第十話
10
サソリ: 広範囲物理攻撃とスタン(麻痺)攻撃に特化した前衛パワー型
•巨大な棘付きのハサミや尻尾をぶん回して範囲殲滅
•蠍特有の毒・スロー・出血など、状態異常も多用
•タンクを潰すのが得意で、防御突破力が高い
そうしてまとめたのはサソリの情報。全て頭のノートに書き込んだ。
現在私はイベントで行う予定の素晴らしいストーリーのための準備を行っている。
必要なのは他のボスの情報。
そのため、今私はボスをぐるぐるまわっていこうって所。
最初のサソリはもう見終わった。
情報に多少足りないところはあるだろうがまあ仕方ない。
関わっているイベントのボスを私が簡単に倒すわけにもいかないだろう?
だから早期撤退をした。
それに時間もないしとっとと次に行こう。
ないとは思うが誰かにやられる可能性もあるからな。
そうして私は他のボスを回って行った。
【ミラージュヴァイパー】
「あれは……」
プレイヤー達が道を開け、1人の女性が歩いてくる。
てるてる
「はは、ようやくやり合えるのか」
――
【ブラッドウルフ】
んなああ?
あれ噂のてるてるってやつじゃねーか。
初めて見たが1人だけオーラがちげぇ。
「やってやるぜ。こいつを倒して俺の名をあげてやる!」
――
【タイダル・オルカ】
何?てるてるがきた?
この身が震える。
はるか上にいたてるてるを相手にできるんだ
「俺という存在を刻んでやる」
――
【幻翼のクロヅル】
ふむ。
「いつか来るんはわかっていたけんどこんなすぐやとは……
ここはさすがに覚悟決めなあきまへんな。
全力でいかせてもらうで」
――
【ナイト・ホクロウ】
て、てる、てるてるだ……
ああ、てるてるだてるてるがいる!
興奮が止まらないよ……
「てるてる……」
――
【エンバーグリズリー】
「……」
てるてる……ついに来たか。
――
ボスたちは覚悟した。てるてるという強敵を他のプレイヤーのいる中で、ボスとしての威厳を保ちながら相手しなくてはいけない。そう心して挑んだ
はずだったのに
てるてるはこちらが本気を出そうとしたら突然消えた。
それが一体どんな印象を持たせるか。
てるてるは良くも悪くも目立つ存在だ。彼女はその影響力を知ってか知らずか。
しかし確実なのは今の彼女に他を気にかける隙間などない事だ。
イベントであちこちで人が賑わう最中その裏手。
ただ、嬉しそうに何かを見つめる人影がどこかに向かって歩いている。
――《イベントボスリスト》――
【蛇】
•幻覚・分身・擬態を使った精神撹乱特化型
•攻撃自体はそこまで重くないが、「何が本物か分からない」ため反撃が難しい
•本体を見抜いて倒すまでに時間がかかる
•分身を攻撃するとデバフやカウンターが発動するなどの罠も多数
【狼】
•高機動・高攻撃力・高耐久の三拍子そろった肉弾戦特化
•すさまじいスピードとジャンプ力で逃げることが困難
•とにかく見つけやすく、遭遇率が高いが、生存率が低い
•攻撃パターンが読みづらく、プレイヤーを逃さないように執拗に追い詰める
•遠距離攻撃は一切なし、接近戦一本でガンガン押してくる
【シャチ】
•高速突進・水流・広範囲魔法を組み合わせた水中戦特化型
•水の流れを使った吸引・押し流しなどでポジションをずらしてくる
•頭上からの水柱や、渦潮での拘束など地形操作系の攻撃も持つ
•回避困難&酸素制限で長期戦が不利になる
【鶴】
•精神干渉系スキル(幻覚・沈黙・静寂)を駆使する集中力破壊型
•浮遊しながら優雅に攻撃するが、一撃が重くタイミングが難しい
•BGMが突然消える・入力が遅延するなど、“ゲーム側の不調”のような錯覚ギミックが頻出
•攻撃回避というより、精神的なリズムを崩すことが主目的
