保健室へ
「ちょっと!? 顔真っ青じゃない! 大丈夫? う、うわっ、吐いちゃってるじゃん……」
顔を上げるとそこにはサキが引いた顔をしてたじろいでいた。
「ご、ごめん、ちょっと調子悪いみたいでさ。吐いちゃって……す、すぐに掃除するから」
そういって掃除用具の入ったロッカーに行こうとすると、ぐっと腕を引っ張られた。
「ちょっと! なに言ってるのよ! そんな真っ青な顔して掃除なんてしてたらぶっ倒れるわよ。掃除は誰かにやってもらってすぐ保健室行くわよ!」
早口でまくし立てるサキに唖然としていると、サキは続けて近くにいた男子生徒に話しかけた。
「リンリン! そいつの片づけお願いね!」
「え~、僕そういう性癖はないんだけどな~」
「こんな時にくだらないこと言ってないの!お願いね!!」
「ハードル高いよ~」
彼がなにを言ってるのかわからないかと思うが、僕もよくわからない。彼はそういう男? なのだ。
彼の名前は鈴木倫次、苗字の鈴と名前の倫をとってリンリンだ。
見た目はどう見ても女の子だが間違いなく男だ。一年生のオリエンテーション合宿の時に一緒にお風呂に入ったから間違いない。
彼はなぜか女装が趣味で、常にゴスロリの服を着ている。そしてなぜか女の子みたいにいい匂いがするのだ。男なのに……
そしてさらにいうと言動が常におかしい。多分性的なことを言っていると思うのだが、レベルが高度すぎて僕たち高校生には到底理解が及ばないのだ。
話が逸れたが、僕が排出した汚物の処理は申し訳ないが、リンリンにおまかせしてサキに保健室に連れて行ってもらうことにした。別にひとりでも行けると思うのだが、断るとサキがうるさいのは目に見えている。
「ほんとに大丈夫? 肩に掴まってもいいからね」
「あ、ありがと。でもほんと大丈夫だから」
「ほんとかな~。おねえちゃん心配だよ~」
「誰がおねえちゃんだよ……」
「なんかさー、ハルって同級生ってかんじしないんだよねー。年の離れた弟ってかんじでさー。ついつい世話焼きたくなっちゃうんだよねー」
ぐぬぬ
なんかショックだ。まぁ見た目も幼いし、背も高くない。街に買い物に行っても小学生に間違えられるし、お年寄りがよく飴をくれる。
実は小学生の時から身長が変わっていないのだ。同い年の友達は髭が生えてきてるやつもいるのに僕にはまったく生えてこない。小学生の時は比較的背も大きいほうだったんだが……
まぁ成長のスピードはひとそれぞれだ。焦っても仕様がない。
そうこうしている間に保健室につき、保健の先生にベッドで休んでいいか聞いたのだが……
「比嘉詩山くんだっけ? ごめんねー。先生今から他の学校で講習会があってさ、どうしても行かなくちゃいけないんだよね。だからベッドで寝かせといてあげられないんだー。先生が学校にいればいいんだけどねー。そういうわけにもいかないから。だからできたら早退してもらったほうが、先生としては有難いんだけど」
「そう、なんですね、どうしようかな……」
「大丈夫大丈夫! 先生が担任の先生に言っといてあげるから! 担任だれだっけ? メアちゃんだっけ? オッケーオッケー! メアちゃんなら“ばっちぐーデース”とか言って無問題よ!」
メアちゃんというのはメルティ先生の愛称だ。なんだろう。この保健の先生言葉選びがなんか古い。メルティ先生は20代前半だったはず。多分ばっちぐーとかは言わないと思う。
「先生ありがとうございます。じゃあ家に帰って寝てようと思います」
「うんうん、そうしなっ! 気を付けて帰りなさいよ!」
先生(推定年齢アラフォー)に会釈をして保健室を出ようとしたとき、保健室の外まで聞こえそうな大声でサキが叫んだ。
「ちょーーっと待ちなさいっ!」
「えっ、な、なに?」
「ひとりじゃ危ないでしょ! 私もついてったげる。途中車だって走ってるし何があるかわかんないから!」
「いや、いいよ。子どもじゃないんだから……」
「あんたねー、顔真っ青で嘔吐までしたのよ? 今だってふらついてるじゃん! 一人でなんか帰らせられないよ」
本当にサキはいい意味でも悪い意味でも面倒見がいい。そして言い出したら絶対に引かない。ここで押し問答をしても時間の無駄なのでサキについて行ってもらうことにした。
「じゃあお願いします。いやほんとに別にいいんだけどね」
「おけおけ! ここは素直にありがとうって言っときなさいよ! じゃ行こっか!」
「おー! ラブラブだねー! ヒューヒューだよー!」
やっぱこの先生センスが古い。まぁ知ってる自分も自分だが……
でもなんで僕はさっきのフレーズを知っているんだろう。ネットの動画かなんかで観たのか、いつ観たのか…… 覚えがない。
「なにしてんの! 行こっ!」
「う、うん、わかった。じゃあ先生、失礼しました」
「あいよー。気~つけるんだよー」
一礼をして保健室を出る。一緒に帰るって言ってるけど、サキは勝手に学校を抜け出して大丈夫なんだろうか。サキにそのことを聞こうとするのと、ほぼ同時にサキが僕の言葉に言葉をかぶせてくる。
「私は成績優秀だし、保健の先生に置手紙でメルティちゃんに早退するって伝えといてって書いといたから心配しなくて大丈夫よ」
エスパーかよ。
「そ、そうなんだ…… 用意周到っていうか、うん、なんていうか、す、すごいね」
こういうときって咄嗟に言葉が出ない、語彙が少ないだけなんだけど。きれいな返しもできない。そんなくだらないことを考えつつ、ふふんっ♪ としたり顔をしているサキを横にしながら家路を急いだ。
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