第10話 『アイリス、戦力外通告。──それでも俺は、彼女を再雇用(救済)すると決めた──』
魔王城の大広間に、重い鐘が鳴り響いた。
「王都より正式な通達だ」
クレイは台本読むみたいな声で宣告した。
「アイリス様は──
勇者支援任務より【除名】とする」
「……え?」
「王家にとっても、君はもう不要だ」
クレイは冷たい目で言い放つ。
「マサト様のような俗物と共にいるなど、
王国の威信に関わる!」
黒猫が低く唸る。
「(言うたなぁ……このクソ正義マン)」
リュミエールは、
白百合の笑みで追い討ちをかける。
「アイリスちゃん、
無理に縋りつかなくていいのよ?」
「……っ!」
アイリスの拳が震える。
でも、目はマサトだけを見ていた。
「わたし……本当に……いらないんですか?」
「いるに決まってるやろ」
マサトは即答した。
アイリスは泣きそうになりながら微笑む。
「マサト様……ありがとう……!」
その瞬間、
クレイが剣を抜いた。
「姫をその汚い手から離れさせろ!」
「汚いのはお前の心や」
黒猫が前に出る。
「猫風情が吠えるな!」
クレイの剣が振り下ろされる──
パァン!!
札束が空中で弾け、爆風がクレイを吹き飛ばす。
「グッ……ぬ、ぬかしおって……」
《札束セキュリティww》
《また爆発してて草》
《金こそ防御力》
リュミエールは肩を震わせながら言う。
「マサト様のお力は素晴らしい……
でも、私を守ってくださるんですよね?」
甘い声。
泣き顔の仮面。
視聴者が一斉に叫ぶ。
《それアイリスのセリフや!!!》
《乗っ取るな白百合!》
《悪い女の匂いしかしない》
アイリスは、
静かに首を振った。
「マサト様には……わたしが必要なんです」
「ほう? どこがだ?」
クレイが吐き捨てる。
アイリスは胸に手を当てて言った。
「ずっと信じてきたからです。
ただそれだけです」
リュミエールは笑った。
「信じるだけ? 可哀想ね。
数字にならない愛なんて、無価値よ♡」
「……!」
アイリスの瞳に涙があふれた。
(これ──折れる)
黒猫が叫ぶ。
「耐えんでええ!!」
でもアイリスは涙を拭った。
「マサト様……
迷惑ばっかりで、ごめんなさい」
「全然や。迷惑ちゃう」
「でも……」
アイリスは微笑んだ。
「わたし、いったん離れますね」
その言葉に、
配信のコメント欄が一瞬止まる。
《…………え》
沈黙。
そして──吹き荒れる。
《ちょ待て》
《姫が正ヒロインなんだが!?》
《白百合の女やめろ!!》
マサトは止めようと手を伸ばした。
「やめぇ!行くな!」
「大丈夫です。
だって私は──」
振り返らずに、アイリスは言った。
「マサト様の味方ですから♡」
扉が閉まる音だけが響いた。
黒猫は爪を立てて床を抉る。
(許さん。ワシが絶対に許さん)
「……アイリス」
マサトはまだ知らない。
この夜が
ざまぁ爆発のカウントダウン
初日やということを──。




