第二十三話
「よし、3回目」
プレイヤーから横取りした素材を拾い上げる。
次はどこ行こうかな――
思わず手に入れた素材を空にかざす。
はぁ……
「楽しいーー!」
ここ最近はこういうこと出来なかったからな。
変なスキルがメールできて、見たことの無い蜘蛛のモンスターと戦って、育と出会って、イベントボスになった。
まあ悪くなかったけど、やっぱりこっちだよね。
自由に動けて、自由に狩れる。
プレイヤーとしての私!
次はどこ行こうかな。
東の森か、それとも――
「いたぞ!てるてるだ!」
お!
新しい獲物ね。
振り向くと、5人パーティがこっちを走ってくる。
装備を見る限り、ガチ勢っぽい。
さすがにてるてるがいると情報が回るか。
まあいいよ、今日はやる気で満ち溢れてんだ!
◇◇◇
「最近のルナオンすごくね?力入ってるって言うか」
「ねー?ほんと。この前の【??ボス】だっけ?あれ凄かったわ」
「強すぎーって、言ってたら弱体化したやつなw」
――
「【??ボス】の文字は中に何が入ってるか」
「やっぱり高性能AIとか?」
「かなり自由に動いてたよな」
「そんな安直か?もっと捻ってるかもよ」
「やっぱのんドールから情報買うべき?」
「せっかくなら自分たちで考えてぇけどな」
――
「おいてるてる出たってよ!」
「まじか!どこだ!」
「地図にピン刺した!現地集合な!」
「最近出てなかったんだ!一撃入れんぞ!」
◇◇◇
街と街の間の街道。
陽の光が差し込む中、数人の影がそこで火花を散らす。
片方は連携を組み、息を合わせ、一人の人間を仕留めようと動く。
そいつらの斬撃は空を裂き、魔法は光の軌跡を描く。
ならば、私は?
ただ、舞うように避ける。
四方から迫る刃も、放たれる魔法の玉も、
何の障害物もないこの空間で、まるですべてが見えているかのように。
風が頬を撫でる。
――あーでも、これだけじゃ飽きたかな。
私はインベントリから、ひとつの武器を取り出した。
それを手にした瞬間、空気が変わった。
先まで伸びる鎖が一閃。
音もなく、光だけが走る。
途端――
私を取り囲んでいたプレイヤー全員の足が、何かに絡め取られた。
5人の視線が、青空へと移り変わる。
地に倒れ、見上げた先。
逆光の中、中心に立つその人の手にはモーニングスターの持ち手があった。
「ああ……」
誰かが呟いた。
「……敵わない」
美しく広がる青空に
一閃の銀の光が波打った。
その結末はもちろんお察しの通り。
星球をひゅるりと回収。さっきまで意気揚々としていた彼らは今、お空の向こうだ。
まあ私にはこんぐらい楽勝なんだけど!
――
しかし、そんな私にもこのゲームで悩みがある。
それは……
『てるてると付き合ってるって奴がいるらしい』
最近ネットでこんな情報が流れてくるんだ。
◇◇◇
「はっはー!見たか見たか!」
男は街の広場で仲間に自慢げに語っていた。
「俺、てるてると付き合ってんだわ」
「マジで?」
「マジマジ。だから俺に手出したら、てるてるが黙ってねえぞ?」
周りのプレイヤーたちは半信半疑ながらも、一歩引いた。
てるてるの名は、出すだけで十分な抑止力になる。
男はほくそ笑んだ。
楽しいぜ、この感覚。
勝手に信じて、勝手に恐れてくれる。
◇◇◇
私は腕を組んで頭を捻らせた。
正直、こういうのが一番困る。
過去にも何度かあった。
有名プレイヤー故、仕方ないことなのだろうけど。
ぶちのめせばいい?
そう簡単じゃない。
潰したら潰したで、私を標的にしてる連中がそれを利用してくる可能性がある。
てるてるが気に入らないことをすれば向こうから接触してくるんじゃないか!とか、考えるやつが出そう……。
まあ、無視するのが一番か。
私の邪魔になるようなら――そん時はそん時だ。
「あれ?てるてるここにいんじゃん」
後ろから声が大きく響く。
偶然通りかかったのだろうか。
他のプレイヤーが私に気づいてしまったようだ。
私は首のマフラーをグイッとあげた。
うーん、5連続ぐらいか?ふっ、まあいいけど?
今の私はおかげさまですっきり状態だから、多少は相手してやろう。
そうして私は後ろを振り向いた。しかしその視界に飛び込んできた光景に目を丸くする。
街道の向こう、街の門をくぐり抜けた先。
何十、いや何百とも数えられる大量のプレイヤーが我先にとこちらに向かってきているではないか!
