第十七話
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「ねぇろ~く~。しゃんとしてよ~」
ラーナがいつもよりは優しく、俺の体をゆすゆす揺らす。
「完全に参ってますね…」
のんは両手に顔をのせ、視線を動かす。
「あれは誰だって効くだろ。俺らだって……」
エドは手足を組み、顔を下に向ける。
そして俺は机に顔を伏せ、突っ伏している。
俺はランキング一位ロックろっく。
今の顔を、例え仲間でも見せたくない。
昨日のミラージュヴァイパー戦、
いやもう戦いとは言えない。
あのボスと相対し、かなりのショックを受けた。
本当に信じられない。
なぜボスの役割であろうプレイヤーを倒すことを放棄するんだ?
頭おかしいんじゃないかあの機械!
「くそぅあんな奴……」
頭をかき回している俺を見た3人は目を合わせ、何かを決めたようで、優しく俺に話しかける。
「次行くのはサンドスコーピオンにしましょうか」
俺は手をピタッと止める。
サンドスコーピオン
確かネットの評判がかなりいいボスだ。
まあ他のボスもそれぞれの個性が人気を呼んではいるが、
このボスは、なんでも常に爽やかな笑顔で、話しかけてくるそう。
それも惑わすようなものではなく、まるで相談に乗るように語りかけ、そばにいて安心できるんだとか。
もうその存在は頼れる兄貴分でプレイヤーの信頼を勝ち取っているらしい。
だがそんなの信じない!!
「そんなやついるわけない!これまでのボスを忘れたか?あの嫌味ったらしい奴ら!!」
蛇のボスと話してから他のボスに対しても勝った気が全然しない。
どうせ、ネットに書き込んだやつらが騙されてるだけだ!
「まあまあろく落ち着いて。ほらっ、とっとと行くよ」
俺はぶつぶつ文句を呟きながら、ラーナに引きずられ、次のエリアに向かった。
どうせそいつも嫌な奴だ!!
◇◇◇
【灼鋼の断層】
そう心の中で叫んでいたが、目の前の光景に口を開けて見つめる。
「そうだ!そこで1歩足を下げ、武器を前に出せば、避けながら勢いは落ちないんだ」
砂がまう砂漠の中心に柱が何本もたちその上に荘厳な屋根。
近くによれば500人は余裕で入る、コロッシアムだろうか。壁はなく、常に風が吹き抜け外の砂が中でも舞い散る。
その中心で絶対に目が入るひとりの男。
腰まで伸びる金髪をひとつに束ね、肩にサラリと流す。
服は砂漠のフィールドらしくアラビアンスタイルの物に身を包み、暗めの配色が髪とのコントラストを強くしている。
そして何より目を引くのが、その体を大きく超える、サソリの針である。
その針をブンブンと振り回し、プレイヤーを相手取っている。
本体が動くことはなく、針が全ての攻撃を受け流している。
そこまではよかった。問題は……
「よくやった!またレベルが上がったな」
なんでボスがプレイヤーの指南をしてるんだ!
そう俺が困惑していると、新たな訪問者に気がついたボスがこちらに近づいてくる。
長いしっぽをしならせ地面を叩き、その勢いでかなり距離のあるここまで飛んできた。
ドシン!!
砂が空高く舞い上がり、周囲に砂嵐が起こる。
砂が視界を覆う中、
唯一このボスだけが
髪をうねらせ、手を腰におき、堂々とたっている。
俺ら4人の顔を確認すると、二カッと気持ちのいい笑顔を見せた。
「お前ら、今ボス沢山倒したやつだよな。ついに俺の番ってことか?」
し、質問か。返さなくては……
しかし声が出ない。蛇のボスの言葉が頭をよぎる。
「ん?」
返事をしない俺にサソリのボスは頭を傾げる。
「ああ、ごめんなさい。前回のミラージュヴァイパーの攻略でボスにしてやられたんです」
のんが下を向く俺の代わりに答えてくれた。
してやられたは余計だ。事実だが……
「へぇ、蛇に?」
ボスは少し思案すると、
「詳しく聞きたいから中央まで来てくれ」
「え?」
そうして俺らは半ば無理やり真ん中まで連れていかれた。
そうして来た中央にはあちらこちらにプレイヤーが座っていた。皆仲良く談笑しており、通る度、ボスに挨拶をしていた。
「本当に、良い奴なのか?」
さっきまで駄々を捏ねていたのが急に恥ずかしくなった。
少しずつ、冷静さを取り戻してきた。
「それじゃあ、蛇について何があったか教えてくれるか?」
コロッシアムの適当な段差にボスは腰をかけるとそういった。
俺らも真似て座り、以前のことを話した。
「ふむ。それは、ただ単に気になっただけだね」
ん?
