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第9話 巫女と正体バレと、友情の隠し味

 助かった……のか?


 気が抜けて、その場にへたり込む。


「イェイ! ルーナちゃん、邪気払い、大・成・功!」


 アイドルの決めポーズでキメ顔をするルーナ。


 そうか。

 お菊ちゃんのとき、部屋の隅で妙なことやってたのは――邪気払いだったのか。


 ちゃんと巫女だったんだな。

 てっきり、自分を巫女だと思い込んでるだけの、異世界の痛い女だと思ってた。


 『おめ!』『やるじゃん!』『除霊って初めて見た!』『すごい!』

 視聴者からも称賛のコメントが書き込まれる。


「えへへへ。ありがと、ありがと! ピースピース!」


 本当に嬉しそうに笑っているルーナ。


「それじゃ、みんな、丑三つ時にまた会いましょー! お休みなさい!」


 ルーナがそう言うと同時に、心なしか俺の目の周りが軽くなった気がした。

 視界の端に流れていたコメントも消える。


 ルーナが俺の目と配信のリンクを切ったんだろう。


「ふー! 楽しかった!」


 なんとも無邪気な笑顔だ。

 チャンネル登録者数とか、再生数とか、そんなことよりも、ただただ配信を楽しんだみたいだ。


 視聴者も喜んでたみたいだし、よしとしておこう。


「わわっ!」


 配信が切れたことで、緊張の糸が切れたのか、ルーナがその場にペタリと座り込んでしまう。


「大丈夫か?」

「はは。実は、ちょっと怖かった」


 そりゃそうだ。

 何十人の幽霊と会ってきた俺だって、いまだに幽霊は怖い。

 巫女だからって、危険じゃないわけじゃないはずだ。


「てか、なんで最初から、除霊の術をやらんかったんだよ」

「邪気はね、ある程度、心が澄んでないと払えないんだよね〜」

「心が澄む……って、気が済む的なことか?」

「そう。お菊ちゃんのときは、お皿をあげたでしょ?」

「紙皿だけどな」

「それでも怒られないって思って、ホッとしたんだよ。そういうとき、心が澄むの」


 なるほど、理屈はわかった。


「じゃあ、今のメリーちゃんも『友達ができた』から満足して、心が澄んだってとこか」

「そゆこと。だから私の邪気払いは……ウルトラ〇ンのスペ〇ウム光線、的な感じだね」


 わかりやすい……。

 特撮も観てたのか、意外と守備範囲広いな。


「――いや、ちょっと待て!」

「ん? なに?」

「なぜ、それを先に言わん!?」

「えっ、聞かれなかったから……?」

「お前は使えない新人社員か!」


 まったく……。

 お前のせいで、こっちは死にかけたんだぞ。


「おーい! 大丈夫かーっ!?」


 田中が駆け寄ってくる。


「あれ? 配信は?」

「そんなこと言ってる場合かっ! 心配したんだぞ!」

「……すまん」


 そういえば、途中から全く田中の声が聞こえて来なかったのは、そういうことか。

 配信をすっぽかして、こっちに向かったんだろう。


 田中に視聴者を放置させてしまった。

 何よりもファンを大事にするやつなのに。

 悪いことをした。


「はにゃ……? なんか、急に眠気が……」


 座ったままの状態でフラフラと揺れるルーナ。

 そして、体が淡く光り始めた。


 あっ、待った! 田中に見られる!


 そう思った瞬間、光が収束し、ルーナが3Dモデルから元の姿に戻った。

 そしてそのまま倒れて眠ってしまう。


 呆然と立ち尽くす田中。


「……なんだ、これ? どうなってんだ?」

「いや、これは……その……」


 だが田中はすぐにニヤリと笑った。


「いいさ。訳アリなんだろ? 見なかったことにしておく」



 ***



 寝ているルーナを背負い、田中と並んで歩く。


 ルーナの正体は、少し迷った末、黙っておくことにした。

 言えば、田中はきっと「手伝う」と言い出すだろう。

 でも、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 田中には田中のチャンネル運営がある。

 コラボしてくれただけで、十分すぎるほどだ。


「そういえば田中、お前は来ちゃダメだろ。心霊スポットに」

「あんたが言うなっての」


 頬をつねられる。

 いつもより強めだ。

 やっぱ、怒ってるのかな?


 田中も霊感が強くて、昔は幽霊に悩まされていたのだという。

 さすがに俺みたいに、幽霊から物理的な干渉はなかったらしいのだが、それでも生気を吸い取られたり、軽い呪いとかに悩まされたと言っていた。


 そんな田中も、俺と同様に一人で過ごすことが多くなる。

 そこでハマったのが動画配信で、お試しに自分でも配信を始めた。


 そして、田中は幽霊が視えるということを逆手に取る。

 心霊スポットに行けば高確率で怪異が起こる――それを配信に使い始めたのだ。


 そのことで順調に登録者数を伸ばしていたのだが、ある日、霊に襲われてしまう。

 強力な怨念を持った悪霊で、多少相手が霊感が弱くても、物理的に干渉してくるほどのやつだった。


「あのときは、あんたが助けてくれなかったら、死んでたかもな」

「大げさだ。それに助けたというより一緒に逃げただけだぞ」

「でも心強かったよ。同じくらいの霊感を持つ奴って、今まで誰もいなかったからさ」


 それ以来、同じ大学ということもあり、田中とつるむようになった。


「感謝してんだぞ。何かと気にかけてくれてさ」

「アホか。友達なら当たり前だろ」

「……友達、ね」


 田中が後ろのルーナをちらりと見る。


「ルーナちゃんも、心霊関係で何かあったんだろ?」

「……まあ、そんなとこ」

「妬けるよなー」

「焼ける? 肉でも食いたいのか?」

「バーカ。相変わらず鈍いな、お前は」


 田中が前に回り込み、指を突きつける。


「事情は聞かねえ。でも困ったことがあったら、相談しろ。いいな?」

「いや……お前を巻き込むわけには――」

「気にすんな。友達なら、当たり前だろ?」

「……ありがとう」


 ……まったく、ホントお前はお人よしだよ。

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