おもわず近くにいたプレイヤーをみた。
他でもないこの……この私が――
てるてるがいるというのに
ぽちぽちとウィンドウをさわっているんですけど?
「いたぞ!!あそこだ!!!」
その集団からたくさんの声が聞こえる。そしてそれは確実に近づいてきていた。
ああ。
あまりの光景に、思わず笑いそうに……いや、涙が出そうだ。
私は天を仰ぎ、目を閉じて優しく微笑む。
ふー……。別にそこまでとは言ってないんだよなぁ。
私はまた足を軸にくるりと半回転。
そして反対の町に思いっきり走り出した。
――
だけれども!ただの一般プレイヤーが私の全力ダッシュに追いつける訳ないんだよね。
私は悠々と街の門をくぐり抜ける。
そうして入ったのはルナオンの世界にいくつも存在する都市シリーズのうちの一つ。数字の名を冠する【システリア】。少し暗い雰囲気の都市。その第一印象の通り、ここは裏側の人間(そういう設定の)プレイヤーが集まる。通称ルナオンの裏路地……らしい。
別にこっち側の人間というわけではないが一応顔は聞く。
距離は離れているがそろそろあのプレイヤーの塊がやってくるだろう。
「どっか隠れて、落ち着こう……」
この後、プレイアブルボス略してプレボスの集まりがあるからね。適当なとこでセーブしてログアウトしなきゃ。
そう考えながら、私は建物の隙間に足を踏み入れた。
この街には道がない。ただひたすらに建物が並び、その合間を縫って進む。
まるで迷路だ。
曲がり角を曲がり、また曲がり角。
建物の隙間を縫うように進む。
ここを右に曲がって、次は左で――
あれ?
また同じ場所に出た気がする。
迷った?
参ったな。そろそろあいつら来るんじゃないか?
その時――
カツン
力強く靴を鳴らす音が響いた。
「!」
振り向く。
斜めに入る建物の影。
そこに、誰かが数人で立っていた。
黒いフードを深く被った人物たち。
最初からいたのか?
しかもあんな人数が。
前のヤツ以外、足音も気配もなかった。
「何用?」
私は睨むように言い放つ。
私の道を塞ぐのであれば――敵だ。
しかしそんな私の予想とは裏腹に、一番前のヤツの声は柔らかかった。
「お待ちしておりました、てるてる様」
フードの奥から静かな声が響く。
「落ち着ける場所がございます」
「はぁ? 何言ってんの。ついていくわけ――」
後ろから声が聞こえてくる。
「この辺だ!」「てるてるを見失うな!」
まずい、近づいてきてる。
「こちらへ」
フードの人物が、横の壁に手を当てる。
カチ、と音がして――壁が開いた。
「時間がありません。どうぞ」
気づいたらそいつの後ろにいた複数人が消えていた。
いるのは目の前のこいつだけ。
本当なら行かないのだが。
この柔らかい声が、何故か警戒心を解いてくる。
「てるてる様」
壁を押し、こちらに手を伸ばす。
「ちっ……」
私は後ろの大きな足音に押され、手は握らずにその中に入った。
壁が音もせず、スっと閉まった。
私はその壁にもたれ掛かる。付いてきてしまったが、あのフード集団が敵ではないと言えないのに。
「てるてる様、奥までご案内を」
そう考える私にこいつはそういった。
「嫌だけど?」
私は呆れた声でそう言った。
「知らない人にはついてかない。これ小学校でならうことよ。匿ってもらってありがとうだけど、敵多き悪役プレイヤーとして、あんたら信用する訳にはいかんから」
壁に手をつけ、頭を傾げる。しかし、その体勢に隙はなかった。
はずだった
目の前のこいつはパンと音を立て、手を握りしめた。
「かっこいい……」
「え?」
予想外の言葉に体勢を崩してしまう。
すると次はウィンドウを開き、数タップすると直ぐに消し、今度は土下座をし始めた。
「ちょっ…あんた何してんの?」
私があわあわと困惑していると、奥からまたドタドタと走る音が聞こえる。そいつらはまた皆同じフードを被りマントを翻し、これまた同じく土下座を決めだした。
「な、なな」
何が起こっているか分からない。置き場所のない手がぶるぶる震える。
すると
「あぁ、てるてる様。ご挨拶遅れました。一同、あなた様にお会いしたく存じておりました。」
「え?」
目の前の男がバッと顔をあげる。
「我々、てるてる様のファンです」
「ふぁ、ファン?」
「ここにてるてる様をご招待しましたのは、てるてる様に
ファンクラブを作ることを許可して頂きたく!」
え?
なっ、なんだってー??




