第十二話
美しい青空だ。太陽が明るく照らし、木々は間を通り抜ける風に体をゆらゆら揺らす。小鳥はさえずり、動物達は駆け回る。
「ここは外か?」
そんな世界に俺は目を細め手をかざす。
ホワイトスパイダークイーンに外に放り出されたようだ。
なんで穏やかな景色だろう。
さっきまで暗闇にいた人間にこの光景は眩しすぎる。
この美しい世界に目が慣れてくると
これからやること、そして真っ白な美しい印が太陽の光で透けて、手の甲に浮かび上がる
俺はルナオンランキング第1位【ロックろっく】。
そんな俺は先程まで超激レアボスホワイトスパイダークイーンと戦っていたんだが、
やつを追い詰めるとある提案をされた。
それは
「蜘蛛の印をつけるから他のボスを倒してこい」
蜘蛛の印はイベントボスの位置を示し、そのボス攻略に有利となる能力を上昇させるというもの。
俺は思わずため息を吐き、頭をボリボリとかく。
いつもの俺ならそんなのお構いなしにあいつを倒していた。
だが今は違う。このイベントに出遅れた状態でなければ。
このままいけばイベントランク1位どころか上位も狙えない。
昨日は寝落ちしてしまって、イベント初日に参加できなかったんだ。
とても仲間には言えないが。
睡眠って恐ろしい……
とにかく、1日見逃した分は大きすぎる。
そんな中、大量にポイントを稼げるチャンスだ。
思わず即決してしまった。
どうやらこのイベントは、倒した数と質がすべての様だ。
雑魚を何百狩ろうが、ランキングは動かない。
だが――
【??ボス】とやらに一撃でも入れれば、話は別だ。
さっきのボスとの戦いでかなりのポイントが溜まった。
しかし、昨日の分の差はこんなものでは埋まらない。
だからこそ、これは利のある提案なんだ。
ボス全員倒せば一気にランクをあげることができる。
ただひとつ気になるのが――
「あいつ、手を抜いてやがったな」
あのボスはおかしい点がいくつもある。
俺が蜘蛛を処理してる時あいつは何もしてこなかった。
互いの武器を交えているときも必要以上の攻撃はしなかった。
血を流す怪我をしたのに、傷は癒えず蜘蛛が生成されなかった。
そして何より……
他のボスとの勝負だって??
あのボスは本当に機械なのか?
このイベント名は【??ボスイベント】
「…………」
まあいいか。そういうことは考察班に任せよう。
そうして仲間の元に戻ろうとした時
「……ろくーーーーー!!!」
遠くからとんでもない速さで何かが迫ってくる。
「なっ、ぐ……」
姿を捉えた時には飛び蹴りを食らわされた。
「ろく!もうあんたはまた見ない隙に。めちゃめちゃ探したんだぞ!!」
蹴りをくらい、悶絶している俺をブンブン揺らしてくるのは俺のパーティーの魔法使い らーなんど
みんなからはラーナと呼ばれている。
魔法使いの癖に飛び蹴りしてくんな!
「おーい…ラーナ。シーフの俺より速く行くなよ……」
そう遅れてやってきたのは盗賊の
エドヒーロー
みんなからの呼び名はエドだ。
「まあまあ。見つかってよかったですわ。ろく」
そうこちらを向いて微笑むのは聖職者の のんドール
みんなからはのんって呼ばれてる。
のんはボロボロの俺に近づき、回復スキルをかける。
「ラーナさんの蹴りでこんな風にはなりませんよね。一体何をしていたんです?」
怪訝そうにこちらを凝視する。
これは嘘をついても意味は無さそうだ。
「その、ボスの1人と戦ってました……」
「ボス?もしかしてイベントボスですか?ここは誰のフィールドでもないですよ?」
しかし、その言葉を飲み込むと皆1度ピシッと固まる
「ま、ままままさか……ホワイトスパイダークイーン??」
またしてもラーナが突っ込んできた。
まだ回復中だから!!!
