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第十三話

ゴクッゴクッゴクッ


 ぶはっ!


 ドンと机の上に缶コーヒーを叩きつけ、


 ふうと口をスーツの袖で拭き、休憩室の椅子に体重をかける。


 私は育。VRMMOルナリス・オンラインの運営の1人だ。


 今はこのゲームでの顔となるイベント、そしてキャラクターを作るために頑張っています。

今後ゲーム運営に関わる重要な案件だったのですごく頭を悩ませたなぁ。


そうして考え抜いて思いついたのが!


 【プレイアブルボス】!


このゲームのプレイヤーにイベントボスをやっていただくことで毎度新鮮味を楽しむことが出来る!

 

 そう考えていました。



「あーしんどい。やることが多すぎるんです全く。

 ボスの方々皆無茶いってきやがってですよ、それを実現するのにどれだけの苦労が……」

 

うう、思い出しただけで頭痛がっ

 また手に持っている缶コーヒーをひっくり返すがごとく持ち上げ、中のコーヒーを全て飲み干す。


「特に、ホワイトスパイダークイーン様……なんて無茶をおっしゃるんですか!

 何とか実現できたものの……もしそれで成功しなかったら……」


ぶるぶる震える手に力が入る。手に持っていた缶が潰れるほどに。


だがそれは覚悟していたことだ。

 

そんな――

そんな所が、私はどうしようもなく好きなのですから

 


 周囲をちらちら見渡す。


 うん。誰もいないのだし、少し愚痴ぐらい言っても許されるだろう。


「はあ……戻るか」


 私は歩いて、ある部屋に入る。

目の前には無数のモニター。

それぞれに映るのは、8人のボス達の戦い。

  

今でもモニターの向こうで、誰かの物語が動き出す。

それを見届けるまでが私の仕事。

 

  

 そうして潰れた空き缶をごみ箱へ放り投げ、仕事に戻っていった。




【沈糸の巣窟】


 ドンッ


「うわっ、何??」


 どこかで傷がついた壁の欠片でも落ちた?


モニター越しに戦闘を追っていた私は、思わず顔をあげる。おかげで我に返り、己の行いに気がついた。


ああ、流石に夢中になりすぎてたか。

 そう目を流しながら、とある画面を閉じる。


なんだろう。育に睨みを利かされた気分だ。

 

「私も仕事しなきゃなぁ」


 ホワイトスパイダークイーン。

 それが今の私でイベントボスという仕事、バイト?役割?


画面をスライドし、ダンジョンの入口、中の様子を確認する


 ろっくを送り出した後もしっかりプレイヤーをダンジョンに迎え入れている。


 なのだが。一番最初に甘い蜜を吸ってしまった私は、他のプレイヤーに満足できなくなっていた。


「こいつも、この程度の蜘蛛ちゃんも倒せんとは……」


他のボスをろっくより先に倒される心配があったため、早めに計画していたのだが、こんな弊害があるなんてな。


弱いやつの相手などしたくない。


 もちろん

 皆が皆、ろっくほど強くないとわかっている。

 しかし、合格基準をクリアしてもらわなくては


弱いやつにはこのダンジョンでしか手に入らないアイテム

 【ホワイトスパイダーの糸】

 

を渡して帰ってもらっている。

他の糸より白く美しい、それだけの糸


 後で思いついたんだがなかなかいいアイデアなんじゃないか? 



しばらく、ジッとしているが……

 

 うーむ。やはりムズムズする。


「ちょっと!ちょっとだけ……」


 顔を逸らし、目だけ凝視。ゆっくりスライドして、またある画面を開く。



 おお!今ろっく、シャチとやり合ってるじゃん!

 これは見ておかないと。

 

ゆっくり動かしていた手を思い切り横に振り切る。


 今ダンジョン内誰もいないっぽいしいいよね!

 

 それに、とてもとても必要なことだから!



