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第5話 巫女と認められたい気持ちと、始まりの配信

 ルーナの策略に嵌められ、同居と『巫女ちゃんねる』の登録者数100万を目指すことになった。

 決まったことを悩んでいても仕方ないし、やるからには全力でやるつもりだ。

 達成させて、さっさと帰ってもらおう。俺の平穏な日々のためにも。


 あとは、まあ、ルーナもこの世界に独りなのは不安だろうし。

 

 ということで、朝飯を食べた後、さっそく企画会議に入る。

 ちなみに大学は、田中に連絡して学食のB定食を奢る代わりに代返をお願いした。

 なかなかの痛い出費だ。


「で、何か作戦あるの?」

「お前……まさか、ノープランなのか?」

「それを考えるのがマネージャーの仕事でしょ?」

「マネージャーでもねーし、仕事でもねぇ!」


 現在の『巫女ちゃんねる』の登録者数は『1』。

 俺が登録した分だ。


「これの100万倍か……」

「やっぱ、厳しいの?」

「到達できるのなんて、ほんの一握りだ」


 するとルーナがグッと顔を近づけてくる。


「でもさ! それができたら、たくさんの人に認められるってことでしょ!?」

「そりゃな。少なくても100万人が気に入ってくれてるってことだし」

「やってみようよ! 私、こっちの世界で認められて、母さんたちをギャフンって言わせたい!」


 なんだかわからんが、家族ともあまり上手くはいってなさそうだな。

 俺も人のこと言えんが。


 とはいえ、確かにルーナの言う通り。

 やるしかないのだから、やるっきゃない。


「まずはコンセプト決定からだな。なにかやりたいものはあるか?」

「Vtuber!」

「却下!」

「なんでっ!?」

「ガワを用意できん。金もツテもないからな」

「それなら心配ないでござる」


 ……ござる?


「私、昨日のお菊ちゃんを見て、思いついちゃったのだよ! 新術を!」

「どうせ、みこみこ破みたいなパチモンの術だろ?」

「違うよ! ちゃんとした巫女の術だもん! いいから、そこで見てろっつーの!」


 ルーナは何やら両手で印を結ぶ。


「はあああ! 忍法、変化の術!」


 ……巫女の術じゃねーだろ。

 なに? 巫女って忍術も使うの?


 ルーナが光り始めたと思ったら、その光が収束していく。

 そして、俺の目の前には『3Dモデルのルーナ』がいた。


「うおっ!? やべー! 3Dのホログラムみたいだ!」

「でしょでしょ!?」

「どんな仕掛けだ!? 手品か!?」

「種も仕掛けもございませーん! 正真正銘の忍術でーす!」


 ……胡散臭くなったな。

 ちょっとテンションが下がった。

 なんだよ、正真正銘の忍術って。


「……ね、ねえ、私って……凄い、かな?」

「ん? ああ。マジでスゲーと思うぞ。ほんの少しだけ見直した」

「えへへへへ! やっぱり私、天才じゃーん!」


 ルーナが上機嫌でクルクルと回り始める。


 うーむ。あまり褒めて調子に乗られても困るな。

 このくらいにしておこう。


「てかさ。なんでそのままなんだ?」

「なにが?」

「ガワだよ。普通は実物と違う感じにするだろ?」

「そうなの?」

「もっと可愛い感じにしたらどうだ? トドの被り物した感じとか」

「えー! 私、可愛いじゃん!」

「……そうだけど、自分で言ったからマイナス30点だな」

「ガーン……」


 俺はせっせとキュン子の動画を開く。

 性格は真逆だが、せめてガワだけでもキュン子になれば俺の心の安定度が格段に上がる。


「これ! こんな感じでどうよ?」

「ムリ―! 私は私以外のガワになれないよ」

「へ? なんでだ?」

「この術って、私を一旦、実体から体を解放して概念化するの。でも、それだとカメラには映らないから、表面だけ実体に戻したって感じ」

「あー、そーゆーことね。完璧に理解した(わかってない)」


 何言ってるんだ、こいつ。


「簡単に言うと霊体化かな」

「んー。なんとなくわかったけど、なんで、そんなややこしいことするんだ?」


 そんなことしなくても普通に実物で出ればいいじゃん。

 最初にそうしてたんだし。


「お菊ちゃんのときに気付いたんだけど、私、普通の状態だと幽霊が視えないみたい」

「そういえば、言ってたな。視えないって」


 お菊ちゃんのことは今、思い出してもゾッとする。

 正直、死ぬかと思ったからな。


「だから、こうやって霊体化すれば、視れるってわけ」

「あー、なるほどな。納得」


 何にも考えてなさそうなのに、意外と色々考えてたんだな。

 やるじゃん。


「これでガワ問題は解決、と。次はカメラか。どーすっかな?」


 田中に借りるか?

 いや、ダメだ。貸してくれるわけねぇ。

 けど、買うにしたって、そんな金ねーし。

 10年ローンとかできねえかな?


「仕方ない。最初はスマホで撮るか」

「それも大丈夫。私に任せて」

「マジか!」


 有能じゃん!

 お前、仕事できる子だったんだな。


「えい!」


 いきなりルーナに目付きをされた。


「ぎゃああーーー!」


 前言撤回。

 やっぱ、こいつダメだ。


「なにしやがる!」

「見て見て! ほら!」


 目の奥がキーンと痺れる。

 視界が真っ白だ。


「お前のせいで見えないんだが?」


 数秒後、何とか視力が復活する。

 するとルーナがモニターを指差す。

 

 『巫女ちゃんねる』のライブ配信が開始されていた。

 画面にはモニターが映っていて、その中にはモニターが映っている。

 重ね鏡みたいな、あれだ。


 ……ということは。


「神気で、あんたの目とリンクさせたの。見たものがそのままライブ配信されるよ。これで幽霊とかも映ると思う」

「じゃあ、俺がカメラマンってことか?」

「そういうこと」


 これだと俺の顔が映ることはないから身バレの心配はない。

 そう考えればいいっちゃいいか。


「なんにしても、これで配信の準備は整ったわけだな」

「うん! 頑張って、たくさんの人に認められて――Vtuber王に、私はなる!」


 ……パクったセリフで、決めポーズすんじゃねえ。

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