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第二話 逃走

 召喚されたらそこは敵の真ん中でした。



 いつもなら召喚される前に元の狼の姿に戻って、スモークたいて「我を呼び出したのは汝か?」とかかっこつけて登場するんだけどね。召喚者に侮られないように。(魔術師ってのはたまーにやたら横柄な奴がいるから困る)

 でもついさっきまでデスマーチのような書類地獄を味わっていた俺にそんなことを気にかける余裕も時間も無いから。普通にスーツ姿だよ。


 邪教の神官達の死体が転がる血なまぐさい広間で、悲壮感漂う、だが闘志は衰えてませんって感じの騎士団が巫女姫の消えたおぞましい魔方陣を凝視する。

 そこに現れるサインペンを持ったままの俺。



 シュールすぎる・・・

 

 騎士団の人らなんか( ゜д゜)って顔して固まってるじゃねえか。こっちみんな。


  ・・・・・・・・・

  

  ・・・・・・・


  ・・・・


 お、俺はどうすればいいんだ・・・なぜか召喚者既に死んでるし。お前が呼んだんだからせめて指示のひとつでも残してから逝けよ。何したらいいのかさっぱりじゃねーか。


 そんなことを考えてたらようやく騎士団のリーダーが金縛りから復活したらしく、なにやら目配せをし始めた。

 お、ついにこの気まずい現状を打開してくれるのか。


「あいつを捕らえろ!抵抗すれば殺してもかまわん!」


 ですよねー!


 捕まって悪魔であることがばれたらほぼ間違いなく殺されるので俺は逃げるぜ。

 いやまあ、この程度の規模の騎士団なら楽勝でミナゴロシにできますけどね?グラシャラボラスとかと違って俺は別に快楽殺人狂じゃないし、それに俺からしたら誤召喚みたいなもんだからなぁ。俺のつまらないミスのせいで死ぬとか超不憫、かつなんか俺の後味が悪いし。


 俺は矢を掴み取ったりサインペンで剣の軌道を逸らしたりしながら迫り来る騎士たちの間をぬって広間から脱出し、神殿の出口へ続いてると思われる廊下を全力で走る。兵士の死体や破られた扉とか、騎士たちが突破した跡が残ってたので案外たやすく外に出ることが出来た。そのまま深く茂った木々の中に逃げ込む。


 はっはー!森の中で元が狼の俺に甲冑着込んだ騎士たちが追いつけるはずねーだろ!

 俺はそのまま時々現れる魔物の上を飛び越え、あるいは投げ捨てながら山脈を走りぬけ、おそらく国境線か何かだと思われる高い壁を越えた。



「うん。ここまでくればとりあえず大丈夫だろう。人の足なら3日はかかる距離離れたし」


 それにしてもあれだ・・・本当に人間界に来ちまったんだなぁ・・

 

 辺りを見回すと爽やかな風が駆け抜ける草原。その向こうには賑やかそうな商店がいくつもある大きめの町がある。遠目には羊飼いに連れられてきた羊達がたくさん散らばっているのが見える。

 ・・・なんとも平和な光景だ


 俺は昔から人間界に行きたいと思ったことはないし、そのために人間の欲しがる能力を獲得しようとしたことも無いから、必然的に呼ばれることも少なかった。

 俺が持つのは、磨いてきたのは破壊の為の力。戦争で使えるものだけだ。

 

 こんなに平和な光景を見る機会はひょっとしたらこれ切りかもしれない。そう考えると少しだけ得をしたような、前向きな気分になれた。


 気持ちのいい日が射す原っぱに寝そべりながらこれからのことを考えてみる。


「どう考えてもまずいよなぁ・・・」


 天界と停戦協定を結んでいくらもしない内にそれを破ってしまった。天界にバレたらいくら事故だの手違いだの言っても今まで殺しあってきた相手のことなど信じようとしないだろうし、魔界のほかの悪魔達にバレても戦争推進派の連中が『私は協定を守るつもりでしたが、あの人が先走ってしまったのではしかたないですなぁ~』とか言いながら責任を全て俺に押し付けて戦争を再開させるに違いない。


「やっぱりバレない様にこっそり帰る道を探すしかないか・・・」


 召喚された悪魔は通常、召喚者の望みを叶えれば帰還出来る。でも俺の場合既に召喚者が死んでるのでそれはできない。

 他の方法としては、人間界で生まれた強力な悪魔が魔界に行くための通路があるが、よくこの通路をつかって魔界の悪魔が人間界に出入りしていたので、停戦協定にともなって立ち入り禁止になっている。


 あれ、八方ふさがりじゃねえかこれ?

 ・・・・・・・

 だめだ、普段から正規のルートしか使うつもりの無い俺には他に何も思いつかねぇorz


 ・・・しょうがない。ゴモリー先輩に連絡してみよう。


 俺は懐から携帯を取り出してゴモリー先輩に電話をした。


『あらマーくんおひさしぶりー。どうかしたのー?』


 ぐっこの無邪気な声を聞くとこれから言うことに対してすごい罪悪感を感じるっ!


「あの、すいません先輩。軍関係の書類になぜか召喚要請の書類が混じってて、うっかり召喚されちゃったんです。どうしたらいいでしょうか?」


 電話の奥から今の俺の言葉を理解しようとしている気配。沈黙が痛いぜ。



『・・・ん~、状況を詳しく説明してくれる?』


 そういうわけで俺はできるだけ詳しく召喚されてから今までの事を話した。





『えっとねーそれはやっぱり天界にも魔界のみんなにもばれちゃったらマズいわー。私もふさがれてない通路とか、人間界から魔界へ帰れる他の方法をみんなからそれとなく聞いとくから、しばらくはおとなしく待ってて?マー君が元の姿で暴れまわったら一発でばれると思うからー』


「そんなことしませんよ・・・とりあえず人の姿で生活してたらばれませんよね?」


『うんー。今は天界も魔界も人間界に対して基本不干渉だからー。多少人間ができる範囲を超えたことやっても大丈夫だとは思うよー。狼の姿になっても飛び回ったり爆撃したりしなければ大丈夫ー』


「しませんて・・・わかりました。俺もこっちで帰れる方法を探してみます。迷惑かけた埋め合わせは帰ってからちゃんとしますから」


『ん。楽しみにしてるよ。バイバーイ』


 ゴモリー先輩はまじでいい人だな。

 よし、先輩にできるだけ迷惑かけないためにもがんばろう。


 そう決意を新たにして立ち上がった俺の目の前に美少女が浮いていた。







 ・・・・?  え、なに、幽霊? 俺になんか用?



 ゴモリー:ソロモン72柱序列56位の魔界の公爵。

 公爵夫人の冠を携えた美しい婦人。数少ない女性悪魔の一人でラクダに乗って現れるといわれている。穏やかな性格で争いを嫌う。召喚者に老若問わず、女性の愛をもたらす力も持つ。

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