第二十九話
運営に集められた8人のプレイヤー、
そしてイベントボスになった存在。
それが今の私たち――【プレイアブルボス】
イベントラッシュが終わり、新年を迎えた。
ルナオンの世界では次のイベントに向けて準備が進んでいる。
プレイヤーたちはレベル上げに励み、ユニオンは戦略を練り直す。
そして私たちプレボスも――
次のイベントに向けて、動き始めていた。
――
いつもの会議室、
今日は育抜きで数人集まった。
なんてことのない、ただの雑談会。
ルナオンのイベントラッシュが終わったあと、この会議室にはみんなぽつぽつとここに集まるようになった。
何か約束している訳でもない。ただ、互いに何も知らないから、なんでもできる。
しかし今日は、1人どこか落ち着かない様子だった。
「なーなー。ボス戦の相手してほしんだけど」
第一声でそう言ったのは狼だ。
椅子に座らず、テーブルに両手をついて身を乗り出している。
全員の頭に?マークが現れる。
「ボス戦?それはどっちの意味だ?」
サソリが困ったように苦笑いを浮かべ、聞き返す。
「俺がボスやるから、お前らがプレイヤーで来いってこと!」
狼は尻尾を揺らしながら、勢いよく言った。
「ほら……弱体化あるじゃん?この前のイベント、めちゃくちゃやりづらくてさ。なんか違和感っつうか、体が思うように動かねえっつうか」
ああ、そういうことか。
弱体化――
今までのイベントは、時々てるてるの癖で鎌を振り回してしまっていたが、元々力押しで戦うタイプじゃない。
ま、まあ
スキルと蜘蛛たちで翻弄するのが本来の私のスタイルだからね。
それを踏まえて戦い方を変えてみたら、ホワイトスパイダークイーンである私には、正直あまり影響がなかった。
基本ステータスが下がっても、センスはそう変わらない。
でも――他のやつは違うだろう。
狼みたいに、パワーとスピードで圧倒するタイプは、弱体化の影響をモロに受ける。
今まで一撃で倒せた相手が倒せなくなる。
それは、想像以上にストレスだろうな。
「いいんじゃない?」
私は腕を組んで答えた。
「今、ボスとして戦う練習相手はbotだけでしょ?イベント前にちゃんと調整しとかないと」
狼の耳がピンと立つ。
でかい尻尾がブンブン揺れた。
「だろ!?蜘蛛、話わかるじゃん!」
「ただし」
私は立ち上がり、その場にいる全員に指を向けた。
「狼だけじゃない。お前らも、全員やるんだよ」
目の前が揺れ、頭がなにかの圧に押しつぶされる。
ああ、良い案が浮かぶとこうなるんだ。
この先の未来を考えると、思わず笑みがこぼれた。
「弱体化で、慣れてないから。そんな言い訳、本番では通じない。前回の別のイベントの時は何とかなったが、違和感はあっただろう?なら今のうちに調節しとかないと。
ふふ、楽しみだ。育に話通しとかなくてはね。
今いないシャチ、ツル、蛇、熊も呼ぼう」
そしてそんな話を育に持ちかけると、
「いいですね、プレボス同士の模擬戦!
プレイヤーのアバターを準備しなくてはですね。
少々お待ちを!」
もちろんノリノリだったよ。
弱体化という100からマイナスされた状態。
ああ、想像が膨らむわ。何を彼らに足そうか。
「蜘蛛が乗り気になっちゃった」
そう言いながら、せかせか動く私の姿みながら、
男どもが端で萎んでる。
なにか問題が?
私がやる気になって嬉しいぐらい言ってもらわないと。
そうして、ホワイトスパイダークイーン主導のプレボス弱体化克服計画が実行されることになった。
今日この場にいなかったシャチ、ツル、蛇、熊にはその後メッセージを送ったが、
『模擬戦やるから、都合のいい日教えて』
返信はまちまちであるが、皆参加の意を示してくれた。
ああ、良かった。これで来ないって言われたら、どうしようかと迷っていたところだったよ!
