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フェッロ (鉄の傭兵団)


 彼は港にある貸し倉庫の前に立っている。時間は午後23時、周りに多数ある貸し倉庫から明かりは見えない。

 だが彼の目の前にある貸し倉庫だけは煌々と明かりが灯っている。


 貸し倉庫の中から男性であろうか、それも複数、話し声が聞こえる。


「とりあえず種は撒いた。あとはなんだ、越境体だったか、そいつと対象が接触した瞬間、両方とも殺害する。市街戦で付近に住宅も多い、銃器は禁止だ。ナイフのみの戦闘となる。いいな」


 髪を後ろに束ねた男が傍らに座る男たちに話しかける。


 4人の男性。4人とも屈強な体格。全員西欧人だろうか。瓶ビールを片手に持った一人の男が、髪を束ねた男に言う。


「しっかしおいしい仕事だよなぁ。前金3000万、成功報酬で7000万、ガキンチョふたり殺るだけで1億だぜ。やっぱ軍隊なんか入ってるより時代は傭兵だよなぁ」


 瓶ビールに下品に口をつけながらケケケッと笑う男を髪を束ねた男が嗜める。


「おい! 油断するなと前から言ってるだろう。これだけの大金だ。なにか裏があると思って行動しろ。目標は二人とも限らんだろう。横からチャチャが入ることも想定にいれておけ」


 へいへい、と瓶ビールの男は面倒くさそうに返事をする。


「作戦はここ数日中が山場だ。常に対象の周辺に気を配れ。対象と越境体の接触を確認し次第そのまま作戦開始だ。越境体との邂逅は見ればすぐにわかるということだ。各々気を抜くなよ!」


 語気を強める男。士気を揚げようとしているのか。拳を強く握りしめている。


 わかってるって~、へいへい、4人とも作戦中の中弛みか、作戦を甘く見ているのか、はたまた酒に酔っているのか気のない返事を男に返す。

 髪を束ねた男ははぁ、っと溜息をつき、たのむぞ、おまえら……と4人につぶやいた。


「あ~、小便いってくるわ~」


 タンクトップを着た男が席を立ちあがる。海に落ちるなよ~、と仲間から揶揄われ、そんなに呆けてねぇよ! と捨て台詞を吐いて倉庫から出て行った。



    ◇



「おい、アントニオのやつえらく遅くねえか? ほんとに海に落ちたんじゃねえのか?」


髪の毛をバンダナで縛った男が髪を束ねた男に言う。


「たしかに遅いな。おい、カミロお前ちょっと見てこい」


 新しい瓶ビールを開けていたカミロと呼ばれた男は髪を束ねた男に言った。


「おいてめえ、作戦のリーダーはお前だが、そんな小間使いみたいなこと命令すんじゃねぇよ! 殺すぞ!!」


 だいぶ酔っているのか、目が据わっている。はぁぁぁ…… 大きくため息をつき、わかったわかった、俺が見てくると髪を束ねた男が席を立ったその時、扉が開いた。


――ガチャッ


 そこには虚ろな目をしたアントニオが立っていた。


 アントニオ! 遅かったじゃねえか、心配させんじゃねえよ、なんだよ、せ〇ずりでもコイてたんか、アントニオの仲間たちは揶揄(からか)いながらも仲間の帰還に安堵していた。


「あ、あ、は、腹、あ、あ……」


 腹を抑えながら震えているアントニオと呼ばれる男、目線は扉の真逆、窓もなにもない壁のほうを見ていた。


「やあ、みなさんご機嫌よう。歓談中に失敬」


 そこには軽く腕組をした男性がひとり佇んでいる。

 皆なにが起こったのか理解できずにいる。いつからいた?どこから入った?何者なんだ?纏めようもない、取り留めもない思考が4人の頭の中で渦巻く。


「あぁ、彼は私にナイフで攻撃してきたのでね、ひとつ、取らせてもらったよ」


 ――――脾臓をね。


「まぁ、命に別状はないのでご安心を。脾臓は必要ない臓器と言われているからね。でもまあ近年では免疫などを生成する重要な臓器だと認識されているみたいですが」


 何を言っている? 取った? 脾臓?

 彼の言っている言葉に理解が及ばない。が、髪を束ねた男はハッ! となにかに気づく。


「おまえ、対象の家の近くの病院の、医者か」


「おやおや、よく調べているね。そのとおり、私はしがない医者ですよ」


 なぜ医者が、分からん、分からんが仕方ない。不要な殺しは避けたいと思っていたが、こいつはここで始末しておいたほうがいい、髪を束ねた男がそう判断した瞬間――


「フェッロ(鉄の傭兵団)の諸君、イリア共和国から遠路はるばる態々(わざわざ)ご苦労なことだが、今回の作戦からは手を引き給え。もう前金は相当額もらっているのだろう?この事案から手を引けば、私はこれ以上君たちに危害を加えることはしないでおこう。賢明な君たちがこの選択を間違えるなどという愚行は起こさないと信じたいね」


