第十九話
「あー、流石にもうフクロウ倒してるか」
目覚めスッキリでゲーム起動。フクロウが倒されたという過去の通知。
見たかったなぁ……まあ仕方ないか。
長いロードを終え、私のエリアにやってくる。
「さーて。そろそろしっかり『ボス』やろうか」
アイコンが光り、全プレイヤーに通知が行き渡る。
ホワイトスパイダークイーン様のログインだ。
ウィンドウを弄りながら準備を整える。
「行きますか!」
そう決めた時だった。
視線の端に信じられないものが映る。
それは私が選んだプレイヤーランキング1位ロックろっくと、
無愛想な大男、熊だった
「あーーー!ろっくが熊と戦ってんじゃん!!」
イベントボスラスト!
一撃必殺の重量級ボス!
そしてボス同士の交流を拒んだやつ!!
謎の多いエンバーグリズリーとろっくが今戦っている!
目がギュインと大きく開く
急いで玉座に飛び乗り、ウィンドウを最大まで大きくする。
さあどんな戦闘を繰り広げる?
これは仕事してる場合じゃないな!
熊はろっくとどう戦う?
「せいぜい楽しませてよね!」
――
【管理室】
モニターにキャッキャッとウィンドウを覗き込むホワイトスパイダークイーンの姿が映る
「あの……育さん」
「あぁ……まあプレイヤーがいない間なら……」
ここには多くのスタッフがいるが、皆その行動を仕方なく見守る。
でも。
楽しいのならファンとして嬉しい
ああ。私もどうしようもないな
ふっと笑い、画面に映る彼女の顔を見る。
「全く、仕方の無い方だ」
◇◇◇
【燃灰の聖域】
このエリアの入口は至ってシンプルだった。
飾り気が全くなく、愛想のないただのトンネル。
しかし、そこを潜ってみたがその先はどうだ。
とんでもない熱風がこの身を通り過ぎたあと、
あまりの光景に全員が息を飲んだ。
このステージ全体が赤黒い。
植物が生き残ることが出来ない、ヒビ割れた地面。
周囲は熱気で包まれ、息がしづらい。
ここはその火山の麓にできた穴のようで
目の前には顔を見上げてようやく頂点を確認できるほど高い山、
黒褐色の火山を確認できる。
それは今も鼓動を打っているかのごとく
どくどくと溶岩を体のヒビから垂れ流していた。
しかし、空だけは俺たちに明るい青空をみせてくれる。
それがここ【燃灰の聖域】。
では話を戻す。
最初に皆が息を飲んだと俺は言った。
それはこのステージにではない。
その中心に立つ、一人の男に向けて。
やつは彼より大きい剣を地面に突き刺し、背中を見せている。
だがその周りにはプレイヤーの死体の山が積まれていた。
それらは今もゆっくりと光の粒子に分解され、消滅するのを待っている。
全身が恐怖を訴えた。
その背中から漏れ出る威圧感は他のボスと比べても感じる恐怖が段違いだった。
他のボスのようなトリッキーな色んな要素など一切なく、
ただただ剣をぶん回す。
そんなやつだと本能で覚った。
良くも悪くも1番このゲームのボスだった。
だが恐怖を理由に逃げるなんて自分は許さない。
だって俺はロックろっくなんだから
あんなやつ、お化けなんかより全然怖くないね!
「ろく……」
振り返ると、恐怖に苛まれる3人の姿があった。
「いやあ、あはは。ろくは覚悟決めれたみたいだね」
「情けないな。俺たちだけこんなにビビっちまって」
エドとラーナは体を震わせ下を向く。
「あなたが、ランキング1位であるのはその度胸があるからですね」
のんが2人の前に出る。だが俺には見えている。震える手を必死に抑える様子を。
「大丈夫。怖いのは、この威圧だけだ、そうだろ?