◇◇◇
全員の予定を調整し、数日後。
会議室に8人全員が集まった。
「お待たせしました!」
育が準備したアバターデータを見せてくれる。
「こちらのアバターでどうでしょうか?」
画面に映るのは――
私たちのボス姿。そのまま人間形態だ。
「あれ?プレイヤーキャラじゃないのか?」
狼が首を傾げる。
「はい。プレイヤーとしての姿を見せたくない方もいらっしゃるかと思いまして」
育が説明する。
確かに。
私は、体をひねり全身を確認する。
ミルクのロングの髪を一つ結びに結い上げ、服はシンプルに半袖と半ズボン。
ほかのみんなも同じような感じだった。
プレイヤーの姿は、それぞれのプライバシー。他は知らないが、少なくとも私は絶対だめだったが、そこはさすが育ってとこかな。
「それでいいわ」
口調もそのまま。完璧な仕事だ。
私は頷いた。
そんな中、シャチが少し緊張した様子で育に話しかけた。
「お、おい育……」
「はい。なんでしょうシャチ様」
「その……プレイヤーのアバターではいけないか?」
「ま、まあいけなくはないですが」
その返事を聞くと、シャチは次にフクロウへ向かった。
でかい図体で、小さなフクロウを上から見下ろす。
謎の圧に、フクロウは体をすくめた。
「な、なんだよ」
「そ」
「……?」
「その」
「ん?」
「無理だってわかってるんだが……プレイヤーの姿、見せてくれたりって」
「え??」
その瞬間、全員が動きを止めた。
「た、確かにな!」
「う、うちも気になるわ」
「俺も……」
次々と声が上がる。
フクロウは突然詰め寄られ、目を回し始めた。
「え、うえ」
ああ、そっか。
あいつ確か、初期の頃トップを張ってたユニオンのボスなんだっけ。
はいはい、ちゃんと調べましたよ。
**王道ユニオンリーダー・はく餡**
圧倒的な実力とカリスマ、そして未来を見るとまで言われた見事な先見の明。
当時、動画サイトでその活躍が拡散され、ルナオンというゲームと共に、その名を轟かせた――らしい。
まあ、それもてるてるに潰されて終わったけどね。
「いい加減にしろ」
私は立ち上がり、四人を引き剥がす。
「そんなことのためにこの場を設けたわけじゃない。シャチ、サソリ、ツル、そして熊。落ち着け」
四人はもじもじと恥ずかしそうに、しかし渇望するような顔をしていた。
全く。
この前の会議では――
――
【???ボスイベント】終了直後の会議。
「僕の正体は確かにはく餡だけど!今まで通り接してよね!!」
フクロウが叫んだ時、みんなはキュルキュルとした目で
「「「「「はい」」」」」
――
あれ以来、普通だったのに。
「フクロウ、どうすんの」
未練たらたらのこいつらをなんとかしてほしい。
そういう思いで、フクロウにバトンを渡した。
「さすがにプレイヤーアバターはやだ」
フクロウは案外、すっぱりと言い放った。
四人はガーンとした顔でショックを受ける。
おい、いい加減にしろ。
しかし――
「だけど、戦い方ぐらいはやってあげてもいいよ」
フクロウが小さく笑う。
「育、武器って指定できる?」
「もちろんですよ!何がいいですか?って、愚問でしたね」
育も笑顔で答える。
「「「「ま、まさか」」」」
四人が息を呑んだ。
フクロウは育に近づき、ある武器を受け取り、
それを現れた的に照準をむける。
そこに放つ数発。それはまるで一本の線を描くように吸い込まれ、的のど真ん中に一点の穴を空けた。反動によるブレすら一切感じさせない、異常なまでの精緻さ。
「拳銃ーかな?」
きゃーーっと歓声までがセット。
4人がわらわらとフクロウを取り囲む。
これがいわゆる、推しってやつ?
好きな人が目の前にいたら誰でもああなる……のか?
君たちにとって憧れかもしれないが、こっちからしたら、そうでもないんじゃ!
と言いたいところだけど、あのエイムは確かにえぐい。拳銃も使えなくないけど、あそこまではできないな。
そういやあの時も拳銃がしんどかった気もするな。
しかし、暇に耐えかねたオオカミが声を張り上げる。
「なーもういいか?そろそろやりたいんだが!」
「ああ、悪かったねー狼。僕が人気者なばかりに」
「なんだこのやろ!!」
そのやり取りを無視し、私は準備をしていた育に合図を出す
「最初は狼で」
「了解です!」
その瞬間世界は変わり、現れたのは狼のフィールド。
「腑抜けたやつら、準備できたか?ここからノンストップでやっていこう」
ここまで肩入れしてしまうのはきっと、私にとって初めての仲間だから……だからだろうか。
心なしか、心臓が速く波打った。
私は、この美しい顔で優しく笑う。
「く、蜘蛛?」
誰かがそう呟く。
その顔を見た全員察した。
そこに優しさが一ミリも入っていないことに。