【フクロウ】
•視界妨害・状態異常・奇襲を得意とする幻惑型
•暗闇にまぎれて姿を消し、瞬間移動で背後を突いてくる
•サイレンのような音を発し、暗闇でプレイヤーの視界や音を奪うことも
•トリッキーで攻撃タイミングを読ませない厄介なタイプ
そして【熊】
•高火力・高耐久の一撃必殺型
•攻撃は少ないが、一撃一撃がとにかく重い
•動きは遅めだが、踏み込まれたら瞬間的にカウンターを叩き込む
•周囲に溜まる熱や爆発、地面の崩落など自然災害級のスキルも放ってくる
――――
穴はあるだろうがこんな所だろう。
私は頭のノートをパタンと閉じる。
ひとつ空回りしていた歯車に七つの歯車がガチっとはまる。
準備が整った、確認事項も済んだ。
これで私のストーリーを紡ぐことが出来る。
あとは私がしっかり役を演じるだけだ。
仕掛けに重要な鍵はもう見つけてある。
古参の私も認める実力と器用さ、そして人柄。
彼なら私が背中を押せばやってくれるだろう。
そのために時間をかけてボス達を確認しまわったのだから、やってもらわないと困る。
「さあ時間だ」
そうしててるてるはその場から姿を消した。
代わりにホワイトスパイダークイーンのアイコンが光を宿す。
《ホワイトスパイダークイーンがログインしました》
【あるエリアのどこか】
「なんだ?」
突然通知音とともに何かお知らせが来たようだ。一体なんだと確認をしようとした時、どこからかやってきた仲間たちに邪魔されてしまった。
「おーい、ろく!」
振り返ると、仲間たちが駆けてくる。
「何してんだよこんな所で。ただでさえイベント、昨日参加できてないのに」
「全く。あなたは我々の要なんですから」
俺は苦笑する。
また説教か。
「ああ、悪かった」
「本当に頼みますよ、ランキング1位様?」
——その称号が、重い。
頑張って手に入れたもの。
でも、それがプレッシャーになるとは思わなかった。
俺の名前は、【ロックろっく】。
ルナオンランキング第1位。
そしてトップユニオンのリーダーだ。
みんなが俺に期待する。
俺が勝つこと。
俺が導くこと。
でも——
「誰も見てないよな?」
顔を伏せ、伺うように周囲を確認する
みんな話に夢中になってわちゃわちゃしてる。
俺は仲間の隙をついて、森の中へ逃げ込んだ。
そうして入ったのは名もない森の中。
人の気配もなく、風が心地いい。
こっちにイベントボスのフィールドはない、つまり人もいない。ここにいるのは俺だけ。
そんな事実に安心感がある。人がいるとどうしても気を使うから苦手だ。
ランキング1位を維持することがどれほど大変か。
イベントで1位を取らないといけないけど……
少しブラブラしたらまた合流しよう。
そう思った時だった。
その変化には一瞬で気づいた。一見何も変わらない。だがどこからかとんでもない気配がする。
この俺が震えるほどの圧。一体なんだ、何がある。
すると足に違和感を覚える。見れば白い糸だ。へばりついて足から取れない。
ようやくその糸を取ることに成功。
それが蜘蛛の糸だと気づいた。
そして目の前にそれはあった。
ひっそりと隠れていながら威圧感を放つ入口。
「これが8体のイベントボスの1人、ランダムで入口が現れ攻略できるというホワイトスパイダークイーンか?」
白い蜘蛛糸。こんなものを使うのはホワイトスパイダーと呼ばれるものだけだろう。
一瞬仲間も呼ぶか迷った。しかしそれでこの入口が消えてしまったら?それは困る。
「よし、1人でも行こう」
俺にはそれが出来る。
このイベントは最初から参加できなかった。
それなのに最初から見つけることも難しいとあった蜘蛛の女王を攻略できるんだ、なんて贅沢だ?
