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第七話 コーゼス闘技大会(後編)

遅くなってすいません・・・

英語のセミナーを受けに行ってたらいつの間にか日が経ってました。

次は一週間以内に投稿出来るように頑張ります。

「では、はじめっ」


 審判の掛け声と同時にこちらに向かってくるアレフ。そのスピードはこの大会で戦った弓使いと同程度だ。弓使いが軽装であったことと、アレフが頭部以外を覆う鎧を着ていることを考慮すれば、これは驚異的なスピードと言えるだろう。


 だが、その剣先は空を切った。


「なにっ!」

『おおっと!これまで相手が何かしてくる前にことごとく弾き飛ばし、勝利を収めてきたマキアス選手が始めて剣での攻撃を避けました!これはアレフ選手に攻撃する隙が無かったと言うことかー!?

 そうだとしても素早さに定評のあるアレフ選手の斬撃を避けてみせるマキアス選手もやはり只者ではありません!』


 会場が声援に沸く。今回だけは、すぐ終わらせずに付き合ってやるよ。


 すぐにまたアレフが攻撃を仕掛けてくる。素早く横に剣を薙ぎ、足払いをかけ、俺を切りつけようとする。

 だが俺には当たらない。鎧にかすらせてすらいない。ほんのわずか、まさに紙一重で全ての攻撃をかわし続ける。


 まるで二日前、アレフが棍棒を持った傭兵にしたように。

 違うのは俺がいまだ攻撃を仕掛けていないという事だけだ。


 アレフがそんな馬鹿なとでも言いたげに歪めた顔で、何度も俺に肉迫しようとする。


 ――――――馬鹿め。








 俺は悪魔だが、ほとんどの悪魔が備えているような特殊な能力や魔法の力を、一つの例外を除いて持っていない。


 なぜ持っていないのか。それはそれらの能力を獲得するための時間を別のことに使ったからに他ならない。その時間のほとんどを、俺は戦いの技術を磨くために費やしたのだ。


 俺の優しい上官は戦う力を持た無いにもかかわらず、26の軍団を率いて戦わなければならなかった。俺は彼女の最も傍に控える副官であり、騎獣であり、護衛だった。


 生まれて幾千年俺はそれだけの為に生き、幾多の戦場を越え、死体の山を築いた。


 俺にとって彼女を守ることが、敵を殺すことが、人生の全てだったのだ。





 ――――――その俺が、お前みたいなヒヨッコの攻撃を避けれない訳無いだろう?





 Side:アレフ


 ―――――僕はとんでもない思い違いをしていた。




 最初彼の戦いを見た時は、大柄とは言えない体から生み出されるその桁外れの膂力に驚いた。まるでどこかの物語の英雄のような力を持つ彼に、それほど腕力があるとは言えない僕は正直憧れの様なものを感じた。感動すらしたかも知れない。


 でも何度か彼の試合を見るうちに、僕は彼を侮蔑の思いで見るようになった。


 彼はあれだけの力を持っているのに、それを振り回すことにしか使っていない様に見えた。相手がどんな人間であってもやることは同じ。ただその圧倒的な力で叩き潰すだけ。


 理不尽だと思った。この大会の参加者はみんなそれぞれ何らかの思いを持って参加している。それぞれが額に汗して精進し、技術を磨き、体を鍛える。その努力の結晶を、まるでなんの価値も無いかのように粉砕する彼は、人が長い年月をかけて築き上げた街をたった一日で粉砕する巨大な竜巻のようだった。


 だから僕は彼を倒そうと思った。僕の技術が、今まで血を吐くような努力をして得たものが彼の圧倒的な力に勝ると信じていたからだ。ただ単純な力なんかに僕は負けないと証明したかった。


 ある意味でそれは証明されたのかもしれない。



 今僕の目の前でひたすら攻撃をかわし続ける彼は、単純な力なんかとは断じて違う。その足運びも、剣先を見切る目も、間違いなく僕の努力など塵芥ちりあくたに過ぎぬほどの膨大な鍛錬の末に彼が得たものなのだろう。

 今の彼は竜巻などではなく、信じられぬほどの努力と経験を積んだ、万軍に勝るたった一人の軍勢レギオンだ。


 僕は無意識のうちに口元がほころぶのを感じた。そう、僕は正しかったのだ。

 たゆまぬ努力で得た技術は、圧倒的な力に勝る。


 今の彼はまさにそれを体現していると言ってもよかった。

 僕が憧れたもの―――――目指すものはこれなのだ。


 そして彼の実力の一端でも引き出せた事を、僕は神に感謝した。




 Side:マキアス


 さっきまで信じられないような物を見たかのような顔をして、精彩を欠いていたアレフの剣筋が急激に力を取り戻していくのを俺は感じた。

 アレフはさっきまでの動揺が嘘のように生き生きとした表情で俺に向かってくる。初めのどこか見下したような色は完全に消え、むしろ夢物語に登場する英雄に思いがけず出合い指南の機会を得たような、そんな興奮が見て取れた。


