第二十六話
何故ここにいるのか。
どうしてここまで、こいつを意識するのか。
俺にも分からない。
よく考えれば――
仲間割れに利用されたこと。
ロックろっくとの対決を邪魔されたこと。
こいつとの因縁なんてもの、ただのそれだけだ。
でも視線を向け始めたのは、
イベントが、終わってすぐの時……こいつに余裕でいられたのがムカついたから――だった気がする。
こいつは相手をしっかりと見ない。
周りに興味が無いから。
知らないだろうな、俺がどれだけお前のことを睨んでいるか。
最近俺のことを見たのは2回。イベントのペアが同じになった時。
とても嫌そうだったな。
俺は嬉しかったよ。こんな機会が来てくれたのだから。
俺は握る剣を肩まであげる
狙うは悠々と座るあの女王様。
ここにいるのに、目が合わない。
だからこそ、投げたんだ。
俺の大剣は空気を跳ね、衝撃波を生み出しながら一直線。
蜘蛛の頭の真横に突き刺さる。
「よう、蜘蛛。会いに来てやったぞ」
◇◇◇
「え?ちょっと待って?あれエンバーグリズリーじゃない?」
「なんでここにいんの?」
私が相手をしていたプレイヤー達がざわめきたつ。
ここにはいないはずの【??ボス】の1人。
私は俯きながら、大切な椅子に刺さる柄を握る。
「サイド」
私はそばに控えていたサイドを呼んだ。
ころんと可愛く寝転がっていたが、
私の声に反応すると、どデカい咆哮をあげる。
その体は大きくなり、一瞬で玉座の空間を埋めつくした。
「ご挨拶だな熊。失礼だとは思わないのか?ご丁寧に大切な武器を投げてくれて」
「仕方ないだろう。
偶然俺の前にシークレットフィールドが現れて、
偶然俺が触ってしまって、
偶然その先がお前だったってだけだ。
そしてここから出るにはお前を倒さないとだろう」
は?そんな偶然あるか!
シークレットフィールドが現れた?
それが本当なら、育公認か。
気に食わないと思われているとはわかっていたがここまでする?
熊は堅いやつだと思っていたんだが。
「あなたがそんなにユーモア溢れるやつだったとは思わなかったわ。別に私を倒さなくても返してやるわよ」
「それでもいいだろう。
もしかしたらまた偶然が起きてしまうかもしれないが」
ちっ、
こんなやつだとは知らなかった。
「面倒なやつめ。そんなに相手して欲しいの?」
指をパチンと鳴らす。
白い壁から蜘蛛たちが現れた。
蜘蛛達はプレイヤー達に近づく。
「え?な、何?」
プレイヤー達は怯えたが、すぐに震えは止まる。
蜘蛛たちはこっちに来いと言わんばかりに前に進んだ。その案内のまま進むと、そこには小さなくぼみが。
それを見るとそこにいるみなが察した。
ああ、安全なところなんだ。
予想外だけど、こんなチャンス滅多にないわ。プレイヤー達に見せつけてやろうか。
良かったわね、特等席よ。
そこから見て、もっと私たちを好きになって。
私はプレイヤーたちが避難したことを確認すると
私は大剣を椅子から抜いて、
空気をきり、下にはらう。
「自分で投げたのだから、自分で取りに来なさい?」
「ああ。そうさせてもらうよ」
その言葉が合図
熊は位置を見定めると、こちらに向かって走り出した。
それも、ものすごいスピードで。
私がいる空間とプレイヤーたちがいる空間は高さが違う。
ボス部屋という大きな空間の中に、私のいる場所は高い位置にある。
その場所にこいつは壁を走って向かってきた。
「サイド!!落とせ!」
私の声に合わせ、サイドはまた1度咆哮を上げると、
その巨体を覗かせ、壁を登ってくる熊に
サイドの前足が空気を裂く。
本来ならどんなプレイヤーも粉砕する一撃。
それを熊は――素手で止めた。
「ぎぇぇぇ」
サイドは悲鳴をあげるが、それでも攻撃を続ける。
しかしその結果は振るわない。
「お前たちもサイドの加勢を――」
私が蜘蛛たちにそう指示したが遅かった。
「き!」
サイドの声が耳を抜ける。
急いで振り返る
しかしそこにあるのは熊の拳だった。
「……なっ」
反射で、
手に持っていた熊の剣で受ける。
「剣を取りに来たぞ」
「この――」
私は剣を握りしめたが熊の拳が弱くなると、
