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第6話 巫女と友達と、初めてのコラボ配信が始まる夜

「ガワも決まった。カメラも用意できた。それでVtuberで、どんな配信をするんだ?」

「んー。ゲーム配信か大食い?」

「人気のジャンルではあるな。……っていうか、お前、なんでそんなに詳しいんだ? 異世界の人間なのに」

「よくぞ、聞いてくれました!」


 ビシッと人差し指を立てるルーナ。


「これは、私の『原点』とも言える物語……!」


 目を瞑って腕を組み、思い出しながら語るルーナ。


「あれはとても暑い日だった……。本当は修行があったけど、私は休憩の日にすることにした」

「ただのサボりじゃん」

「神気っていろいろ使えるって聞いてたからさ、異世界に逃げちゃおっかなーって」

「怒られるって自覚はあったんだな」

「でもさ、あの時の私はまだ未熟だった。だから視界だけしか飛ばせなかったの」

「今も十分未熟だと思うけどな」

「しかも、異世界っていうか、変な次元に辿り着いちゃった。それがネットの世界だったんだよね」

「……それで、動画を見漁っていたと?」

「そう! その通り! どう? 凄いでしょ? えへへ」


 何が凄いのかまるでわからん。

 サボって怒られるから逃げたってだけじゃねーか……。


 だが、これで色々納得いった。

 どおりで迷惑防止条例なんて言葉を知ってたわけだ。


「ってことで、人気のジャンルはバッチし抑えてあるんだよね。だからゲーム配信か大食いでどう?」

「バツ!」

「なんで!?」

「どっちも金がかかり過ぎる。それに巫女なんだから、それを生かせ。なんのためのその状態だよ」


 わざわざ幽霊が視えるように、幽体化――Vtuber化したんだろうが。


「そうだった。忘れてた」

「……一番大事なこと忘れるなよ」

「じゃあ、お祓い系だね! 視聴者の邪気を祓うとか」

「それが一番ベストだろうな。巫女設定活かせるし」

「設定じゃない! ちゃんと巫女だよ!」


 実際、お菊ちゃんを祓ってくれたしな。

 ……あれを祓ったというのかは別として。


「けど、その視聴者がいねえよな」

「え?」


 俺は巫女ちゃんねるが表示されているモニターを指差す。

 視聴者数は0だ。


「祓う邪気が用意できない。そもそも配信も、視聴者0ってことも十分あり得る」

「そっか。じゃあ、その辺の人のを勝手に祓う?」

「ホラー通り越して通報案件だ」

「じゃあ、どうするの?」


 確かにお祓い系Vtuberなんて聞いたことない。

 引きになりそうだから、変えたくない。


「だから、最初からある程度の視聴者数が必要なんだよな……」

「その視聴者がいないって話じゃん」

「うーん……」


 今度は俺が腕を組んで考える。

 この手はあんま使いたくないんだが。


「……まあ、一応、当てはあるっちゃある」

「え? なになに?」

「ちょっと待ってろ」


 俺はスマホで電話をかける。



 ***


「……あたしにまでサボらせるなんていい度胸だね」

「す、すまん、田中……」


 なんだかんだ文句を言いながら、急な呼び出しにも応えてくれる田中。

 口は悪いが良い奴だ。


 そんな田中を、ルーナがジッと凝視している。

 田中の巨乳を。ガン視している。


「これが……異世界クォリティ……」


 やめろ。

 女でもコンプラに引っ掛かるぞ。


「それよりさ、この子……」

「ねえねえ、この人」

「「誰?」」


 ルーナと田中に、同時に尋ねられる。


 そりゃ、そうだ。

 なんも説明してないし。


「えーと、大学の、唯一の友達の田中玲奈だ。目付きは悪いが、良い奴だぞ」

「目付きは悪いは余計だ」

「で、こっちはルーナ」

「ルーナ? 外人……か」


 田中がルーナの青い紙と目を見て、「なるほど」と頷く――が。


「なんで、外人の女の子がお前の家にいるんだ? ……あ、まさか!」

「ち、違う! 誘拐なんかしてない……」

「妹か」


 ……なぜ、そうなる?

 お前、俺のこと外人だと思っての?


 けど、面倒だから採用させてもらおう。


「親戚の子だ。しばらく預かることになってな」


「ふーん。で、あたしを呼んだのは?」

「新しくチャンネルを立ち上げたんだ。こいつが配信するのに」

「あー、コラボしたいってこと?」

「失敗したら……ヤバいんだ、色々と」


 ずっとルーナと同居する羽目になる。

 それになるべく早く帰してやりたい。


 田中がため息混じりに顔を背ける。


「ったく、お人よしにもほどがあるよな」


 田中が視線を移すと、ルーナが「えへへ」と頭を掻いている。

 

 ……あんま、よくわかってねーな、こいつは。


「あれ? コラボってことはその人も配信者なの?」

「田中はVtuberだよ。登録者数10万だ」

「はえー! すっごい! 神じゃん!」

「あはは……。そう言われると照れるな」


 顔を赤くして、ポリポリと頬を掻く田中。


「よし! あんたの頼みでもあるし、ひと肌脱いでやるか!」

「え?」

 

 ルーナがゴクリと生唾を飲み込み、田中の巨乳を見る。


 スパン!


 頭にチョップをかましてやる。


「いたっ!」


 お前がそんな期待をするな。

 巫女なんだから、もっと清楚に振舞え。


「配信はホラゲーでいいの?」

「あー、いや。その……悪いんだが『心霊スポット紹介』をお願いしたい」

「けど、アレはあんたが止めたんじゃん」

「……俺に秘策がある。成功すれば、かなり強い画が撮れるはずだ」

「あんた、まさか……」


 田中には思惑がバレているかもしれない。

 似た境遇の持ち主だからな。


「そんなに大事なんだ? その子が」

「大事っつーか、切羽詰まってるんだ」


 田中が一瞬、口を尖らせたように見えたが、すぐにニッと笑う。


「オッケー。じゃあ、さっそく今夜やろっか」

「わーい! やったぁ! 初コラボだー!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶルーナ。


 自分で提案しておいてなんだけど。

 ――不安しかねえ。


 だが、やるしかない。

 たとえ、魂が抜かれる危険があるとしても。 

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