41番 2
“おはようございますメル先生、おはようございますメル先生”…メルの携帯電話の着信音が鳴り響く。
「うむ、実にいい!ハル君の声の着信音。他のバージョンも揃えておかないとな」
隣で助手の誉が青ざめた顔をして身震いしている。それも仕方ない。彼は少しだけ変態なだけなのだ。こればかりは仕様がない。本人も好きで変態をやっているわけではない。生まれもった性、といったところだろうか。
下らない前置きはさておき、メルが携帯電話の通話ボタンを押す。
「もしもし、え~、こちら41番。我が主よ、応答願います」
電話の相手も少し頭がよろしくないようだ。
「だから主というのはやめろと何回言ったらわかるのだ。御前は鳥頭か!」
普段は落ち着いた会話を心掛けるメルが珍しく語気を荒げた。
「はっ! 申し訳ありません。え、えーっと、先生……?」
はぁぁぁぁぁぁ、メルは深いため息をついた。うん、仕方ない。この子にはどれだけ言ってもダメなのだ。もうそういうものだと思って諦めよう。うむ、怒っても意味がない、無駄な体力を使うだけだ。よし、このことは忘れよう。
「で、防犯カメラの映像からなにかわかったのかね?」
「はい!主!この有能41番がものすごいものを発見致しました!」
「……うむ、聞こうではないか。御前が見たものを私に教えてくれ給え」
「はい!それがですね、件のハル君がですね、一番最初に誰もいない教室に帰ってきたんですよ。それでですね、机に突っ伏す、っていうんですかね、なんか寝てる感じの、そんであんな感じにしてたんですけど…」
はぁ、なんなんだ。この会話は。もうちょっと理知的な会話というものができないのか。メルのイライラはレッドゾーン寸前まで来ていた。
「で! ですよ! いきなりビクッ! てして斜め後ろの席に振り返ったんですよ! それからは多分話に聞いたとおりうげーっ!てゲロゲロしちゃったわけなんですが……」
メルよ、我慢だ。私は偉大な〇〇〇だ。〇の〇〇。そのような男がこの程度の拷問に負けるなど!断じてありえんのだよ!。
メルの脳内一人芝居を他所に41番は続けて話し出す。
「そ・れ・でっ! この天才41番すごいことに気づいちゃったんですよ!」
「ん? なにに気づいたというのかね?」
「それがですね、たまたまハル君が帰ってくる10分前くらいから映像を見てたんです~。そしたらですね~、なんか教室のドアあるじゃないですか。そこがなんかゆらゆら揺れてるように見えたんです!そのゆらゆらがですね、ハル君の座ってた席の斜め後ろの席に移動してたんですよ。すんごいわかりにくいんですけど、よーく見てるとなんかが動いてるのがわかったんです! すごくないですか? 私」
そうか、そういうことか。大方光学迷彩服でも着用していたのだろう。
現在光学迷彩服を製造できる国は、あぁ、今はたしかカルナダか、あそこの軍需企業だけだったはず。その企業と取引のある国を調べればある程度検討はつくか。
しかし、他国の軍隊、だろうか、まぁ傭兵という線もあるが、とにかく国外からも彼に狙いをつけている組織があるとは…。完全に迂闊だった。目下注視しておくべき相手は私が目をつけていたあの組織だけかと思っていたが。これはプランを改めなくてはいけなくなったな。
「主? あ~る~じ~! どうしたんですか? 急に黙っちゃって」
「あぁ、いやすまない。少し考え事をしていた。いや、41番よ。ご苦労だった。御前にしてはよくやった、お手柄だ。追加の報奨金を口座に振り込んでおく」
「やったぜぇ~い!! 感謝感激雨霰です! はい!」
「御前酒飲んでるだろ?」
「え、あ、いや……おやすみなさぁい!」
がチャンっ!
切りやがった。図星だったか。まぁいい。彼女の置かれている状況を鑑みれば多少酒を呷るのも致し方ないことか。
「先生、なにかわかりましたか? あの子の声、えらくテンションが高かったように聞こえましたが。」
音が漏れて誉くんにも聞こえていたのか、まあいい。
「あぁ、彼女にしてはお手柄といったところか。ある程度相手は絞られた」
「あの子も頑張ったのですね、先生。ですが先生のこと、おおよそ想定の範囲内だったのでは?」
「ん? う、うむ。まぁそのとおりだな…… だ、だが私も完璧ではない、念には念をいれなくてはな。」
「普段はキモい言動ばかりしていますが、やはり先生はこうでなくては。これこそがわたくしが憧れ尊敬し生涯お仕えすると決めたお方の姿です」
う、うむ…… なんとも端切れの悪い返答を誉に返すメルだった。
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