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第二十七話

27

その瞬間は、一生焼き付けられる記憶になる。その場の誰もが本能で察した。


ただの第1形態で……彼女の姿が劇的に変わったわけではない。


それなのに、目が離せない。


圧倒的なオーラを放ち、皆の上に君臨するその姿は、まさにクイーンだった。


そして熊、彼は――



◇◇◇

光り輝く瞳を完全に開く。

手に持つ鎌を握りしめ、狙う獲物はあの向こう。


やることはただ一つ。


私はそこから一段飛び、空を蹴る。

音速ともいうべき鋭さで、鎌を熊へと振るった。


ガキィィン


鎌と剣が火花を散らす。

さっきと同じ状況。

しかし、今回は立場が違う。


「私が優勢だ」


「……!」

私は一度距離を置く。


今度は暴れるバネのように、熊を中心に空間を縦横無尽に駆け抜けた。光の道筋は蜘蛛の巣を作り、獲物を絡め取る。


その軌道の中で、鎌が次々と牙を向いた。


さっきの連撃のお返しだ。


「あははは!」

笑いが止まらない。

同時に、このイライラが収まらない……!

連撃の締めくくりに、加速を乗せた蹴りを叩き込んだ。


「……ぐっ」

熊が腹を押さえ、膝をつく。


つまらない、つまらないつまらない!!!


「まだいけるわよね?」

そんなんで潰れんなよ。

無防備な熊へ、再び鎌を振り下ろす。


間一髪で剣に阻まれたが、彼は鎌を払い、距離を取ると、今度は向こうから仕掛けてきた。


いいよ。正面からやり合おうじゃん。


――

「何が起こってんだ……」

プレイヤーの目には、もはや何も見えない。ただあちこちで二色の光がアーチを描き、激しい火花が散るだけだ。

「こ、こんなのっておかしいわ……」

――


ほらほら、どうしたの?

視線でそう熊に訴えかける。


熊との相性は、工夫でどうにでもなる。


攻撃が当たってダメなら避ければいい。

 鎌で切れないなら刺せばいい


足りない経験や技術は、感覚で補える。

私には、それができるのだから。


しかし、気になることがある。

さっきから、こいつは妙に静かなのだ。


地面には傷から滴り落ちた小さな蜘蛛たちがきゅっと集まり団子になっている。


顔にできた傷の血を手で拭いとり、熊を睨みつけた。


お前は、一体何を考えている……?


◇◇◇

少し戻る



ドクン



心臓が大きく音を立てる。

その一回一回鼓動をする度に

視界が赤く、狭くなる。


憎たらしさか……それとも苛立ちか?

どうしてもこいつを睨まずにはいられない。


ぎりりと歯を食いしばる。

なぜ、これほどまでに目を見開いてしまうのか。

俺はこいつが目障りで仕方なかったはずだ。

なのに、あの瞬間――あいつが瞳を開けた時。


どうして「美しい」と思ってしまったんだ。



「本気出すわよ」

蜘蛛がそう言った瞬間、彼女は視界から消え、次の刹那には目の前に迫っていた。


ものすごいスピードで振り下ろされる鎌。俺は重い剣を引きずり出すようにして受ける。

(……何とか反応できた)

なぜか心の底から安堵した。


そうして、蜘蛛の猛攻が続く。

きっと仕返しのつもりだろう。

こいつはそういう奴だ。


あ?そういう奴……?

なぜ俺があいつを知っているみたいに……


いや、何も知らない!!



皮肉屋で、マイペースで、自信家。おまけに周りをすぐに巻き込む!

こんな奴、嫌いで嫌いで仕方ない、そうだろう!


俺は離れた蜘蛛に対し、無理やり攻撃を仕掛ける。


「うおおおおおお!」

一振りに全力を込める。

もう、何もかもどうでもいい!


俺が俺であるために、お前に勝つ。


ホワイトスパイダークイーン!!!




