防犯カメラ
「よっこいしょ」
ゆっくりと席につき机に突っ伏していると、斜め後ろから突然声を掛けられた。
「校長の話長かったよなー。ほんとクソだりーぜ」
「えっ!? あぁ、あー、だよねー」
まったく気づかなかった…自分以外に人がいたなんて。もしかしたらちょうど後ろのへんを歩いていて気配に気付かなかったのかもしれない。
心臓の鼓動が少し上がるのがわかる。僕は小さく深呼吸した。
「そういえばさー」
息を吸い込む瞬間に斜め後ろの生徒にまた声を掛けられた。息が詰まるかと思いつつ、呼吸を整える。間髪入れずにその生徒は話し出した。
「5年前の災害ってさー、なんかテロリストの仕業って噂があってさー、被災者がスマホで撮ってた動画に軍服着たおっさんが写ってたらしいんだよー。そんでさぁ――」
突然の予想だにしていなかった話の内容に一瞬思考がストップする。なに言ってるんだ彼は。
そんな噂聞いたことないぞ。被災者が撮った動画なんて一般には公開されてないし……
僕が彼の話を遮り言葉を発しようとすると、その隙も与えず、間髪入れずにまた話し出した。
「そんでさー、ここからが本題なんだけどさー、なんかその災害の動画がもうひとつあるらしくってさー、たぶん街の防犯カメラらしいんだけどー、あー、ちょうど被災を免れた場所にあったカメラね。その動画にさー、なんかさぁ――――」
なんだろう、心がざわつく。なにか言いようのない不安が襲ってくる。
「君が写ってたらしいんだよねー」
えっ??
彼はなにを言ってるんだろう。そんなわけない。うんそんなはずない、たぶんない、ないと思う。
だって僕はあの時……家にいて……
いや、嘘だ。ほんとはあの災害の時の記憶がない。でも災害が起こってしばらくしてからなら記憶がある。そうだ!家にいたんだ!
「そ、そんなわけないよ! 僕はあの時家にいたし!」
「えー? マジでー? でもその動画ネットで拡散してんだぜー? どう見ても君だったけどなー。そんでさー、ネットの掲示板で君がテロリストの仲間なんじゃねーか、ってスレが建っててさー。まだ身バレとかはしてないみたいだけどさー、気ーつけたほうがいいぜー。ネットって怖えーからさー」
なんだそれ。なんでそーなる。おかしいだろ。百歩譲って動画に写ってたのが本当だとして、なんでテロリストの仲間になる……おかしい、だろ……
「な、なんでテロリストの仲間って話になってるんだよ、映像に写ってただけだろ?」
「被災者が撮ってたスマホ動画に映ってたおっさんとおんなじような軍服着てたんだってさー。まー怪しいっちゃ怪しいよなー」
目の前が真っ暗になった。なんで?? なんで? なんで? なんで? なんで? 意味が分からない。いや、別人に決まってる。だって今16歳だから5年前は……11歳だよ、おかしいでしょ。小学生だよ。
小学生が軍服着て突っ立ってて、しかも僕ってわかるってなに? いや、おかしいでしょ……
ものすごい眩暈からやっとのことで立ち直り、彼に反論しようと彼が座っていた斜め後ろの席を振り返ると――
「えっ いない……」
ついさっきまでいたはずなのに、なんなんだ、これ。白昼夢でも見てたのか? でもあまりにもリアルすぎる。
いいようのない不快感と嘔気に苛まれながらもついさっきの「斜め後ろの彼」の話をもう一度整理してみることにした。
5年前の街頭の防犯ビデオに僕(らしき人物)が写っていて、ちょうど災害の被害が及ばなかったギリギリのところに立っていた。そして軍服? を着ていた。
一番よくわからないのは5年前の動画なのに一目見て僕だとわかるってこと。5年前の動画で、しかも街頭の防犯カメラの映像、そこまで鮮明ではないはず。なんで僕って断定できるんだろう。おかしい、明らかにおかしい。
5年も経っていれば顔だってある程度かわってるはず、髪型だって違ったかも。
でも……
5年前に自分がどんな服を着ていてどんな髪型をしていて……
5年前の自分が思い出せない。
5年前のあの時僕はどこでなにをしていたんだ。
「ゲっ、 ヴうおぇっ、げほっっ、ゲほっ……ヴぉウぇッ……」
多分頭のキャパシティがオーバーしたのだろう。思わず嘔吐してしまう。立ちあがろうにも、ものすごい立ち眩みが襲ってくる。これはだめだ。保健室で休もう。
ふらつきながらもなんとか立ち上がり保健室までなんとか行くことに決めた。
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