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第2話 巫女と動画と、転がり込んできた非現実

 ショックのあまり、頭が真っ白になる。

 ……これは小学生の頃、持ってきたハンカチが母ちゃんのパンツだったときと同レベルの衝撃だ。


 俺の推し、猫山キュン子が――引退。


 トドみたいな被り物をしたガワに一目惚れして、毎日配信を楽しみに生きてきた。


 なんでだよぉ! これからだったじゃねーか!

 登録者数も100の大台に乗ったし、再生数だって50を超えるようになってきたのに!


 それに!

 3000円投げ銭したとき、「これで友達だね!」って言ってくれたじゃねーかよぉ!


 お前もか! お前も俺を裏切るんだな!?


 ……おのれ。


 このうらみはらさでおくべきか――。


 俺はキュン子のチャンネルの登録を解除する。

 チャンネル登録者数が99になった。


 ……虚しい。


 復讐は気分爽快、ストレス解消、尊厳回復できると聞いていたんだがな。

 嘘だったようだ。


 家の中の、唯一の画面越しの友達。

 それを失ってしまった。

 俺はまた独りだ。


 この寂しさをどうやって癒せばいいのだろう?


 そうのとき、フォンと音が鳴り、画面の右上に新着動画が現れる。


 『巫女ちゃんねる』


 アップされたばかりで、再生数ゼロ。登録者ゼロ。もちろん高評価もゼロ。

 サムネは黒背景に『邪気を払ってあげる』の文字だけ。


 初めのキュン子もこんな感じだったな。

 俺の新たな『友達』になってくれるのか?

 

 物凄く痛いが、月1000円までならお友達料を払ってやるぞ。


 期待を込めて、再生ボタンを押す。


 映ったのは、神社のような場所。

 でも神棚は明らかにチープで、どこか『作り物』感がある。

 異様な静けさの中、青髪ロングの巫女服の少女が頬杖をついて寝ていた。


 寝顔スタートって斬新だな。


 少女の寝息と、時々、「ふがっ!」っと女の子があげてはいけない寝言だけが聞こえてくる。


 時折、オーブのような光の玉が少女の周りを浮遊する。

 動画を撮ったのはおそらく朝で、日の光が部屋に入ってきているのに、それ以上にオーブが光っていた。

 虹色に光って神聖っぽいけど、生き物みたいに動いてて不気味。

 アンバランス極まりない。


 というか、なんで、こんなところを無駄に凝る?

 もっと、内容に力を入れろよ。


 そのまま寝顔が流れ続けて10分が経過。

 

「いや、長ぇよ!」

「にゅあああっ!」

 

 突っ込むと同時に少女が起きた。


 そして――。


「あああああ! ホントに繋がったぁ!」


 起きた少女が、まるでこちらを見透かすように、画面越しにズンッと顔を寄せてきた。


 あれ? これ、ライブじゃなくて動画だよな?


「凄いじゃん、私! 実は天才だったり? まあ、仮にも神環の巫女だからね」


 何を言ってるんだ?

 どんな設定だよ。いきなり言われてもついていけん。


 ……ダメだ。痛すぎる。

 残念だが、この子とは『友達』になれそうにない。


 リモコンを手に取り、モニターを消そうとした瞬間――。


「わー! タンマタンマ! ちょい待って! 消さないで!」


 少女が手を振って慌てている。

 どう考えてもこっちが見ているとしか思えない。

 

 ライブか? 動画の皮を被ったライブなのか?


 いや、んなわけない。

 仮にライブだったとしても、俺の方はカメラがついてない。

 どうやったって、あっちからこっちが見えるわけがない。


 なんか怖ぇ。

 消した方がいいな。


「あははは。同じくらいの人と話したのって、初めてかもー。テンション爆上がり!」

「……え?」


 無邪気に言ったその言葉が、妙に俺の中にジワリと侵食してくる。

 

 初めてってどういうことだ?

 そんなの、まるで――俺みたいなセリフだ。


 だが、少女はすぐに胡散臭いことを言い出す。


「むむむ! 見えます、見えます! あなたの傍に邪気がついているのが!」

「……見えるのか?」

「んー? 女の人? 髪が長くて、なんか白い変な服着た人」


 その姿、覚えがある。

 ……お菊ちゃんだ。


 けど、なんでこいつがそれを知ってるんだ?

 

「なんかお皿の数、数えてるよ?」

「ちょっと待て。これ、動画だろ? なんでこっちの状況がわかるんだ?」

「あはは。7枚も足りないの? 足りなさすぎー」

「お前は、人の話を聞かなさすぎだー」


 すると画面の中の巫女がハッとして、「メンゴメンゴ」と謝ってくる。


 はい、こっちのこと見えてて声が聞こえるの確定。


 けど、どんな仕掛けなんだ?


「おけおけ。それじゃ、超絶美少女巫女のルーナちゃんが、さっそくあなたの邪気を祓ってあげる!」


 ルーナって……。

 巫女なのに和風な名前じゃないんだな。

 差別化ってやつか? 


「いくよー! んーーー!」


 ルーナは胸の前で両手をクロスさせる。

 そして――。


「やーーーー!」


 両手を開いて、こっちに向けた。


 ……しばしの沈黙。


「どう?」

「なにがだ?」

「今ので邪気。祓えた?」

「俺が判断するのかよ!」


 その辺は自分で「邪気は祓われました」とか言えばいいのに。


「やっぱ、空間越しだとわかりづらいなぁ。……あれ? 君、神気すごいね」

「神気?」

「こっちとそっちの世界を、神気で結んで道を作れないかな?」


 物凄いことを言い出す。


「……おけ、いけたっぽい! やっぱ私天才かも! よし、行くぞぉー!」

「は?」


 ルーナがそう言った瞬間、モニターの画面がグニャリと歪んだ。


 同時に、俺の部屋の明かりがバチバチッと音を立てて消える。


「なんで俺の部屋まで……?」


 次の瞬間、部屋の中央に巨大な光の玉が出現した。


 光は電撃のように爆ぜながら、音を立てて収束していく――。


「イェイ! ルーナちゃん、降っ臨っ!」

「……は?」


 なんと、画面の中にいた青髪の巫女――ルーナが、現実の俺の部屋に立っていたのだ。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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