「まじか……あの出会うことが難しいと呼ばれる蜘蛛の女王と。しかもイベント始まってさっきようやくログインしてたから多分お前が初なんじゃないか?」
目を丸くし、エドはそう言った。
「どこ?ダンジョンの入口はどこ??」
ラーナは興奮気味にまた俺をブンブン揺らす。
「あぁそぉこのぉはず」
そういって頑張って指を入口に向けるが、そこには何も無かった。
「は?なんも無いけど」
ラーナは興味を変え揺らしていた手をピタッと止める。
このやろう……
「恐らく、すぐに移動するのでしょう。確か、運営の説明では見つけたらすぐに入るよう促していました」
「じゃあお前達を待たず先に入った俺の判断は正しかったな」
そういうとまた全員睨んでくる。
「だっ、だってお前達を探しに行ってダンジョンの入口が消えたらどうするんだ」
みんな今度は互いに顔を見合わせ、ため息を吐く。
「過ぎたことですし、もういいですよ。とっととボス攻略に行きましょう?
ボスが倒されたら出るはずの通知もない様子から、ホワイトスパイダークイーンは倒せていないようですし……」
「ま、まあ!今から頑張って何とかランキングに名を乗せるぐらいならできるかもよ!」
「まあそれもそうだな。何もしないよりはマシだ」
そう言って3人が動き出そうと体を持ち上げる。
そういえば、まだこれについて3人に伝えてなかったな。
「なあ、まだ言ってないことがあるんだが」
そう言って蜘蛛の印についての説明をする。
「「「はあ????」」」
3人同時にどデカい叫び声をあげる。
「あ、、あんたはいつもそういう大事な情報をすぐに話さない!!」
ラーナが驚きで声を震わせている。
「しかし、そんな大層なもんを貰っていたとは。
それさえあればランキングに入るどころか1位も夢じゃない!」
エドも喜びの言葉を口にする。
「……イベントボス達が互いに勝負をしている?
【??】の中身を知る重要な情報ね。これは考察班に高く売れるわ」
のんはぶつぶつ何やら考え込んでいる。と思ったら顔をグイッとあげ、
「あなたが余裕な理由がわかったわ!それなら尚更早く行きましょう!」
「そうよね!」
「そうだぜ!さっさと行こうや!」
俺は思わずくすっと笑う。さっきはひとりがいいと思っていたが、こいつらといると退屈しないから好きだ。
興奮気味の3人に手を引かれる。その様子を見るとどうしても手放したくないと思ってしまう。
――
「ふふ。頼んだわよランキング1位さん?」
白い影が、木々の間から4人を見つめている。
その視線は、まるで——
――
そんな後ろの存在に気づかず、俺らは前に進む。
「ああ。じゃあ行こうか。まず向かうのは」
◇◇◇
【深牙の森】
ドォォォン
森のあちこちで木々がなぎ倒され、プレイヤーの悲鳴が響き渡る。
ここは俺の遊び場だから。
俺はブラッドウルフ。このエリアのボスだ!
いまは狼の姿。
これが俺の第1形態
この方が暴れやすいからな!!
俺の戦い方は木々をかき分け、プレイヤーの攻撃を交わし、一撃で仕留める。ただそれだけ!
「なははは!次は誰だ!」
森の中心で雄叫びをあげる。
プレイヤーを一方的にプチプチできるのは結構楽しいな!
お?次はあいつにするか
「くそ、あの犬っころどこいった……」
真後ろにいるよ。
「な?うわああああ」
じゃあばいばい
そうして俺は前足を振り上げる。
その時だった。
「あ……?」
その前足になにかの攻撃が当たる。
な、なんだ何が起こった。
その攻撃が飛んできた方を振り返ると、そこには4人のプレイヤーがいた。
「へぇ、本当にいたよ。騙されてないようでよかった」
俺の探知に引っかからなかった?何が起きているんだ!
何よりあいつらの気配、どこかで見たことある。
だがどこの?
あいつらは何者だ!