 もっとも本領を発揮しようがしまいがヒヨコはヒヨコ、俺からすればその変化は特に警戒すべきことではない。

 まあしかし、俺はこいつを少々見くびっていた。周りにちやほやされて天狗になってるだけの青二才かと思いきや、俺の技量を目にして向かってこれるとはなかなかに芯が強いようだ。


 この男は腕はまだまだだが剣士には違いない。ならば俺も剣士としてこの試合を終わらせてやろうと思う。



 司会者も観客も言葉を失って見守る中、俺はアレフの剣を払って奴が僅かに体勢を崩した隙をつき、首に剣を突き付けた。





 試合は終わった。審判も司会者もまだ夢を見ているように呆けていたが、誰の目から見ても俺の勝ちだ。

 俺が剣を収めると、同じく剣を収めたアレフが俺の前で膝を折って言った。


「先ほどの無礼な発言を忘れて下さい。恥ずかしながら、水龍に泳ぎを教えると言ったようなものでした。貴方は素晴らしい剣士だ」



 ああ、試合前のあれか。たしかにカチーンと来たけど、今考えればあんなてきとうすぎる試合をずっとしてきた俺にも非があるよな・・・

 ていうかあんな挑発に乗るなんて俺すげえ大人げなかったな。相手はたがが生まれて20年もしないようなガキなのに。子供の挑発に乗って本気で叩き潰す大人とか・・・もっと自制心が欲しいぜ。


 なんか罪悪感を感じたので俺も膝をついてアレフにだけ聞こえるような声で囁いた。


「いや、俺もアンタのことを誤解していたようだからな、気にしないでくれ」


 俺に宣戦布告することで精神的に追い詰める作戦なんじゃないかとかな。正直かなり腹黒くて高慢ちきで嫌味な野郎なんだろうと思ってた。だがどうやらあの精神攻撃は偶然の産物だったらしい。


 今思えばまともにアレフと会話したのは今のが初めてなのだ。どんな人間か判っていたつもりの自分が恥ずかしい。



 その時観客席から笑顔のヒルダがかけよって来た。そのまま俺の首に飛びかかる。


「すごい!私マキアスのこと力だけが取り柄の悪魔ヒトなんだと思ってましたけど、実はすごかったんですね!見直しました!

 動きの一つ一つが見たこと無いほど速くてきれいでしたよ!」



 ・・・え、なんかあんまり嬉しくないぞそれ。


 やっぱりヒルダも俺のこと脳筋だと思ってたのか。まあ何も悪魔らしいとこ何も見せてないから仕方ないんだけどさ・・・





『感動ですっ!!!!!』


 は?


『敵わぬことを悟った後も果敢に挑む若き聖騎士と、それに真摯な対応で答えた流浪の英雄・・っこれほどの剣士がただ者であるはずがありません!彼はきっと騎士アレフの成長のために天がこの街に使わしたに違いないでしょう!我々は今日、奇跡を見ましたっ!』


 ちょ、おま、司会このやろう。なに訳のわからない事を言い出すんだ。


 

 それと同時に固まったままだった観客が、「感動した!」だの、「あんたは素晴らしい人だ!」だの言いながら一斉に俺とアレフに向かって駆け寄ってきた。


 なんなんだこれは。どうしろと言うんだ。

 俺はヒルダを片手でかばいながら観客にもみくちゃにされた。四方八方から「故郷はどこ?」「どこで剣技を習ったの?」「どんな戦いを経験したのか?」と質問が飛んでくる。どうすればいいのかわからんので横目でアレフを見ると、なんか余裕の対応をしていた。ムカつく。


「その娘は貴方の恋人なんですか?」「結婚はなされてる?」「その娘はとても熱心に貴方の試合を見ていましたよ。お熱いですね!」


 おい。なんか変な方向に話が飛び火したぞ。


 ヒルダが慌てて「け、結婚なんてしてません!」と顔真っ赤にして抗議しているが、観客達は訳知り顔で何やら勝手に納得している。


 そのとき何やら質問に答えていたアレフがふいにこちらを振り向いて、輝かんばかりの笑顔で俺たちに大声で呼びかけた。


「マキアスさん。よろしければこの街で式を挙げられては?うちは教会なんです。歓迎しますよ!」


 アレフのこの一言が決定打だった。ヒルダの猛烈な抗議にもかかわらず、なんでかこの街で俺とヒルダは恋人同士という風に認識されてしまった。


 それから俺達はこの街にいる間、宿屋でベッドを一つにされたり、薬屋で避妊薬をサービスされるなどの様々な余計な気遣いと共に、人々の生温かい視線を受けるはめになる。





 アレフ・・・お前ほんとにワザとやってるんじゃないだろうな・・・


アレフは天然ですよヽ(´▽`)ノ

天然で相手を精神的に追い込むって腹黒よりタチ悪いですよね。

次アレフを連れていくかどうかでえらい悩みました・・・


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