 なぜだ? なぜ俺たちがフェッロだと知っている!? どこから漏れた? いや、そんなヘマはしていないはず。髪を束ねた男は瞬時に思考を巡らせる。

 この国に入国した時は偽造パスポートを使った。完全に一般の旅行者として入国している。フェッロにつながるようなものはなにも所持していない。落ち度はない、はず……


 仕方ない、やはりこいつはここで殺る。なぜだかわからない、直観だろうか、髪を束ねた男は彼がここで確実に抹消すべき危険人物だと認識したようだ。


「おい! おまえら、こいつはここで殺る! 戦闘態勢!!」


 全員目の色が変わる。傍らに置いていたコンバットナイフを手に取り、間合いを取る。酒をしこたま飲んでいたカミロもさすが職業軍人と言うべきか、手の震えも一切ない。


「そうですか、話し合いでは納得していただけませんか。私としてはこういった野蛮な行為はあまり好きではないのですが、あなたたちがそうしたいと言うなら仕方ありません」


 ――いいでしょう、皆さまのお相手を致しますのは、彼……


 医者だという彼はそう言うと、腕組していた腕をほどき、指を鳴らした。



 ――――19番



 そこにあったのは白銀のなにか。立体菱形のボディと2本の円錐状の腕、立体菱形の上部に菱形十二面体。菱形十二面体の中心部には目のようななにかがある。その白銀のなにかの頭上には4つの立体球が浮かんでいる。


「殺してはダメですよ、19番。まだ彼らは世界から抹消されるほどの罪は犯してはいませんからね」


 19番と呼ばれたなにかは彼にそう告げられると、身構える男たちの目の前まで移動した。


 19番に足のようなものは見当たらない。浮かんでいるのか、だがあまりにも滑らかに、まるで球体が坂道を転がっていくかのように男たちの前に到達する。


「おい! ブルーノ! どうすんだこれ! ていうかなんなんだこれ! くそっ、わけがわかんねぇぜ」


 仲間の一人にブルーノと呼ばれた髪を束ねた男は医者の男に狙いを定める。


「注目! その銀色のやつは無視しろ! 標的は医者に集中!!」


「なるほど、ですが、あなたのお仲間はそれどころではないようですが」


 ――!? ブルーノは3人の仲間に目をやる。

 ブルーノの仲間はその場から動かず、持っていたコンバットナイフも床に落としていた。


 あっ、あっ、あっ、――――


 3人は目を見開いて直立不動状態、頭上には立体球が浮かんでいる。

 まるで手品のように宙に浮かぶ立体球はゆっくり、ゆっくりと3人の頭の中へ沈み込んでいく。どういう原理なのか、血が出る様子もない、音もなくただただ、ゆっくりと……


「さぁ、どうしましょう。このままこの3人を殺すことは容易いのですが…… 私としてはあまりむやみに人の命を奪うのは望むところではないのですがね」


「――あぁ、わかった。手を引く。この件からは一切手を引く! だから仲間は、頼む!助 けてやってくれ!」


ブルーノは即答した。自分が相手にしている男は得体がしれない。銃器があれば状況は変わったかもしれないが、ナイフしかない現状、他の4人の状態、まともに動けるのは自分ただひとり。向こうはわけのわからない機械じみた物体、実力不明の男、無理だ。依頼主には悪いが、命には代えられない。

ブルーノは即座に勝ち目がないことを悟ったのだ。



「物分かりのよい方で助かりました! もちろんお仲間は無事にあなたにお返ししますよ。ただ、解放したあとにもしまたこちらに危害を加えてくるようでしたら……」


 ゴクリ―― ブルーノは思わず唾を飲み込む。笑顔でそう話す医者の彼に対し、うんうんと頷くことしかできない。


「さぁ、19番、もうイロジョン(侵食球)は回収していいですよ。あっ、彼らからは何も取らなくていいですからね」


 医者の男がそういうと、3人の男の頭上からイロジョンという名の立体球がせり上がり、19番の頭上へと帰っていく。


「それでは私はこの辺りで失礼させていただきます。私は皆さんを信用しております。それを努々忘れぬよう。それでは、ご機嫌よう」



    ◇



 くそっ! なんだったんだ!――


 男がいなくなったあと呆然とその場にへたり込み、項垂れる4人。アントニオはいまだに腹を抱えてガタガタと震えている。


「しかしよ、どーするよ! 依頼主になんていうんだ!?」


 酔いが醒めて完全に素面に戻ったカミロがブルーノに問い詰める。


「どうするもこうするもないだろ!そのままこの件からは手を引くと言いに行くさ!なんなら前金も半分くらいなら返してやってもいい。いいか。このまま依頼を遂行したら今度こそあいつに殺されるぞ!」


 くそっ! なんてついてねぇんだ! 4人は次々と文句を口にするが、あの恐怖体験を忘れている者など誰一人としていない。結局、明朝すぐに依頼主にこの件から手を引くこと、前金は半分なら返してもいいことを告げるためアポイントメントを取ることに決めた。



    ◇



 はぁ、もう日付も変わってしまった。腕時計を見ながら溜息をつく男。傍らには男の無事の帰還を待つ為、外で待機していた女。


「先生、お疲れさまでした。さすがの手際の良さでしたね。普段の変態さ加減からは想像もつきません。さすがです」


「誉君…… 君一言余計なんだよね。ふん、まあいい。次はやつらにも一応釘を刺しに行く。あまりウロチョロして盤面を乱すとどうなるか教えておかないとな」


 先生と呼ばれた男はそういうと誉君と呼ばれた女性と共に闇の中へ消えていった。


たくさんの作品の中から当作品を読んでいただき誠にありがとうございます。

面白い!続きはよっ!応援したい!と少しでも思っていただけましたら


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