◇◇◇
ここまでにあのボスの攻略情報をちらっと確認した。あいつはどんな攻撃も避け、一撃で屠ってくる。
しかし俺たちの攻撃はバレていなかった。これは蜘蛛の印の効果か。
隠れて近づいてくるあのボスは簡単に攻略できる
「お前達行くぞ!配置につけ!」
そう構えた途端どこかに消えた。あんな巨体どうやって移動してんだか。
だが悪い。その位置は丸見えだ。
「ラーナ、南の方向に風のスキルを」
「あいよ!」
ドォォォン
激しい音。そして狼の唸り声が周辺を飲み込む。
「やった!当たったよ!」
「よくやった。このまま追い込む!
エド!合わせろ!」
俺は剣を構えパワーを貯める。
俺の言葉に反応したエドも全体が見渡せる高いところに移動し、スキルの準備を始める
のんは杖を振り上げ、
「バフをかけます!」
力がみなぎる。
「エド!頼んだ!南東の奥にいる!隠れたあいつを引っ張りだせ!」
「任せろ!」
エドはスキルで生み出したいくつもの短剣を宙にはなち、南東へ一直線。爆発音が鳴り響き、その一帯の木々がなくなり、1匹の狼が顕になった。
「いけ!ろく!」
ナイスだエド。
ボスは怒りを露わにして大きな雄叫び。こちらにぶっ飛んできた。
それなら話は早い。これで終わりだ。
大きく口を開けた狼の攻撃を交わし、その首に剣をするりと入れていく。
スパン
狼の首と胴体が離れ、光の粒子となって消えていく。
「あ、あの野郎の仕業か……」
狼はこちらを見て目を見開き、
そう一言呟いた
ん?あの野郎?
誰のことだ?
俺たちのことじゃない。
他に誰か——
でも、その答えを聞く前に、狼は光となって消えた。
◇◇◇
狼のアイコンが光を失う。
狼も、思ったより感は悪くないみたい
しかしよくやってくれたわ。
見事な戦い。ろっく以外のやつも素晴らしい戦闘センスがあるようね。
このまま頑張ってよね。
ふふ、とんでもない悪人顔。誰にも見せられないわ。
◇◇◇
「ナイスだよ!ろく!」
そうラーナに背中をバシンと叩かれる。
「お前達もよくやってくれた」
「ま、まあね!」
「さすがの安定感だなろく!」
高いところにいたエドが戻ってきた。
にかっと笑い、グットサインをこちらに向ける。
「だがやっぱこの印があったからこんなすんなりいったんだよ。これがなきゃかなりの泥試合になったはずだ」
狼は姿を隠し、獲物に近づく。
その位置がわかったからこそこんだけ早く倒せたんだ。
「そんなこと考えている暇はありません!ブラッドウルフを倒したことが全プレイヤーに通知されましたよ。このままではそれに感化された誰かにボスがどんどんやられてしまうかも」
回復スキルを俺たちにかけながら、のんがせかせかとそう話す。
ホワイトスパイダークイーンやブラッドウルフと戦ってみたが、俺でもこんな苦戦を強いられるところだったんだ。他のやつが弱いことなんてないと思うがな。
「今回の攻略で、かなりのポイントを稼げました!このまま全てのボスを倒せば十分1位も目指せます!」
「まあその通りだな。そろそろ次に行こう」
そうして視線を向けた先は
【鎮海の王墓】
◇◇◇
鎮海の王墓、水中のどこか。
その主が通知に気づく。
「狼がやられた?少し早くないか?」
プレイヤーを片手間でいなしながらも、先程やってきたその情報に驚きを隠せない
あいつは確かに間抜けズラを晒しているやつではあったがまだ消耗し、やられるには早い時間だ。
何かあった?
「警戒しておいた方が良さそうだ」
海の帝王 タイダル・オルカに
4つの影が近づく。
――
【ログイン中】
ブラッドウルフ [リスポーン待機]
ミラージュヴァイパー
サンドスコーピオン
タイダル・オルカ
ホワイトスパイダークイーン
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