第8話 少女の過去と異変の謎
奏side
館の前に降り立つと、すぐに視線を感じた。
月明かりの下、翼を畳んだまま立っているレミリアさんだった。
その瞳はこちらをーーー否、正確には腕の中のフランを見つめていた。
「……私が行くまでもなかったのね。」
声は落ち着いているが、まだ少し硬い。
警戒心だろうな。
「うん。約束通り、フランを連れ戻したさ。……それにフランの狂気も完全に取り除いた。」
そう言い、フランをレミリアさんの元へ。
レミリアさんの肩からは、緊張が少し緩まったように見えた。
フランを抱えたまましゃがみ込むレミリアさん。
状態を確認し、安堵の表情を浮かべる。
だがすぐに、視線を伏せた。
「……私がこの子をずっと1人にさせた。
私が、フランをーーー」
「違うよ。」
即座に言葉を遮った。
レミリアさんは、その言葉に顔を上げる。
出会ったばっかりで正直、レミリアさんとフランの間に何があったのかなんて知らない。
けれどレミリアさんと少しだけでも話して分かることはある。
(ーーーとても妹想いで、優しい子だと言うこと。)
「レミリアさんはフランを、理由もなく1人にさせるような人じゃないでしょ。……少し話した程度だけどそれくらいわかるよ。」
レミリアさんは話さない。
じっと僕の目を、涙でしっとりさせながら見つめる。
「何か……フランの為にしたことだったんでしょ?」
「それにーーもう終わったこと。……あとは起きた後、本人と話そう。」
レミリアは数秒、何か言いたげに口を開きかけ、
結局、何も言わずに小さな息を吐いた。
「……そうね。…ありがとう。」
「別に、少し運動しただけさ。」
少しだけ怪訝な顔をするレミリアさん。
レミリアが何か言いたげに口を開いた時だった。
「ーーいた!!」
不意に背後から声が掛かる。
振り返ると、
巫女装束の少女が1人、走りながらこちらへ近づいてきた。
腕には黒のメイドのような服を纏った、魔法使い……友人?を抱えていた。
意識は無いが、呼吸は安定している。
……再生はちゃんと効いているな。
「……霊夢さん…飴は食べてくれたんだね。良かった。」
見たところ目立つ外傷なども全て、完治している。
だが霊夢はその言葉に一瞬戸惑いを見せる。
「……私…貴方とは初めましてよね?」
眉を少しひそめながら、こちらを見る。
「今回の事、紫ちゃんから聞いていてね。それに霊夢さんのことも。」
「……なんだ紫から聞いてたの。それなら合点が行くわ。……それで、詳しく話してもらおうかしら?」
霊夢は視線を、僕とレミリア、フランへ順に移し、そういった。
レミリアさんは状況を飲み込むように、少し息をつく。
「話すことが少し増えたわね。」
「そうだね。」
僕は霊夢達を見みる。
「とりあえず、全員生きてる。
今はそれでいいだろう。……話はフランが起きてからしようか。」
数時間後、ある寝室にて。
大きなベットに横たわる、フランは
ハッとした様子で起き上がる。
「……私……。」
「フランっ!!」
フランが起き上がると、レミリアさんは抱きついた。
ごめんなさいと、何度も呟きながら。
レミリアさんが啜り泣き、フランもそれに答えるように涙を流し始めた。
2人の少女の泣き声が、部屋に木霊する。
僕と霊夢、そして気を取り戻した魔理沙。
部屋にはこの3人とフラン、レミリアさんを合わせ5人。
数分後。
霊夢は静かに口を開いた。
「それで……まずは最低限の確認と行きましょうか。」
「私は霧雨魔理沙!魔法使いだぜ。」
「私は博麗霊夢。博麗神社の巫女よ。」
「私はレミリア・スカーレット。
この館の主で、ーーーフランの姉。」
「……フランドール・スカーレット。」
僕を残した4人の自己紹介を終える。
すると視線はこちらに注がれる。
「……僕は白銀奏。人里で喫茶店を営んでる。」