そして、放たれた一閃。


世界がスローモーションのようにゆっくり動く。


剣が空気を裂き、その残光が斜めに蜘蛛の首筋へ線を引く。それは寸分の狂いもなく


――届く。



ようやく、引導を渡せる。

これで俺は前に進める

正体不明のこの感情も、ここで断ち切るんだ!










ガキンッ



次に聞こえたのは、その硬質な音。


そしてその音は――

 俺の剣が地面に落ちた音だった。


視界を舞い上がる光の粒子。

その発生源は、俺の全身から。


全身に通るのは蜘蛛の……蜘蛛の糸。

 俺の周りには光が反射するほど磨かれた鋭い糸が張り巡らされていた。


「まあ、ナイストライ」

蜘蛛は流し目で、軽くそう言った。

煌々と光る瞳が、俺を真っ向から射抜く。


ビシッと俺に指を指すと


「もう来んな」


糸でぐるぐる巻きにされた俺は、そのまま自分のフィールドへと放り捨てられた。





◇◇◇


燃灰の聖域

 

「…………………………………………


 あぁ――

 ああああああくそがあああああああああ」


 フィールドがその圧に大きく揺れる。

 

ひとしきり叫ぶと、俺はぼーっと立ち尽くした。



 

 ……悔しい

 

 

育に頼んでここまでやってきたのに

 何も、何も分からなかった!


体が動かない。

悔しいはずなのに、胸の奥がざわついている。


目を閉じればいいのに、どうしても閉じられない。

あいつの姿が、まぶたの裏にまで焼き付いて離れない。


何かを呟こうとして――やめた。

何を言うつもりだったのか、自分でも分からない。

 

「本当に……なんなんだよ――」



 

 

  ◇◇◇


 あいつ確か堅物キャラだったよな……

 私そこまでのことしたかな?あいつの視線が痛くて痛くて仕方ない。

 ろっくとの対決を邪魔されたこと、そんなに嫌だった?

てか、ボス姿初の全力が熊とかやるせねぇ~。

 

……ま、いいか。


「……別にどうでもいいし」


軽く首を振って、記憶の再生を止める。

 

 変なやつのとこはもう忘れよ。


 私は指をパチンと鳴らす。

 途端にボロボロの服は綺麗になり、髪は整えられ、汚れは無くなった。


 地面に降りると、蜘蛛に合図し、プレイヤーを解放させた。


「やる?」


「「「「「いいえ……」」」」」…

彼らは体を震えさせ、

 気を使うようにこちらをチラチラと見た


 うん、

 ちょっと……怖がらせすぎた。


 ◇◇◇

 


 そんなこんなで問題もありましたが、

 イベントでの私たちの出番は終わった。


「お前らまじでなにしてんのwwwwwww」

「だっはははww」

 ほかのボスらにクソ笑われたけどね??


 その後熊は不貞腐れたようにまた静かになった。

 それでいいよ。勘弁してくれ。

 もう相手したくないよぉ。


 ――


「なぁ、サソリはん」

「ああ、ツルさん」


「「もしかして」」

 

 ◇◇◇

蜘蛛と熊の対決はすぐにプレイヤー間で話題になった

 

「やばいよ!

 ??ボス同士で戦ってんだよ?」


「互いのこと熊とか蜘蛛って呼んでたで!」


「あいつらまじでなんかあるじゃん」


「もしそうなら設定の作り込みえぐない?」


「運営深堀まだ?」


「まじで次のイベント楽しみなんだけど!」

 

「いや今の絶対イベント演出だろ」

「違うって!AIの自律戦闘だって!」

「いや距離感おかしくなかった!?完全にタイマン空間できてたぞ!」

 

「てか熊負けたあと固まってなかった?」

 

「あれ絶対感情あるって」

 

「運営説明しろwwww」

 

  ◇◇◇


◇◇◇

「蜘蛛様、熊様。やってくれましたね」

いつもの会議室。

 みんなが集まる中、運営の育がそう切り出した。


 