顔を上げ、堂々と足を踏み入れる。
中の風が一気に渦を巻いて外に出ていく。
勢いに押され目を腕で覆ってしまう。
目を開けると……
壁は白く埋め尽くされている。恐らく蜘蛛の糸が壁中張り巡らされているのだろう。
すると、その中でもいくつもの赤い光が点滅する。
まさか……この壁全て蜘蛛か?
思わず目を下げる。
敵対心は感じないが、まるでこちらを観察するような視線が気味悪い。何かに品定めをされているようだ。
すると突然ピリついた空気を感じ取る。
俺はすぐさま顔を上げ、インベントリから武器を取り出す。
【ロックブレイバー】長年の相棒だ。
現れる剣を途中で握り、一振して目の前の相手を警戒する
そこには俺より少しでかいぐらいの蜘蛛がいた。
これがホワイトスパイダーか?
壁の蜘蛛は見ているだけだったが、どうやらこいつはやる気のようだ。
剣を構え相手の動きを見逃さないようじっと見る
「どう動く?」
するとこいつは素早い動きで猛突進してきた。
これだけ?俺は舐められているのか?
確かに早い。だが、俺には通用せんよ。
そうして俺はタイミングを合わせ、剣を一振。
飛び回る蜘蛛は剣に触れた瞬間、真っ二つに割れた。
1度深呼吸し、剣を前にかざす。
「運営さんよ、こんなもんかい」
『あはは!そんなわけないじゃない!』
声が、頭上から降ってきた。
女性の、嘲笑うような声。
「え?」
ぽとり。
目の前に、小さな蜘蛛が落ちた。
ぽとり、ぽとり。
二匹、三匹——
「まさか」
顔を上げる。
壁中の蜘蛛が、一斉に剥がれ落ちてきた。
「はあ!?」
俺は走り出した。
カサカサカサカサ——
背後から聞こえる音。
振り返らない。
見たくもない。
「うわああああ!」
俺は慌てて走り出した。
後ろを振り返るのも恐ろしい。音で、真後ろがどうなっているか想像がつく。止まることなんて出来ない。うじゃうじゃ集まる虫なんて好きなやつがいるか!!
しばらく走っていると目の前に扉が現れた。
それがなんの扉か考える間もなく中に飛び込んだ。
はあ、はあ。とんでもない目にあった。
扉が閉まるとあいつらは入ってこない。
ああよかった。
そして俺は、ゆっくりと顔を上げた。
その上に
——いるから。
天井、いや、天の上。
そこに、彼女はいた。
全身、真っ白。
白の帽子にマーメイドドレス。
長い髪は白を超えて、真珠色に輝いている。
そして——
全てを見抜くような、カーマインの赤い瞳。
「……ホワイトスパイダークイーン」
俺は息を呑んだ。
彼女はケタケタと笑いながら、言った。
「あら、ごめんなさい。
荒い歓迎になってしまったわね」
その声が、部屋中に響く。
「元々は何体か用意していたのだけど——」
彼女は優雅に手を広げる。
「あなたには物足りないでしょう?
だから、直接来てもらったの」
じっとその存在を睨む
それであの蜘蛛の大群で?ほんとやめてくれ……
「初めまして、地に蔓延るプレイヤーさん?