「え?それってどういう?」
「言い方やり方が悪いだけで、何をどうこうしようってつもりは無いんじゃないかな」
「ま、まじで?」
「だって、力を貸したやつをボコすとか、そんなこと言ってないんじゃない?」
「そう言われたらそうだけど……」
後ろで3人がはらはらしながらこちらを見守っている。
サソリはちらりと手の甲を見る。
「あいつも悪ノリしたな」
優しい笑顔で俺の目をしっかり掴む
「大丈夫、お前は頑張った。
俺らは強いが、それをもう4体も倒したんだ。貰える力も限られてるだろ?それはお前が手に入れたもの。スキルや技と一緒だ」
……。
そっか。そんな簡単なことか
心に突き刺さっていたトゲが抜けていた。
確かにそうだよ。この印はこのゲームで手に入れた俺の力だ。誰が文句言っていいんだって話だ。
俺は心配そうにこちらを伺う3人を見る
ラーナも、エドも、のんも。
みんな、俺を信じてついてきてくれた。
その信頼を、裏切りたくない。
まだ思うところはあるけど
前に進むことはできる。
それで、今は十分だ。
「ありがとう。何とか次に進めそうだよ」
「それはよかった」
これがサンドスコーピオンというボスのの包容力か。
確かにこいつはいいやつだった。
それを実際痛感した。
しかし
だからと言って、勝負から逃げることは出来ない。
足に肘をつき、頭を下げる。
「励ましてくれてありがとう。だが、ひとつ聞かせてくれ。お前のやるべき事ってなんだ?」
あまりに遠回しな質問。
しかしこのボスは理解したようだ。
「俺はプレイヤーとできるだけ仲良くしたいんだが」
少し苦笑い。
ボスはやられると5時間という超絶長いクールタイムに入る。
仲良くしたいなら、嫌だろうな。
だがお前はボスのはずだ。それは責任逃れなんじゃないか?
俺の視線が冷たくなる。
俺の意思を受け取ったボスは立ち上がった。
「そうか。なら仕方ないな」
そういった途端、またしっぽを大きくしならせ地面を大きく打ち鳴らす。
そうして捲し立てられた砂煙はその場にいる全ての人間の視界を奪い、このエリアの隅から隅に至るまでの巨大な砂嵐を生み出した。
俺は見逃していない。
しっぽを振るう前、あいつがすごく嫌な笑いをしていたことを。
でも。
それも悪くないよ、サンドスコーピオン。
「さぁ、さっきのやつみたいに俺にもボスの倒し方ってやつを教えてくれよ」
俺はインベントリから相棒の剣を取り出し構える。
剣の向く先には、砂煙に覆われたひとつの影。
口のシルエットがニヤリと上がる。
「お前ら!
これから俺らのうち4体も倒したパーティーと戦うんだ。しっかり俺の活躍見逃すなよ!」
ボスの軽快な声がフィールドを駆け巡る。
周りからは
わあ!
と歓声が上がった。
まさに見世物だな。
砂の世界のリーダー
サンドスコーピオン
どう倒す?
「エド、ラーナ、のん。行くぞ」
「はい!」「うん!」「おう!」
俺らの目的はイベントランキング一位になること。
そのためにはどんどん倒していかなくてはならない。
ボス4体を倒し、全体20位以内になった。
このまま突き進んでやる!
――
俺は剣に力を込め、走り出す。ボスにどんどん迫る。
とにかくあのしっぽが厄介だ。
ボスはそれを、俺に向かって思い切りぶん回す。
その攻撃が来るのはわかっていた。
問題なのはそのスピードがとんでもなく速い事だ。
俺は横腹に思い切り食らうがなんとか剣を挟むことに成功した。
だが、俺はそのまま中に放り出される。
「やば」
場外ホームランじゃねーか!!!
何とか勢いを殺さないと
しかしおかしなことが起きた。
空気抵抗を強く受ける。体は不自然なカーブをえがき下に落ちた。
そう。飛ばされた時の勢いはなく、思ったより飛ばされなかったのだ。
もしかして
蜘蛛の印、
ノックバックの軽減が今回の効果か?
おかげで、宙に居ても体勢を崩さず動ける。
「なかなか厄介だな。しっかり受けきるか」
ボスはそう呟いた。だが余裕を失う様子はまったくない。
やはり俺だけじゃ倒すことなんてできない
「ラーナ出番だ!」
「はいよ!」
情報によると風属性が苦手らしい。
なんとかその点をつき、ラーナに展開を打破してもらいたい。
ラーナは風の刃を大量に生み出す。
「【シルフィードダンス】!」
「おっとまずい」
ボスはなんとか相殺するが、しっぽにHPバーが現れ、数センチ削れていた。
しっぽにも耐久が……?