 

王座の手すりに肘をつき、足を組んで頬杖。女王様らしい堂々たるや。

 一体誰が応援(?)してるプレイヤーのボス攻略観戦だと思うだろうか


シャチのやつは水中という動きずらい環境でバシバシ攻撃を放ってくる。

 ならば水中で動けるようになれば、攻略は十分に可能なはずだ。

だが、狼よりは難易度が上がる。

 相性もあるがな。


「まあ、頑張ってくれよ」


 

◇◇◇


【鎮海の王墓】

 

 エリアの入口、と呼べるものはなかった。

 ただその周りに境界線が置かれ、そこに足を踏み入れると、そこはもう、海の王の縄張りだ。

 

 目の前には嵐の前のような曇り空

 そして、 その底を見通せないほど暗く濁った海。

 足を入れた途端、なにかの重力が働いたのか全身ドボンと海に落ち、

 

 戦闘が始まった。

 





 

 手の甲の何かが疼く。

少し厨二病のようなセリフだが、これは事実だ。しかし封印された何かとかでは無い。


蜘蛛の印の影響だ。


「ちょっと、ろーーくーー!攻撃そっちいったーー」

ブクブク音と共にラーナの声が聞こえる。


 その声に反応し、どこからかやってきた水流の刃をひらりと躱す。

 とても水中の動きとは思えない


これが今回の印の恩恵…


 だがそれでも足りなかった。

 もう90分以上膠着状態が続いているからだ。

 

「やっぱり、ブラッドウルフは印と相性が良すぎたんだ」

 それを嫌でも感じる。


皆の視線の先、あまりに強大な力の塊がこちらの命を奪い取ろうと、俺たちの下で泳ぎ回る。

 

それは人間2人分ぐらいの大きさのシャチだった。

狼のボスにはあまりに叶わぬ大きさだが、その威圧感は凄まじい。

 

 上にいることがとても恐れ多いと感じてしまう。

  今、この下に何かとんでもない何かがいる。

 そんな感覚が、海の低い温度より体を強ばらせた。

これが、タイダル・オルカ――

 

「ボーっとすんなろく!次来るぞ!」

 エドの声が響き渡る。

 

視界の悪い海、その奥の奥から光がピカッと輝く。


そしてそれがなんなのかは想像が着く。

くそ、どでかいやつが来る。


「全員上に上がれ!」


4つの、いやたくさんの泡の柱がこのフィールドに立つ。

 しかし、それ以上に、海底で大量の光の粒子が泡沫の如く現れ、消えていく。


「あちゃあ。逃げ遅れた方がこんなに」

のんが苦い声でそう呟いた。


ボス達の攻略に人数制限はない。

 プレイヤーが何人も増減を繰り返している。

今死んだ彼らはまたここに来るのだろうか


俺たちもそろそろ限界だ。


「そろそろ決め切りたい」

 俺は3人にそう言った。


「そうですね。ずっと海の中は飽きてきました」

 

「もっと自由に動きたいわ!水の中だと魔法も制限されちゃう」


「そうだな相棒、サポートする。やってくれ!」


ずっと戦っていてわかったのだが、

 このボスは波や水の動きで敵の位置や攻撃を把握しているようだ。

 

 鍵になるのは()を察知させないこと。


「のん、バフを頼む。視界を良くしてくれ」


「ええ。まかせてください

 【浄視】」


のんがスキルを使用。

 真っ暗で濁っていた海がスッキリ見える。


「ではエド、ラーナ。作戦通りに」


「おうよ!」「まっかせて!」


――この一撃を通せば、勝てる。

逆に、外せば……

 

 

 ◇◇◇


イベントが始まって時間が経った。

ボスがどういうものかまだわかるほど時間は経っていない。だが確実に言えることは、この場にいる人間全員が俺を恐れているということだ。


 薄暗い海も俺にとったら透き通るほどの美しい海だ。

そうして俺はボスとして、シャチの体で自由に暴れ回った。


そうしてここまで、いくつかのプレイヤーがいたが、今対峙してるやつらに危険なのがいる。

 

水中というシャチである俺の独壇場で俺と同等の動きをする奴ら。



「くそ、攻撃が当たらん!」


次々やってくるプレイヤーの大半は、広範囲攻撃で溶けていく。そこそこ実力のあるやつは、適当に早いスキルで1発だ。

 

