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第12話 巫女と迷子と、カメラに映らない人と話してた件

 稲荷がルーナの中に入ったまま逃げて行く。


「ちょっと待って! 何もしないから!」


 だが、俺の言葉は届くことなく、逆に稲荷の走るスピードが増した。

 そして、物凄い勢いでそのまま廃病院の中へと駆け込んでいった。


 『そんなこと言われたら誰でも逃げる』『完全に不審者の台詞』『事案です。通報しました』『犯罪者予備軍』

 と、コメントで叩かれる。


 うっさいわ!

 自分でも『何もしないから』はないと思ったよ、ほんとに……。


 とにかく、稲荷を追うしかない。


 ……にしても。

 病院の中には入りたくなかったんだよなぁ。


 入口のガラスのドアは割れていて、難なく中に入ることができる。


 当然ながら、中はガランとしていて静寂に包まれている。


 『うわー。夜の廃病院ヤバい』『これ絶対出るやつ』『そこ、人魂出るよ』『さよならカメラマン』

 書き込みにあるように、本当にヤバい。


 窓はところどころ割れてて、壁には血のように赤い手の跡がついている。

 古びた扉が風もないのにギィと軋む。


 くそ。

 雰囲気作りのためにこんな場所を選ぶんじゃなかった。


 すると――。


 『あれ?』『画質悪くなった』『電波障害か?』

 なんていうコメントが書き込まれた。


 稲荷に憑りつかれたせいでルーナの術が弱まり、俺の目と動画のカメラのリンクが切れかかっているのかもしれない。

 そうなると、完全に切れる前に何とかルーナを見つけて、稲荷に憑りつかれているのを何とかしないとならないのか。


 ドンドン追い込まれていってるよな、俺。


「稲荷ー! 悪かった。話し合おう!」


 虚しく声だけが反響していく。

 

 そして、俺の中の『なんかやべぇ気がするセンサー』が滅茶苦茶アラートを鳴らしている。


 これ以上、進みたくねえな。

 ……朝まで待つか?


 いや、ダメだな。

 ルーナは3DモデルVerのままだ。

 おそらく、今は神気ってやつを垂れ流しにした状態のはず。

 コラボの時でも体力をかなり消耗してたからな。

 朝までなんて、絶対にもたないだろう。

 下手したら命に係わるかもしれない。


 あー、もう!

 巫女なのになにやってんだよ!

 払う側なのに、憑かれるなよ!


 ゆっくりと慎重に廊下を進んでいく。

 何かあったらすぐに対処できるように、敢えてこのくらいのスピードなのだ。

 決して、ビビってるわけではない。


 病院の幽霊って、未練が強くて、強力な怨霊になることが多いんだよ。

 もし遭遇しようもんなら、ルーナよりも俺の方が先に命の危機に陥る可能性が高い。


 だから、このくらい慎重になるのは――。


「ちょっと!」

「ぎゃああああああっ!」


 廊下を曲がったところで、いきなり声をかけられた。

 

 『ビビりすぎw』『なんで大声上げた?』『その声にビビったんだが?』

 そんな、馬鹿にしたようなコメントが流れる。


 いや、これはビビるって!

 口から心臓が逃げていくかと思った。

 お前らは、画面越しだから余裕ぶってられるんだぞ!


 落ち着け。まずは深呼吸だ。

 

 そして俺はゆっくりと振り返る。


 するとそこに立っていたのは、ショートカットの若い女性だった。

 Tシャツにジーンズというカジュアルな格好をしている。


「なにしてるの!?」

「こっちの……台詞です」


 深夜の丑三つ時に、こんな場所に来るなんて俺たちくらいだと思ってたんですが。

 ガチの心霊スポットなんですけどね、ここ。

 遊びで来るようなところじゃないですからっ!


「私、ここの管理会社の人間。心霊スポットとか言って、来る人が多いんだよね」

「ああー。なるほど」

「しかもさ、画が栄えるとか言って、動画配信する人もいるんだよね」

「うわー。最低ですね。配信者の風上にもおけないですよ」


 うーん。ブーメラン。

 なんか、心がズキズキと痛い。


「君って、大学生でしょ?」

「ええ、そうです」

「やっぱりね。で? ここでなにしてるの?」

「妹が、迷子になっちゃって」

「ホントに? マズね、そりゃ」

「はい。すこぶるマズイです」

「よし、わかった。私も探すの手伝ってあげる」

「本当ですか? 助かります」


 よかった。

 なんでこんなところに妹を連れてきたって聞かれたらどうしようかと思った。

 さっきの手前、動画配信中だなんて絶対に言えないからな。


 深夜の病院の廊下を、お姉さんと並んで歩く。

 静かなせいか、俺の足音だけが妙に響く。


「あの……ライトとかないんですか?」

「うん。忘れちゃって。だからライターを探してるだけど……君、持ってたりする?」

「いや、持ってないです」

「あらら。残念」


 そう言って笑って、暗がりの中を足元ぜんぜん気にしないで平然と歩いていくお姉さん。

 なんで普通に歩けるんだろ、この人。

 窓から月明かりが入ってきているとはいえ、かなり暗いんだが。


「君って、幽霊とか見えるタイプ?」

「え? まあ……人並みには」

「そうなんだ? いいなぁ。私は見たことないんだよね」

「見えていいことなんてないですよ」

「ふーん。そういえば、ここで幽霊が出るって話、知ってる?」

「心霊スポットですから、出てもおかしくないですよね」

「その幽霊って、何かを探しているみたいで、彷徨ってるらしいんだよね」

「何かって、なんですか?」

「本人も忘れちゃったみたい」

「大変な話ですね」

「しかもね、自分が幽霊って気付いてないんだって」

「……なるほど」


 そのとき、こんなコメントが書き込まれた。


 『さっきからカメラマン、誰と話してんの?』『恐怖で精神逝ったか?』『そこの精神科で診て貰え』


 ですよねー。

 管理会社の人でもこんな深夜に一人でいるなんておかしいと思った。


 どうりでさっきから冷汗が止まんないわけだ。


 いやね、実は薄々は気付いてたんだ。

 ここに出る幽霊って――あなただったんですね!

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