手の中にあった剣はふっと消えてしまった。
「……はっ」
一瞬驚いたがすぐに顔を戻す。
あまりのスムーズさに鼻で笑ってしまった。
熊は剣を握り、私の目の前でその状態を確認していた。
「あぁくそ」
思わず呟く。
やっぱりそうか。
私はこいつと相性が悪い。
近距離
超火力
高耐久
どう考えたって
スキルと数で翻弄する私が削りきれる訳がない。
さらに弱体化もある。
スキルに頼れる私は基本ステータスを大幅に削られた。しかしこいつは身1つ。私よりは削られていない。
だからといって蜘蛛ちゃん達が、数で勝てる相手でもなかった。
「じゃあ行くぞ」
やばっ
私はこれもまた反射で【シルヴェイン】を取り出し
ガキィィン
熊の大剣と私の鎌が火花を散らす。
しかし押されているのは私だ。
「ちっ――離れろ!」
私はありったけの力で熊を押し返した。
熊は軽く飛ぶとひらりと着地。何事もなかったかのようにまた構える。
一方私は、衝撃が骨に響く。
肺の空気が一瞬で抜けていく。
もーこいつ嫌いなんだけど。
今度はその大剣をとんでもない速さでこちらに振り始めた。
一撃だけじゃくて連撃もするようになったか。
そんなもの、私に受け入れるわけはなく、
何回か食らってしまった。
だけど私は、血が出たら――
そう思ってたのに
「あ?!」
突然熊につけられた傷から炎が飛び出す。
あつい!
私は熊から距離を取るために空を飛ぶ。絶対に熊が届かないところに。
数ヶ所しかない傷口から赤黒い炎がさらに燃え上がる。
それは私の血とHPを蒸発させていった。
あーもう!そこまで考えてるなんて!
傷が燃やされて血が出ない。
こんなのろっくでもやってこなかったわよ!
炎が消えない。
回復も間に合わない。
何かをしようにも
スキルの発動ログが、ひとつ、またひとつ灰色になる。
弱体化で。削り負けで。
数も意味がない。
「……私が勝てないと?」
自分の口から出た言葉に、自分で凍る。
しかしその言葉を認識した途端、笑いが止まらなくなった。
「く――あはははは!!」
思わず腹を抑え、背を仰け反るように笑う。
だって、だって!それを言ったのは他でもないこの私なのだから!!
もういい。もういいよ
うざったらしい熊の野郎
そんな様子を熊は憐れむようにこちらを見ている。
私はそれに気づいてしまった。
ブチッ
私は思わず、顔に影を落とす。
なんだろう。
ものすごくぶっ壊したい。
手のひらに爪がくい込み、
白い血が滲み出るほど硬い拳を握る。
これほどまでに殺意が湧いたのはいつぶりだろうか。
ああそうかい
そんなに言うだったら。
私だってやってやるよ。
私は燃える傷口を抑える。この痛みを覚えておくために。
風がひとつ、白い髪を靡かせる。
その瞬間、この場所の空気を変える。
ゆっくりと瞳を閉じる。
私は私に問う。
私は誰だ?
そう。
「ホワイトスパイダークイーン」
ゆっくり瞳を開ける。
もうさっきまでの私では無い。
誰も動かない。
空気すら張り付いたように静止する。
熊だけがゆっくり構え直した。
私は手の平を上に向ける。
ふたつの手の中から芽生えたのは、あまりに美しく光る1本の糸。
1本、また1本と生まれ、最終的には体を覆い尽くすほどの量となる。
その糸は手から溢れ出す。
それは傷から燃え盛る炎をも優しく包み込んだ。
防火性の糸は炎への燃料を遮断する
そうして私の体からあの憎たらしい炎は消えてなくなった。
そこはお優しいんだな。
消えてよかったわ。
「きれい――」
誰かがそう呟いた。それが誰か本当に分からない。
傷だらけの肌、ボロボロの服。
けれど……ええそうでしょう?
私はとても綺麗で、
そして強いの。
私は熊の方を流し目でみる。
いいかしら熊?あんたに第2形態は見せない。
あんたが相手をしているのは、ホワイトスパイダークイーンだけじゃない。
ルナオン最強の悪役プレイヤーてるてるだ。
ここからはてるてるとホワイトスパイダークイーンが相手をしてあげる。
相性なんてお構い無しに進んできたてるてるが負けるはずないわよ
私のカーマインの瞳がより1層煌めく。
「本気出すわよ。来なさい」




