表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

第4話 巫女と神気と、配信で異世界帰還を目指す件

 ルーナが俺の胸倉をつかんで、グイグイと揺らす。


「どうすんの? ねえ、どうすんの!?」

「俺のせいじゃねーだろ!」

「はあ? あんたが呼んだから来たのに、そういうこと言っちゃう?」

「いや、お前が勝手に来たんだろうが!」

「……ああ」


 ピタリと動きを止めるルーナ。

 どうやら、ここに来た経緯を思い出したらしい。

 少し考えた後、ルーナはグッと拳を握りしめる。


「ふっ。こうなったら拳で語り合うのみよ」

「面白れぇ。男女平等主義者だぞ、俺は」

「くらえ! み~こ~み~こ~」


 ふん。馬鹿が。

 みこみこ破が出ないことは既に知っている。


「破っ!」

「ほげっ!」


 ルーナの拳が俺の顎にクリティカルヒットする。


 物理だと!

 それに、それだとかめ〇め波というよりジャ〇ャン拳じゃねーか。


 脳が揺らされ、意識が遠ざかっていく。

 こうして俺はルーナと拳で語り合ったのだった。

 ……俺は語ってないけども。



 ***



「で? どうするんだよ、これから」


 目を覚ませば全部夢だったと言うオチに期待したが無駄だった。

 しっかりと俺の部屋に居座っている。

 ……追い出せるはずもなく、結局、なけなしの麦茶まで用意してやったのだ。


「うん。あんたが気絶している間、動画見て楽しんでたんだけどさー」

「……帰る方法考えろよ」

「すっごいことに気づいちゃった!」


 ルーナはそう言って、動画サイトを開いてある動画を指差す。


「これ」

「……メカキンの動画がどうかしたのか?」


 メカキン。

 言わずと知れたYouTuberの王者にして神だ。


「動画から物凄い神気を感じて、何かなって思ったらメカキンの動画だったの」

「神気って、こっちに来るときに道を作るために必要な力だっけか?」

「思いの力って言うか、霊力って感じ? 思い込みが激しい人ほど強いってやつ」

「あれだな。宗教にハマって騙されやすいタイプのやつだな」


 ……ん?

 俺も神気強いとか言われてなかったっけ?

 騙されやすいのか、俺?


「で、気付いたんだけど、チャンネル登録者数と神気の量が同じだったの」

「……つまり、登録者数が増えるほど神気も増えるってことか?」

「そう。ちなみに私の神気は53万です」

「お前は1だよ。銃を持ったおっさん以下だ」


 仮に53万だったとしても、メカキンの10分の1以下だぞ。


「神気は思いの力って言ったじゃん?」

「ああ」

「動画を見て、面白いって感じる。それって人を幸せと思わせてるんだよ。たとえば、落ち込んでた人が笑えるとかね」

「うーむ。幸せにしてくれる動画だから、チャンネル登録するってことか」

「そう! そういうこと! ルートを繋ぐときに神気を使い切っちゃったから、貯めればまたルートを繋げられると思う!」

「帰るためには配信して、登録者数を増やさないといけないってことか?」

「そうなるね」

「どのくらい増やさないとならないんだ?」

「100万人!」

「……」


 無理だろ。絶対に。


「……そうか。頑張れ」

「頑張るぞー! おー!」


 右拳を振り上げ、気合を入れているルーナ。


「じゃあ、了承を得たってことで」

 

 今度は親指をグッと立ててどや顔をしている。


「ん? 了承?」

「私、好き嫌いないけど、お肉は必須だから! 絶対に! 破ったら私からの神罰(物理)ね♡」

「何の話だ?」

「ご飯の話」

「違くて、今の話だとここに住むって聞こえるんだが?」

「よかったねー。こんな美少女と一緒に住めるんだよ? 普通はお金払うくらいだよね」

「帰れ! すぐに!」

「だーかーら! 帰れないって言ってんじゃん」

「いや、そうだけどさ」


 するとルーナがポツリと独り言を呟いた。


「……結局、こっちでも私の居場所はないのかな」

「っ!?」


 不意に出た本音だろう。

 同情を誘うというより、自虐的な声のトーンだった。


 やめてくれ。

 それは俺もずっとずっと思ってきたことだ。

 これ以上、俺と重なるようなことを言うな。

 放っておけなくなるだろ。


 ……だが、待て。流されるな。

 人ひとりを極貧の俺が養えるわけがない。

 下手したら共倒れだ。


 こうなったら、最終奥義を使うしかないな。


「男と女が一つの部屋で寝るのはマズいだろ? 何かあったらどうするんだ?」


 こう言えばさすがに我に返るだろう。

 ふふ。さあ、悲鳴を上げて出ていきたまえ。


「ふふん。甘いね。そう言えば私がビビるとでも思ってるの? けど、残念でした! 私には作戦があるんだもんね」

「ほう? 作戦とな? どんなのだ?」

「あんたが外で寝ればいい」

「舐めとんのか!」


 なんで家主の俺が野宿せにゃならんのだ。


「もういい。今、警察呼んでやるから、かつ丼食わせてもらってから、コンクリートの部屋で寝かせてもらえ」

「おやおや? いいの? 本当にいいの? 警察なんて呼んじゃって」

「な、なにがだ?」


 急にルーナが涙目になって両手で自分の体を抱きしめる。

 そして小さく、震えた声でこう言った。


「この男、迷惑防止条例違反者です……」

「なぜ、異世界の人間のお前が、そんな言葉を知っている……?」


 ルーナがいつものどや顔に戻り、ポンと俺の肩に手を置く。


「かつ丼食わせてもらってから、コンクリートの部屋で寝かせてもらいなよ」

「ち、ちくしょーーーー!」



 考えてみれば、『この世界』ではルーナは独りだ。

 追い出してしまえば行くところがない。

 

 そんなのは高校時代の俺よりも詰んでいる。


 しゃーない。付き合ってやるしかないか。


 こうして、俺はルーナと同居する羽目になったのだった。

 チャンネル登録者数100万にするという無理ゲーに巻き込まれるおまけ付きで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