私はホワイトスパイダークイーン。よ・ろ・し・く」
その言葉を聞いてからもぶわっと存在感が圧をかけてくる。それだけで強い相手だと確信できる。
彼女は微笑む。
「精一杯、私を楽しませなさい」
そして——
彼女はどこからか鎌を取り出し、手首を切った。
「え?」
傷口から、何かが滴り落ちる。
白い、血が。
「なん、だ……?」
普通なら光の粒子のはず。
でも、これは違う。
白い液体が床に落ち、
みるみるうちに形を変えていく。
それはまるで、生まれたての命そのもののように蠢いた。
蜘蛛だ。
「な——」
白い血から蜘蛛が生まれ、襲いかかってきた。
すぐさま剣を握り直し防御の姿勢をとる。
しかし、その一撃は重かった。思わず体が弾き飛ばされる。
「先程は面白みのない相手をさせてしまって申し訳ないわ。今度はしっかりじっくりやってあげる」
すると今度は鎌をぐるっと一回転し、右手を切り落とす。途端その右手は大きく形を変え今度は入口の大きさの蜘蛛になった。
まずい
【ブレイブガード】
今度は咄嗟に発動できた防御スキルで何とかでかいヤツの攻撃を防ぐことが出来た。
ちらりと確認
女王の右手は元に戻っていた。
どうやら彼女は体の一部を蜘蛛に変身させることができるようだ。
しかも切られた傷は回復し、出てきたやつは普通のよりも強化されている。
ふぅと息を吐く。
先程は不意打ちだから体勢を崩してしまったが、今度はそうはいかない。
準備は出来た。
久しぶりに楽しい相手になりそうだ。
「やるぞ」
そんな俺を見た蜘蛛の女王は口角をこれでもかと上げ、こちらを見下ろしている。
「では、始めようか」
ボスのその言葉が合図。
途端、さっきまでそこにいたはずの姿が消えた。
時間が止まる。
刹那。
気づいた時には、ボスは間合いの内側にいた。
「……!」
でも問題はない。今は心の準備ができている。
このくらいならなんて事ない。
互いの武器をガキンと交え、火花を散らす。
なんて恐ろしい顔をしているんだ。ニヤリと口角をあげ、この戦いを楽しんでいる。だがそんなことが些細だと思えるほどに妖艶で美しい
何度か剣と鎌のやり合いを繰り返し、攻撃を当てることに成功する。
しかし問題はさっきの行動。
こいつは自分で手を裂き、白い血を滴らせ蜘蛛を作った。
その条件を知る必要がある。
己の攻撃しか発動しないのか、それともあらゆる攻撃が対象か。
だが、1つ瞬きをすればあったはずの傷が癒えている。
それは流石に早過ぎないか?
驚きを隠せないでいると、ボスが行動に出た。
1歩後退し、宙に飛び始めた。
この部屋は筒状で天井がとんでもなく高い。
「逃がさない」
飛び上がるボスを追いかけようとした。
その時、足に何かが絡みついた。その何かに引っ張られ、俺は引きずり下ろされてしまった。
これは蜘蛛糸か?
地面に着地をした瞬間、すぐさまこの糸を切り取る。
糸を処理し終え、周囲を確認する。大量の蜘蛛がうようよとこちらを見ている。
途端、蜘蛛たちはこちらに向かって押し寄せてきた。
さっきまでこんなにいなかったはずだ。考えられるのは勝手に生み出されたか、ボスの血から生まれたか。
そう思案しながら蜘蛛を処理する。
苦戦するような相手ではないが、一撃では倒せない。
やっぱりボスの血から生まれた蜘蛛だ。
さっきの攻撃を受けたのはこれのため?
ボスを攻撃すれば血が溢れ、蜘蛛が生まれ、その傷は回復する。
ではどうするか?
要は血が出なければいいってことだろう?
先程は剣を使っていた。
つけた傷は全て切り傷。そんなの血が溢れてくるに決まってる。
ならば次は打撃系の攻撃を加えようじゃないか。
そのためにもまずは武器を変え、この蜘蛛共を掃除せねば。
やはり、新しいボスというのは楽しい。
何ができて、何が効かないか。そう考えながら戦うことこそ、ボス戦の醍醐味だ。
さあ、どんどん教えてくれ。
お前という存在を。
次はどうする何をする?
ああ、わくわくが止まらない。
――
【ログイン中】
ブラッドウルフ
ミラージュヴァイパー
サンドスコーピオン
タイダル・オルカ
ホワイトスパイダークイーン
――




