第二十八話
大都市ナンバーシリーズ【セーダント】
太陽の光を反射し光る、月の街。暗く落ち着いたこの街は、その静けさから、考察や研究を行う者が集まる“情報の街”と呼ばれている。
情報ユニオン・シナプス拠点
【無限書庫】
「ごめーーん!お待たせ。ちょっと時間かかっちゃったね」
奥から1人のプレイヤーが小走りでやってくる。
「いいえ、大丈夫ですよ、カシオペア」
壁際に佇んでいた人物は、それに笑顔を向ける。
「ありがと!のんドール」
カシオペアも軽く手を振って応えた。
軽く挨拶を交わすと、ふたりでニコッと笑い、向き合ってソファに腰掛けた。
【情報ユニオン・シナプス】
ルナオンにおけるほぼ全ての情報を所有。ルナオン世界のあれこれだけでなく、プレイヤー間の情勢なども把握している。
ルナオン世界の考察も仕事のひとつで、このようにプレイヤーのもつ有用なる情報を買い取ることなどもしている。
「はいはい、えーっと、なんだっけ?【??ボス】の情報か」
のんドールは体を乗り出しながら、目を輝かせる。
「はい!いいもの仕入れてきてました!」
「わかってるわかってる。もちろん買い取るさ。ただ、いい値段は期待しないで欲しいんだよね……」
カシオペアは肩をすくめ、少し苦笑する。
「え?なぜですか!!おかしいですよ、今旬のイベントボスの情報なのに!」
のんドールは両手を広げ、抗議するように身を乗り出す。
「落ち着けって!うちのボスがあんま乗り気じゃないの。やるとしても、私が個人的に買い取らせてもらうだけなんだ」
カシオペアは腕を組み、仕方ないといった表情で視線をのんドールに向ける。
「そ、そうですか」
のんドールは少し肩を落とした。
「悪いな。うちはどうしてもボスが強いから」
「なら……一旦保留にしても?」
「もちろんだとも」
のんドールは拍子抜けの結果に、小さくため息を吐く。
カシオペアは頬杖をつきながら、興味深げにそれを眺めた。
「それでのんドール。今どんな感じなんだ?」
「ん?まあ、いい感じではありますね。特にメインイベントの【ルナリス大戦】で勝利できたので」
のんドールは胸を張り、少し得意げに言った。
「あ!そういやファルンテはお前らが主導してたんだっけ?それが勝ったんならクソつえーじゃん。現時点で最強の国がバックにあんのか」
「そういうことです。
さすがランキング1位ロックろっく!
と言いますか。仲間の私でも時折怖くなってしまいますよ」
のんドールは、少し照れくさそうに微笑む。
「でもシークレットフィールドではホワイトスパイダークイーンのとこにはいけなかったんだろ?」
びくっ
のんドールは思わず体を飛び上がらせ、指先が机に触れる。
「ちょっ、彼女の名前は出さないでよ!」
「ははっ。悪い悪い。まだ気にしてたか」
カシオペアは軽く手を挙げ、愉快そうに笑った。
「全く……」
呆れたようにまたソファに腰掛けた。
あの件以降、ろくはレベルアップに勤しむようになった。
それに……シークレットフィールドで、あのボスにエンカウントできなかったことが、本当に悔しそうだった。
「他何か聞きたいことありますか?」
「んー、あとはてるてる関係かな。最近、てるてるの名前を利用してるやつが減ってるんだよ」
「前は結構いたと?」
「まあそこそこは。てるてるに構って欲しかったのかね。でもてるてるは気にしてないようだから自然消滅していたんだが、ここ最近はまず発生すらしてないんだよ」
「へぇ。少し怖いですね」
「まあ、私としたらてるてるとロックろっくが戦ったらどっちが強いかの方が気になるけどね?」
「?!失礼な!もちろん、ろくですわよ!!!」
「本当に?」
「本当に!」
「本当に……?」
「ほ、ントウニ……」
カシオペアは頬を緩め、笑みを浮かべる。
「まあ暇があったら今度喧嘩売ってみてよ」
「もう!それを決めるのは私じゃないのよ!」
のんドールは両手を握り、ぷいっと横を向いた。
「今年最後のイベントラッシュもチームロックろっく、そしてナンバーユニオンの大勝利か。もうほとんど独走状態じゃん」
その言葉を聞いたのんドールは、
ハッとしたように手の力を緩め、項垂れるように下を向いた。
「そんなことありません。今回のイベントラッシュ、ほかのユニオンまたはプレイヤーの追い上げがとんでもなかったんですよ。今年はなんとか1位を死守できましたが、恐らく次あたりで抜かされるかも」
「お、ちゃんとわかってんじゃん」
「ちょ、カシオペア!!」
「はいはいそれで注目ユニオンは?」
「……有道ユニオンとスカーレットローズっていうユニオンですね」
「おお、今乗りに乗ってるって噂のやつ」
