなんてね。

 

 

◇◇◇


「あれ?蛇いなくね?」


「蜘蛛はんもおらんわ」


それを聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。


「おい熊!集中しろ」


俺にそう言うのはシャチ。

 

「ああ、すまん」

 

今はタイマンの最中なのに。

蜘蛛が居ない、それだけならまだいい。

蛇もいないってどういうことだ。


嫌な予感がする。


そうして視線をずらした時だった。


「……!」


視界に入ったのは、2人きりで何かを話す蛇と蜘蛛の姿だった。


物陰で。

二人だけで。


気づいた頃には駆け出していた。


「あ、おい熊!」


シャチの声は遠くなり、代わりに二人の存在に迫る。


俺は手を伸ばし、蜘蛛の手を掴んだ。


「……え?く、熊?」


「二人で何話してるんだ」


◇◇◇

 

突然手を引っ張られる。

引き寄せられた方角にいたのは

 

熊だった。


「……え?」

 驚きを隠せない。蛇に見せていたてるてるのファンという仮面があっという間に剥がされてしまった。

 

怖い、何が目的だ?

普通に熊にまで突っ込まれたら困るんだが。


「別に?他愛ない話だよ」

蛇はにこりと笑い、そう返した。


いきなりの第三者に対しては無難な返しだ。

お互いにそれが一番の正解。

しかしそれは二人の間に秘密があったと、示すことにもなる。


「本当か」


熊は一瞬体に力が入ったが、ぐっとこらえたのか、それだけ言って脱力した。


しかし、それでも私の手を握る熊の手は暖かかった。


その次の瞬間、

 

「ちょっと!何してはるん!!!」


今度は、大きな声が後ろから飛んできた。

耳を塞いでも突き抜けてくるその声の主は、つかつかとこちらに近づく。


「あ、ツル……」


熊から私の手を掴むと、ぎゅっと私の体に抱きついた。


「男二人で蜘蛛はんを虐めないでくだはる?」


ツルは私の後ろから二人を冷たい目で睨む。

その形相に、二人はたちまち体を萎ませた。


「あ、いやすまん……」

「悪かったね……」


小さくなった体で静かに謝る。

しかしその様子が少し面白かった。


「ぷっ……あはは」


笑いが漏れる。


「ありがと、ツル。あいつらには困っていたところだったよ」


その笑顔を見たツルは安心したのか、優しく微笑んだ。


「ならよかったわぁ。ああいうやつは言わなあかんのやから」


そういうとまた蛇と熊を睨んだ。


 ふたりはたちまち体を震わす。

 

「おい、君が急に走ってきたせいだよ」

「あ?お前が蜘蛛に絡んでたからだろ」


コソコソと何か言っているが……まあいいか。


「はーい、皆様!そろそろお開きに致しますよ!」


わちゃわちゃとしているところに育が小走りでやってきた。

育はいつも通りの営業スマイル。


しかし、その目は一瞬だけ、蛇と私の間を、心配するように泳いだ気がした。

 

……こいつも、どこまで分かってやってるんだか。


 それに対し、

 心配ないよ。と笑顔で返した。





 

しかし、この時間はこれで終わりか。


ツルが正座する蛇と熊に説教している。

それをゲラゲラと笑うフクロウと狼に、呆れた顔のシャチとサソリ。

 

うーん、

……ただの模擬戦だったはず、なんだけどな。


 

◇◇◇




 

会議室。


「皆様今日はお疲れ様でした!」


育の元気な声がこの部屋いっぱいに広がる。


しかし……誰もその言葉に返事をする気配がない。


「ぶつぶつ……」

「こうすれば……」


皆、自分の世界に浸り、

これから何をするべきか考えている。


それは私も例外ではなかった。


頭の中で糸が絡まり、ほどいて、新しい形を作っていく。


 それを見た育は、ぐるりと頭を回すと仕方ないかというように、

「……あー。じゃあもうここで解散しますか。次の【??ボスイベント】は一ヶ月後です。皆様の素晴らしい成長を期待しております」


「「「「「はーい」」」」」


そうして、その場はお開きになった。

各々が自分のフィールドに繋がる扉に入っていく。



 

私も自分のフィールドに戻った。


「……!」


私が玉座に近づくと、そこにちょこんと座っていた。

サイドが両手を上げて歓迎してくれた。

 

「あ、サイド。ありがと」

 

せっかく可愛いサイドが挨拶してくれたというのに、

頭がアイデアに溢れ、しっかり回らない。


 頭に生まれる感覚はなぜ、ここまで表現することが難しいのか。

 

 大きなタンクにあるアイデアを、小さい蛇口から垂らすように、この感覚を言葉にする。

「ねえ、サイド。あの球体の名前をね、【ワイトークン】にしようと思うの」


急な話題にサイドは頭を傾げたが、理解するとまるで拍手をするように前足をかちかち鳴らした。


 わかってくれた!


 それが嬉しくて、小さい蛇口を最大まで開く。

「そ、それでね。ワイトークンを、複数出すことってできるかしら」


「!!」

 

「ああ!できるわよね!」


私は急いで糸を丸める。

そして1つのワイトークンが出来た。


白い球体が、ふわりと宙に浮く。


そこから両手と1つのワイトークンで糸を丸める。


4つ


これを続ける。


10、100、1000……。


数えるのもだるいな。


ワイトークンはボス部屋の中を覆い尽くした。

まるで星空のように、無数の白い球体が浮かんでいる。


「いける。これなら……」

鎌を使わない、てるてるの戦い方じゃない。

 

 ホワイトスパイダークイーンの戦い方だ。


 思わず手のひらを強く握る。


 今度あるイベントが、とても楽しみだ。

次こそ……私は!

 


しかし、その瞬間、以前のイベントのロックろっくの顔が頭をよぎった。


あの時の、空虚な感覚。

 もう時間切れだと自覚してから、何も感じなかった。

せめて入口がもっと近かったらとか……考えなかったこともない。

 それでも最初に来たのは残念だってこと。

 

 これが期待はずれってことなのかな。

 

「私は次こそ本気でイベントを楽しめるのかしら」




 

 え……?私、今なんて言った?


 スキルを解除する。

 白い星空の海は瞬く間にいつものボス部屋に戻った。


 そんな光景を背にし、

 放心状態で玉座に座る。



 

 いや、期待はずれとか、何様だって。

 ロックろっくも、他のボスも、他のプレイヤーも楽しんでいた。


 それを見て、私も、楽しんで……。

 


 そこまで考えて、やめた。

 顔を下げ、気づかなかった気持ちと、目を合わせる。

 

 ああ……。私、思ったより気にしてたんだ。


 足を組み、肘掛けに肘を置いて頬杖。

 

 抑え込むように閉じたのは、得体の知れない莫大なエネルギー。

 

 私はそれが爆発するその時まで、その存在に気づくことはなかった。


 ◇◇◇


「ねーろく!ずっとレベル上げしてない?休むこともだいじだよ?」


 1件のメッセージがウィンドウに映る。


 肩で息をしながらも、体を止める。

 それに気づいた俺は、回復アイテムを口に含みながらウィンドウをいじった。


「大丈夫だよ、ラーナ。ちゃんと休んでるさ」


 それを送り、ウィンドウを閉じる。


 次こそリベンジする。

 

「あいつが求める、強いプレイヤーになるんだ」


◇◇◇

 

 

【??ボスイベント】1ヶ月後の○○日開催!!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