「「………。」」
なんだか皆に、ジト目で見られる。
だが、僕の実力を知らない、魔理沙とフランは「?」
の顔を浮かべていた。
「……みんな気になってると思うし、まずは奏……?でいいのよね。」
「あぁ、好きに呼んでくれ。」
「奏の事について話をしましょうか。」
そう言い、霊夢とレミリアさんは自身の目で見た事を皆に語り出す。
「「………。」」
またもや魔理沙とフランが黙り込む。
「貴方、ほんと何者よ。」
「何者かって言われてもね……。」
「そういえば能力……とか言ってたわよね?……その能力っていうのは?」
「あぁ、それなら『破壊と再生を司る程度の能力』だ。その他にもうひとつあるけど……。」
「うぇ!?」
「はぁ!?」
「はぁ……。」
「すごい……。」
各々が声を上げた。
「フランの持つ能力は「あらゆるものを破壊する程度の能力」よ。あなたが持つその能力は、ほぼ上位互換というかなんと言うか……。」
「お姉様……この人すごいわね。」
「えぇフラン。多分だけど、あなたが本気で殴ってもすぐさま再生するわよ。」
「トカゲなんだぜ……。」
「やめてくれ……。。」
トカゲはかなり心に来る……。
すると次は霊夢が話し出す。
「奏、それでもうひとつの能力っていうのは?」
「あぁ、それは……。」
話そうとして、1度口篭る。
ハウラとラプラスとの約束を思い出した。
「すまない、詳しくは話せないんだ。
けどまぁ、一言で話すと『全ての限界値を引き出す』ものかな。」
「………。」
「霊夢は見た思うけど、フランを投げ飛ばしたじゃないか。」
「えぇ、見たわ。狂気に飲まれ掛けているフランを投げ飛ばしたわね。……ていうかあの炎の剣を素手で触ってたんだけど。」
「はぁ!?」
「そうなの!?」
「もう私は驚かないぜ!」
レミリアとフランは声を上げた。
「炎の剣って……レーヴァテインの事よね?」
「そうだと思うよ。記憶は曖昧だから分からないけど……。」
「そんな危ないのか?あれ」
「当たり前よ!」
「そうだよ!!」
「フランの持つレーヴァテインは本来、万物を溶かす程の高温に包まれてる筈なのよ?それを掴んだって……。」
「というか私、投げ飛ばされたの……?」
「そうよね…。そこも謎よ。」
レミリアたちは頷きながら眉を顰める。
だが霊夢と魔理沙は話に着いていけていない。
「ちょっと、どういうことよ?」
「全くわからないのぜ。」
「あの時は、狂気と混ざりあっていたからというのもあるけど、本来はとてつもない力を秘めてるの。それに能力であらゆるものの破壊も可能。」
「はぁ……。」
「何となくわかったんだぜ。」
能力だけでなく、フィジカルも卓越してると言うこと。だが先程の能力でも、「限界値を強制的に引き出す」というもの。
「ぁ……そういうこと。」
レミリアはハッとしたように顔を上げた。
「あの馬鹿げた妖力もそういう事ね。」
「……多分正解だよ。」
館の主だからなのか?
勘というか、考察力がすごいな。
「つまりね。能力で限界を引き出し、『破壊』を使って、限界値を破壊。
今まで最大値だったものが、次の通常値になるってこと。これで身体能力も、妖力にも合点がいくわ。」
「わぁお、結構当たってるね」
「さすがお姉様!…私には全くわからないよ。」
普段は妖力とかも抑えてるからな。
よく目を凝らさないと総量は見えないだろうな。
「なるほどね……だったらその身体能力にも納得だわ。」
能力の恒久的な進化と変質。
その異常さを他の4人は理解したようだった。
「フランと戦った時も正直、かなり抑えてたさ。」
「「………。」」
「なるほどね。それで……。」
霊夢はレミリアに視線を移す。
「今回の異変。
レミリアが起こしたのよね?」
レミリアは1呼吸起き、話し出す。
「えぇ。
……多分だけどーー奏、貴方を呼ぶためよ。」