それなのにあいつらは余裕のようだ。


見たことがある。ルナオンにおけるトップユニオンのリーダーでランキング1位のロックろっくとそのパーティー


向こうの攻撃も今のところは躱せているが、いつ決めに来られるか分からない

 早く倒さないと……



そんな時だった。海上に近い、この真上から大量の短剣がこちらを見下ろしている。


「な?」


 直後こちらに向かって放たれた。


 いきなり決めにきたな。


 海底を泳ぎ回り、短剣を悠々と避ける。


 こんなもの攻撃ではない。

 

 こちらも始めよう。


 そう大技を出そうとした時だった。


体の真下から魔法陣が現れる。


「まっ――」

 そこから出た鎖が魔法陣から浮かび上がり、この身をガシッと封じる。

 

う、動けない……

まさかあの短剣は誘導と罠の設置を悟らせないため…?

 

 ふざけるな。こんなものすぐに千切捨ててやる!!


「うおおおおお」

シャチとしての激しい雄叫びが海中に圧力をかける。

 ガシガシと暴れ回り、鎖が悲鳴をあげる。

 

「ろ、く…早く…」


 そんな小さな声が聞こえる


 そしてとんでもないスピードで1人のプレイヤーが泳いでくる。


まずい第2形態を!


 しかしそう思った頃には遅かった。

 

 時間は遅くなり、自分を含めたあらゆるものがスローモーションのように動く。


俺の瞳に剣を構えるロックろっくが近づいてくる。

 目を徐々に見開くが、もうこいつの出す光しか見えない。

 

 次に見たのは——

鎖に縛られたまま、水に浮いている

  

自分の胴体だった。


 

 首を、切られた……


 残り少ない時を俺を倒したプレイヤーを見るのに使う。


狼はこいつにやられたのだろうか


白く光る手の甲を視界に残し、この海から俺は消えた。

 


◇◇◇


 ロード画面に入る。

 

「くそ、こんな早くに……」

 

 なんなんだあいつは、どうなってる!!

 苛立ちを抱えたままロードが終了

  

また瞼をあけ、前を向いた時に最初に見たのは


「お、シャチじゃん」


 狼の間抜けズラだった。

ここは、ボス全員が集まる会議室か?

 

「へーん。あれだけ大口叩いてたくせに俺の次はお前なんか」

ニヨニヨとムカつく口調でそういう。


「一番最初に死んだお前に言われたくない」

怒りを帯びた声でそう言うと、

 

 狼は、はあとため息をつき、背もたれに背中をのせた。


「俺たちしてやられたんだよ」


机に足を置き、体を伸ばす


「俺を倒したプレイヤー、なんか知ってる誰かの気配を帯びてんなぁって思ってたんだけどよ」


狼はそう言うと素早く足を引っこめ、俺に手の甲を見せ指を指す。

 

「あいつらの手の甲を見て確信したんだ。これ仕組んだの蜘蛛だよ」


「な……あいつが?」


言いかけてとめる。俺も見た。手の甲に光る白い何か。思い出せば、蜘蛛の形…を……!


 グッと力が入り、すぐに脱力する。

 


「はぁ、それが本当ならしてやられたな……。あえて最初の会議であの発言で分裂を促した可能性がある」

 

 横目で蜘蛛の席を見る。

 よく考えたら、あの時あいつは悪いことを思いついたような嫌な笑いをしていた気がする。


「俺たち分断しちゃったからなぁ、ここに来ないと他の奴らに知らせられないし。他の奴らは死なないとここに来ないだろ?

 だから俺ずっと暇だったよ!ここで見てたんだぜ。シャチの戦い!

 すげーかっこよかった!」


「なっ……」

 笑顔でそんな事言うなよ


 照れるじゃ…

 ……は!いやいや。


「当たり前だろう!お前は弱かったんだ!」


慌てて取り繕う。


 そんな様子を見てか知らずか狼は


「まあ俺あと1時間ぐらいで復活だけど、それまで他のやつがやられるとこ見てよーぜ。んで、蜘蛛のやつに文句を言ってやろ!」


 はあ。まあ、案外良い奴なのかもしれない



「いいだろう。今回だけだぞ」


――

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 ブラッドウルフ[リスポーン待機]

 タイダル・オルカ [リスポーン待機]

 サンドスコーピオン

 ミラージュヴァイパー

 エンバーグリズリー

 ナイト・ホクロウ

 ホワイトスパイダークイーン

 ――

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