これはゲームだ。いくらでもやり直せる」
俺は3人の手を掴み、走り出す。
照れくさくて言えないけど、俺がランキング1位なのは3人のおかげなんだ。
俺たちはボスの背中真正面に立ち止まる。
「おいエンバーグリズリー。勝負だ!」
まるで子供がちょっかいをかけるような言い方。
それに対し、ボスは後ろを振り返る。
潤朱のベリーショートの髪を揺らして、その目をゆっくり開く。
瞳の色は明るいガーネット。ホワイトスパイダークイーンとはまた違う赤だった。
凛々しい顔立ち。しかしその眼力にやられてしまう。
ボスはこちらを認識すると大剣に手をかける。
腕に血管を浮き出させ、剣を一気に抜く。
その衝撃でここまで熱風がやってきた。
剣先をこちらに向け、口を開ける
「いいだろう。相手してやる」
しかし彼の眼は虚ろで、こちらを向いているのに俺たちを見てなかった。
ボスは足に力を入れる。地面に亀裂が走り大きく割れた。
途端その剣が目の前に流れてくる。
気づいたら体をのけぞらせていた
その攻撃は目の前できれいな赤の弧を描いた。
「あっぶな......」
すぐさま距離をとる
今回のイベントボスはみんな先制攻撃が好きなようだ。
おかげで反応できるようになった。
「援護を頼む!!」
俺は三人に向かって声を張り上げ、
大剣を大振りした反動で固まっているボスに切りかかる。
しかし、それに気づいたボスは剣を持ちなおし、ぎりぎりのところで防がれた。
剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
なんて力だ!どんどん押され、後ろに後ずさる。
「「ろく!」」
ラーナとエドの声だ
直後、後ろから魔法と短剣の嵐がやってくる。
それをみたボスが一瞬力を緩めた
俺はその瞬間を逃さず、気合を入れて押し返した。
ボスはそのまま魔法と短剣を避けながら下がっていく
「ろく、回復とバフを」
「ああ」
最初のダメージと同様にギリギリで避けても意味はない。直撃よりはましだろうが、
HPが三分の一まで削られた。
「エド!ろくのためにも時間稼ぐよ~」
「おうよ!」
ありがとう二人とも、情けないリーダーでごめん。
しっかり見ておくよ。突破口を見つけるために。
二人は遠くのボスに向かって攻撃を始める。
エドはそのまま短剣で攻撃。ラーナはボスの妨害を行った。鎖を出現させ、その身に絡ませる。
しかしボスはその鎖を腕力で引きちぎると、短剣をいなしていった。
ラーナは少し苦い顔をし、
「やっぱタイダル・オルカみたいにがっちりつかまないとか。鎖じゃ無理かも」
そう考える。
「どうする?」
エドも心配そうだ
「二人とも、それでいい。いろんなことをやってくれ!」
俺は声を張り上げる。
攻撃手段がこのボスには大剣しかない。同じく一つしかないサンドスコーピオンと違ってでかいリーチや汎用性がない。だからこそ複数方位からの攻撃はきつくなるはずだ
「終わりましたよ、ろく」
HPが満タンになり、移動速度上昇が付いている。
「ありがとう」
俺は少し考え、のんの顔をみる
「のん、お前も攻撃に参加してくれないか?」
のんは黙って聞く
「あのボスはたくさん手があるほどいい。のんがあんまり動きたくないのは知ってる。だけど久しぶりにのんの攻撃がみたいなって」
のんはにこっと笑った。
「ろくがそういうなら」
俺たちは急いでエドとラーナのところに向かう
それに気づいた二人はボスへの攻撃を続けながら、こちらに近寄る。
「も~おっそい!なにしてたわけ?大変だったんだから!」
ラーナの文句は甘んじて受け入れようじゃないか。その通りだから。
「みんな、いいか。あのボスを倒すために一斉に攻撃する。のんも含めてな」
「つまり、のんの攻撃をサポートするのか。のんのあれはどでかいからな」
のんのもつ攻撃は両極端だ。ちくちく攻撃する弱いのと、どでかいビームを放つ一撃必殺の攻撃。
「会議は戦闘前にやれ」
遠くのボスがそう言った。来る。
すると熱風追い立て、
一瞬でこちらまでやってきやがった。
奴が狙ったのはのん。俺は何とか二人の間には入り込み、ボスの攻撃を防ぐ。
「全員攻撃!」
それに反応し、あちらこちらから様々な弾幕が降り注ぐ。
俺にも当たり判定はあるが、そこは長年の呼吸で合わせる。
二人の攻撃に俺の剣が加わった。
ボスも先ほどより辛そうだ。
俺に攻撃が当たりそうになったら二人が止め、二人に攻撃が行きそうになったら俺が止める。
そうして何とかこらえた。俺も慣れてきて、余波の被ダメを減らすことができ、こちらの攻撃も当たるようになって来た。
相手のHPはどんどん減っている。といってもまだまだ残っているがね。