「いや、文句ならこいつに言ってほしいんだけど」

私は、苦い顔で熊を指さした。


 それに驚いた様子の育は両手を振り、頭を振る。


「あっ、いえいえ文句ではなく。おふたりのお陰でまたプレボスの人気が高まりまして」


え、うーん。それはそれで嫌なんだが。


「このままいけば、次の【??ボスイベント】は期待できるものになりますね!」


「そうだね。せっかく運営もプレイヤーのレベルをあげるためのイベントを用意したんだから、そうしてもらわないとね」

 蛇はその舌を見え隠れさせながら頷くようにそういった。

 

 

「え? い、いやぁ? そんなつもりでは……」

困ったように照れる育に、フクロウが元気に手を挙げる。

「大丈夫だって育! みんなわかってるよ!」

 

それを合図に、会議室に皆の笑い声が響いた。

……まあ、丸く収まったのならいいか。熊もこっちを見ていないし。


 

「なあ、蜘蛛はん」

不意に、隣から声をかけられた。ツルが無表情ながら、少しだけ眉を下げてこちらを見ている。

 

「どうしたの?」

 

「蜘蛛はんが、ちょいと心配でなぁ……」

熊とのことだろうか。それとも、私が無茶をしたとでも思ったのか。

 

「うちは、蜘蛛はんと仲良ぉしたくてな」

「え?」

いきなりツルが可愛いことを言い出した。クールな彼女から溢れ出る無垢なオーラが眩しすぎて、直視できない。

 

「も、もちろん。ツルがいいなら」

「ほ、ほんま?」

 

ぱぁっと、彼女の周りが輝いた気がした。

感情を表に出さないタイプなのに、隠しきれない喜びが伝わってくる。眩しい。

私は思わず、その輝きから目を守るために顔を覆った。

 

「く、蜘蛛はん?」

「……何か話すとか、そういうことしかできないのだけど」

「ええ。それだけでもええ」

ツルは嬉しさを噛み締めるように、自分の手をぎゅっと握った。

そこまで喜ばれるなんて。

 なんだか、こっちが恥ずかしくなってくるな。


 

しかし、その和やかな空気のすぐ横で。

 

「なぁ、熊。なんであんな行動をしたんだ?」

静かに座る熊の前に手をついて、シャチが話しかけた。

 

途端に、全員の首がぐわんと同時にそちらを向く。

 

(何やってんだよ、シャチ!)


 

「文句があるわけじゃねぇが。……筋が通ってりゃな」

どこか煽るような言い方。

 

「まさか、考えなしに暴れたわけじゃないよな?」

シャチの目に力が入る。

低くなった声は、その場の空気を一瞬で重くした。


その場にいる他の誰も口を挟む気はない。

 皆、達観して、静かにその様子を見守った。


 

「なぁー、なんでみんな黙って――うが」

「黙ってろ、狼!」


 一人を除いて。

 


たがそんな状況に対し、熊は

 

「別に」

 

ただ一言、それしか言わなかった。

 イベントで見せたあの激しさは欠片もなく、

 今までの、寡黙で堅物の熊だった。


「へぇ……」

シャチは口の端を少し上げる。

 

 熊の適当にも見える返事を特段気にする様子もなく、自分の席に戻った

 

脇で、ツルが小さく唸る。


「……うーん」


「どうした?」


「いやな。

 シャチはんも大変やなぁ思て」

 

「そうか?」


「それに……熊はん何考えとるんやろか」


 私は頬杖をつき、ふぅとため息。

 あいつが何を考えているか?


 私が1番知りたいよ……

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― 新着の感想 ―
はい好き〜!!!もう好きですね!!この言葉に尽きます!!! 熊の『そういう奴……?なんで俺がそんなこと知ってんだ。』(←本文抜粋)ていうところで、熊は蜘蛛(てるてる)とプレイヤー同士で戦ったことがある…
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