「私たちはトップに立つものとして恥のないようにしないといけません。それにろくに全ての責任を持たせることなんて絶対に」
「ああ。わかってるよ、のん」
カシオペアは背筋を伸ばし、ゆったりと座り直す。
のんドールに向けるその顔には、昔からのゲーム仲間への応援がにじんでいた。
◇◇◇
とある街の路地裏
地面に尻もちをついた男に、フードを被ったプレイヤーがゆらり近づく。
「な、なんだよお前ら!誰だと思ってるんだ?」
フードの人物は少し止まり、悩む仕草。
「うーん…てるてる様の彼氏と?」
「さ、さま?」
その瞬間、男の真横にナイフが通過。頬には切り傷、光の粒子が溢れる。
「小汚いただのプレイヤーが、恐れ多くもてるてる様のお相手……?」
男は思わず後ずさり、手が震え、声も震える。
「や、やめろ…近づくな…!」
男は思わず後ずさり、手も膝も震え、目を見開いて固まった。逃げる方向も分からない。
1歩ずつフードの人物が近づく。赤い瞳が男を捉える。
「撤回しなさい。それをするまで、地獄の果てまで追ってやる」
男は急いでウィンドウを開き、投稿を消し、謝罪と償いのメッセージを送る。
「これでいいでしょうか…?」
「……ええ。確かに」
フードの人物から殺意が消える。
男は酷く安心した。これで解放される。
「では俺は拠点に」
「ああ、そんなそんな。僕が送って差し上げましょう」
「え?――」
その瞬間、男の体に大きな斬撃が飛んでくる。胴体に斜めの深い傷が刻み込まれ、男のHPは一瞬で無くなる。
ひらりと舞うマントの先にあるのは、ダガーナイフ。
「この方が楽だ。
こんなに弱いのに、てるてる様の名を弄ぶなんて万死に値する。またもう一度やったのならこれでは済まさんぞ」
男は粒子になって消滅した。
「リーダー!終わりましたか?」
そしてフードの人物、tissueはナイフの状態を確認し、インベントリにしまうと、声の聞こえた方を向き、笑顔をみせる。
「ええ。クソ野郎の処理ぐらい簡単ですよ」
それが“雨”としての初仕事。
――
「さて。我々は念願叶い、雨として動けるようになった。我々のルールは?」
「「「「てるてる様の邪魔をしないこと」」」」……
「よし。まあ、我々のすることなんて、てるてる様の名を汚す不届き者を処理するとか、てるてる様のご命令を遂行することぐらいしかないけどね」
「そらそうですよ!私たちはあの方の自由な姿が好きなのですから!」
あちこちから声が聞こえる。
てるてるという存在は他人に迷惑をかけるプレイヤーとして昔から遠巻きにされてきた。
実際、彼女の行動は自分勝手にしか見えないのかもしれない。だからこそ同士を探すのには苦労した。
本当、今のこのゲームには彼女にケチつける愚か者ばかり。
でも絶対いると確信できた。
あんなにもかっこよく、きらきらと輝く光に目を焼かれた同類が。
「やっぱりもっと仲間を探したいな……」
誰かがボソッと呟いた。
その呟きに、僕は悩むように言葉を返す。
「うーん。そうだよな。方法がない訳では無いんだが、てるてる様に迷惑がかかってしまう可能性がある。やるとしても、てるてる様の許可が欲しい」
「そのためにもてるてる様に心を許せていただける程度の存在にはならなくては行けませんね」
その言葉にその場の誰もがニヤリと笑みを浮かべた。
我々の存在が、邪魔にならない。
それでいいと言ったが、もちろん本音は違う。
あの方の支えとなりたいのだ。
「例えその時が来なくても、我々だけでも、てるてる様の味方でいよう」
◇◇◇
日本で大人気のVRMMO。
そこではプレイヤーの数だけ、ストーリーがある。
しかし、その中でも
全プレイヤーを巻き込むストーリーがまた始まろうとしている。
――
とある部屋。
ボロボロの黒板には【??ボス】の名前が貼りだされている。
「もうこれでいいだろ?」
男は椅子に深く座る。
周囲にも何人かが座り込み、男を見つめた。
「これができるのは一回だけ。だが、それしかできないなら――」
男は不敵に笑う。
「もう好き勝手暴れるしかねぇよな」
――
想いが深いイベントに、異常事態は付き物
回避できるものでもなかった。
「熊……サソリにフクロウ、蛇、ツル、シャチに狼?」
画面に映るのはプレイヤーに拘束される仲間たちだ。
それをやったのは“ズル”をしたプレイヤー。
怒りは静かに燃え上がる。
体から湧き上がる熱で髪が逆立った。
それと同時に、カーマインの瞳が一際煌々と輝き出す。
「よくもやってくれたな」
――
第2章 ホワイトスパイダークイーン単独イベント
第1章、ここまでお読みいただきありがとうございました!
次回から第2章突入です。
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