すると突然ボスは大振りをかます。
俺はそれを避けた。しかし次に目を開けたときはボスは後退していた
何かが変わる、そう気づいた。
「今までで一番戦いがいのあるやつらだ。少し力を出そう」
大剣を顔の前で横にする。
すると、手元から刃先にかけて、禍々しいほどの赤黒いオーラが現れる。
うーん本格的にまずいぞ。
「のん今どうだ?」
「あと五分いただきたいです」
「まかせとけ」
それだけためた威力は俺らは知っている。
ボスに向き直る。なんと恐ろしい剣になっただろうか。
俺たちはポーションをグイっと飲む。準備完了だ。
俺は飛び出し、剣を交える。
「このオーラをみて自分からくるか」
暑い!近くにいるだけでオーブンにぶち込まれたみたいだ。
先ほどと同じように互いに助け合う戦い方をしているが断然つらい。HPがどんどん減っていく。ポーションで回復を繰り返すが——
「あ……」
足を滑らした。疲労がここまであったとは。
ボスはその隙を見逃さず俺をたたき切る。
HPが瞬く間に無くなってしまった。
「くそっ」
俺は少し迷ったが復活アイテムを使った。
「これ後一個しかないんだぞ」
完全にやっちまったな。だがそのおかげで今度は奴が体勢を崩した。
そこに大きい一撃。
うまくはいった。
そこに魔法と短剣の雨が降る
ボスはすべていなせずダメージを負い、その場に膝をついた
そのとき、ボスは信じられないものを見るようにある一点を見る
「みなさん」
おっ、のんの準備ができたようだ
のんの方向を見る。天まで届く金の光がゆらゆらと現れる。
のんが目を開く。スキルに引っ張られ金に変わった瞳がきらりと光輝いて。
狙いはこちら
来る。
俺はその場から離れようとした。しかし何かに足をつかまれた。
そこからジュっと音がし、とんでもない熱が伝わってくる。
ボスだ。こいつ俺を盾にして攻撃を止めようとしている?
だが俺が焦ることもないし、のんが止まることもない。
なぜなら……
のんはこちらに向け、攻撃を放つ。
「【ホーリースレッド・レイ】」
一直線の金色のビーム
放たれたそれは他の何をも傷つけることなく、ただボスに向かっていった。
そしてボスに直撃した。
足に入った力が抜ける。俺は光の中ゆっくり歩く。
この攻撃は対象にしかダメージが通らない。残念だったな。
ようやく勝った。すごく長かった。
金の光が消え、火山灰の煙が舞う。
その時だった
「ろく!!!!!」
のんの叫ぶ声が聞こえた
振り返ると全身から光の粒子を出しながら、剣を振り上げる奴の姿があった。
あ、だめだ
構えていなかった。俺は油断してしまった。
ここまで頑張ったのに俺は……
そう目を見開いた。
目の前に白い光が溢れる
◇◇◇
「もっとがんばりなさい」
◇◇◇
諦めたその時、目の前に大きなオーラが現れ、
ボスの攻撃を防いだ。
「!?!?」
ボスは驚いている
そう考えていた時には俺は剣を振り上げ、ボスの首をとらえていた
「まさか……あの蜘蛛かああああああああ」
ボスはそんな断末魔を上げ、
俺に切られた。
勝った……?
さっきとは違う余裕のない自覚。
アドレナリンで抑えられていた疲れがどっと押し寄せる。
「勝ったよ~~!!!!」
ラーナがふにゃふにゃしながらその場に座り込む。
「頑張った。頑張ったよ俺ら」
ああ。そうだなエド。俺らがやったんだ
だがそれさえ言葉にできない。
「戻りましょう。休憩は宿で」
のんがそう言った。体を曲げ、力を抜いている
「そうだな。ちょっと寝たいかも」
「私もねたい……」
「私も……」
「俺も……」
その帰りはみんな口を開かなかった。
◇◇◇
「……」
ただ一点を見つめる。虚ろな瞳はロード中という文字を追っていた。
ああ、勝てたはずなのに、逆転もあったのに
ロードが明ける
ボスが集まっていたあの会議室。しかし今そこにはだれもいない
俺は自分の席にゆっくり近づく。
俺の、エンバーグリズリーの席に。
いすの横に立った時、ようやくこの目に生気が宿る
「くっっっっっっそ!!!!!負けた!!!!!」
手を振り上げ大きく叩きつける。
あの戦闘は、邪魔さえなければあの男を倒し、他の奴も片付けられたはずだ。
これもすべては、あのバリア……
白の!バリアだ……
こちらに見せつけるようにあった、蜘蛛の模様。
「蜘蛛のやろう……」
くすくすとあざ笑っている様子を想像すると虫唾が走る
「必ずやり返してやる!!!!!」
◇◇◇
――一方
「きゃーー!なんて面白い死に顔!!!」
あざ笑うどころか大笑いしてました
――
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ホワイトスパイダークイーン