たまに見る部位攻撃で弱体化を狙うやつだろうか。
だがどう考えても、しっぽを先に倒すのは現実的では無い。
ラーナの魔法でこれだけしかダメージが入っていないのだから。
「ろく、回復するわ。いいわね」
気づいたら近くにいたのんがこちらに手をかざす。
息を切らしながら痛みが引いていくのを感じる。
さて、これからどうしようか
近距離の俺は近づくとしっぽの餌食になるから戦いづらい。
それはエドも同じだ。
やはり鍵は強力な風魔法を扱えるラーナか。
彼女を中心に攻撃していくしかない。
俺が今やるべきことはやつの注意をひきつけ、
ラーナに少しでも攻撃を入れてもらうこと
だが、相手も鬱陶しくなったのかラーナをよく狙うようになった。
「やばっ」
ラーナの目の前でガキンと、剣とサソリのしっぽがぶつかり合う。
「ろくあんた……」
「ああわかってる」
イベントボスは強い、本気を出されたら勝てない。
だからこそ、裏をついて勝つしかない
しかし、何とか防御しこちらは疲弊する一方だった。
このままではまずい
そう思った時だった
「少し面倒になってきた」
ボスがそうつぶやきいた後の攻撃は先程のものとは違った。
避けきれず攻撃に当たった瞬間、傷口がドクンと激しい痛みを伴う。患部はおどろおどろしい色になり、血管が浮き出る
HPがゆっくり減っていく
これは毒か
頭がぐわんとし、目の前が絶対しちゃいけない色を滲み出している。
「ぐ……」
吐きそうになるのを必死にこらえる。
すぐさまのんの元へ駆け寄ったがとんでもなく長い時間を必要とすることだけ分かった。
俺が殺られる前にやらないといけない
これは時間制限をかけられたんだ。
回復が間に合わないとわかった瞬間ラーナのもとにもどったが
俺は明らかに動きが鈍っている。
「そろそろ終わりにしよう」
ボスが恐ろしい程に悪い顔で笑う。さっきの柔らかい雰囲気とは真逆のボスの顔。
しかし、ボスはとても楽しそうだった。
なんだか悔しいな。
俺は…俺たちは強いと確信していたはずなのに
サソリのしっぽがラーナを襲う。
「きゃあああ」
大きく吹き飛ばされ柱に叩きつけられる。
「ラーナ!!!!」
「これで風属性での攻撃は出来ないね」
ボスは肩で息をする俺たちに近づいてくる。
だがそれに目をくれず、俺はラーナをじっと見つめる。
少し考えたが、
はぁとため息がでた。
「……結局こういう方法でしか勝てないか」
どんどん距離が縮る。まだ…まだだ……
「終わりだ」
ボスがそう言い、しっぽを振り上げる
「いまだ!」
突然ボスの足元がどろどろにとけ、沼となる。
いきなり体が沈んだボスは体勢を崩す。
さらに追撃の風魔法がクリティカルヒット
「な?」
ボスは混乱しているようで先程の余裕が見られない
「ぐ……なんで、どこから?」
頭を回し、周囲を確認すると、先程吹き飛ばしたラーナの死に場所が視界に映る。
「へへ……油断大敵だよ……」
そこに居たのは光の粒子に包まれながら、なおも己に杖を向ける1人のプレイヤーだった。
「仕留めきれてなかった?いや違う、シーフがいない」
正解。エドが使ったのは身代わりカードだ!
沼はついにボスのしっぽまで捕える。
これで動けないな。
「俺たちは確かに弱いかもしれない。だからこそ卑怯な手でもなんでも使うんだよ」
俺は剣に風の属性を宿す
剣は巨大な風柱を立て、激しいエフェクトがその周辺を覆う。砂に対抗し、俺の風が砂漠に動く自由を与えた。
「なんだ。お前も使えるんじゃないか」
その顔は最初の爽やかな笑顔だった。
そうして俺は剣をボス目掛けて振り下ろした。
◇◇◇
【沈糸の巣窟】
「いくぞ!ホワイトスパイダークイーン覚悟!!」
そう言って馬鹿みたいに走ってくるやつがサイドに潰される。
弱さゆえの工夫も努力も感じない
まあわかってたけどね
ろっくがサソリを倒したようだ。
つくづく蜘蛛の視線共有を許可してもらえてよかった。
失礼かもしれないがここに来るやつはレベルが低すぎて楽しくない
これは少々考えないとな。全体のレベルをあげなくては
まあ単に私たちが強いだけか
ふぅと玉座の背もたれに体重をかける。
ああ、今の私はだめだ。
疲れでやられているのか?
口が悪くなってしまった
私はここまで、
楽しいと思える体験を求めてやってきた。
しかしふと急に怖くなる。
本当はこんな事しちゃいけない……
もっと周りに気を使わなきゃ
私は本当に、楽しいと思えるストーリーを生み出せているのだろうか
……はっ!
なにやってんの私。ゲームの中では好きなようにやるって決めたじゃん!
私は最高の悪役てるてる
私は蜘蛛の女王ホワイトスパイダークイーン
私の…私の自由にやるの。
だけど、今日はもういいか。この辺りはいてもいなくてもいいって言ってたし。
疲れたし寝たい。
イベント終了2日前の午後4時、蜘蛛のアイコンが光を失う。
その日、再びそのアイコンが光をともすことは無かった。
――
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