ささやかだけど幸せな日常2
たらふく餅を頂戴して、さっきまでの張り詰めた空気が嘘のように会話が弾む。
やれ学校で誰と誰が付き合ってるだの、やれあの先生とこの先生ができてるだの、やれリンリンに好きな子がいるらしく、はたしてリンリンが好きなのは男の子なのか女の子なのか、はたまた男の娘なのかとか。これは少しだけ気になる話題だったが、そんな感じで他愛もない会話をしつつカラスも鳴きだしたのでそろそろお暇することにした。
「サキ、ありがとね。たのしかったよ。また明日学校で」
「うん、こっちこそありがとっ! 久々にハルといっぱいおしゃべりできてすっごい楽しかったよ! あっ! 今度さっ、また昔みたいにうちとハルんちでさ、バーベキューやろうよっ! 絶対たのしいからさっ」
「うん、いいね。たのしそう。うちにバーベキューのコンロってあったかなぁ。帰ったら探してみるよ」
「うちにはあったはずだからさ。バーベキュー用のチェアーとかテントとかも用意しなくちゃねっ! 日にち決めたらさ、うちらで買い出し行こうよ!」
「だね。高いお肉とか買っちゃおうよ」
「いいね~!」
「おばさんはね~、ワインと~、あとチーズがほしいな~」
突然高校生男女のキラキラした会話は美魔女の妖艶なリクエストで打ち消された。
「も~、ママはあっち行っててよね!」
「あらあら~、ごめんなさいね~」
ほんとにもう! とホッペを膨らませて怒るサキを見ながら今度こそ本当に別れの挨拶を告げる。
「じゃあまた明日! おばさん、お餅ごちそうさまでした。それでは、お邪魔しました」
「いつでもいらっしゃいね~」
「バーベキュー絶対やるわよっ! じゃあね~! おやすみっ!」
時刻は午後6時をもうすぐ回るところだ。5月にもなるとこの時間でもまだ明るい。
昼の餅もまだ消化しきらないまま、さらに詰め込んだ餅でぱんぱんになったおなかをさすりながら家路に着く。
◇
ガチャッ、ドアを開けると姉が立っていた。
「遅い」
「あー、ごめん。サキの家でお餅いただいてたんだよ」
「は? 餅? なんで餅? そんなことはどうでもいいのよ。帰りが遅くなるなら連絡を入れなさいっていつも言ってるでしょ? なんであなたは言うことを聞かないの」
「だからごめんって」
「お願いだから心配させないで。おねえちゃんはあなたのことが心配だからこうやって口うるさく言ってるのよ。わかって」
自分が口うるさいってのは理解しているみたいだ。少しびっくりした。
でも本当のところいい加減にしてほしい。もう高校生なんだ。小学生じゃないんだ。いつまでも子ども扱いしないでほしい。
こんなことを姉に言っても論破されるだけなので、話題を変えることにした。
「ねえさん、そういえば今日さ、午前中どっか出掛けてたでしょ? ねえさんが出掛けるなんて珍しいじゃん」
そう聞くと、姉から意外すぎる答えが返ってきた。
「え、いたわよ。裏庭の畑で野菜を収穫してたわ」
えっ…… 嘘だろ。家の鍵も全部閉まってたし、カーテンどころか窓のシャッターも全部閉まってたぞ。そのことを聞くと姉からまたしても驚愕の答えが返ってきた。
「家の外にでるんですもの。家の全ての戸締りをしてガスの元栓も全て閉めるわよ。もちろんセ〇ムもね」
姉を侮っていた。こういう人だった。ものすごく閉鎖的で、排他的で、防御が異常に硬い。バーベキューの話をしようと思っていたのだが多分話すだけ無駄だろう。
「そんなことはいいからさっさとお風呂に入りなさい。それと靴はきちんと揃えて。お風呂に入る前に手を洗ってうがいもしなさい。わかったわね」
言い返しても虚しくなるだけなので、無言で靴を揃え、風呂場に直行する。
うがいだけして服を脱ぎ、風呂場へ行こうとすると姉が“手は洗ったの?”と洗面所のドアを開いてくる。ほんとに勘弁してと言っても一切聞く耳を持たない。
仕方なく裸のままで手を洗う。その間後ろで姉が僕がきちんと手を洗うかどうか監視している。いや、裸なんですけど、僕は見られても減るもんじゃないし別にいいんだけど、姉は弟の裸を見て気まずくはならないのだろうか。考えても仕方がないので、心を無にしてさっさと手を洗い、浴槽に足を運んだ。
「はぁ~、疲れた~」
思わず言葉に出てしまう。それほど今日は疲れた。なにか疲れるようなことをしたわけではないんだけど、なんなんだろう、この疲労感。あ~、早くベッドで横になりたい。
朝メル先生に会うのから始まって、追悼集会、教室で会った斜め後ろの彼、保健室のアラフォー、メル先生の病院の餅、そして、サキの家……
ぐちゃぐちゃになりそうな頭の中を押さえつけるかのように、手に取ったシャンプーを髪の毛に押しつける。考えても仕方ない、考えても仕方ない、と頭の中で唱えて髪の毛を洗いさっとお湯で洗い流す。
風呂を出てキッチンに向かう。母に今日の晩御飯はいらないこと、サキの家族とバーベキューをやろうという話になっていることを伝える。
母は晩御飯がいらないなら連絡しなさい、と少し不機嫌そうだ。それはそうだ。いつもならこんな時連絡することを忘れるなんて絶対しないのに…… やっぱり今日はいろいろあって疲れてるんだ。母には徹頭徹尾謝り倒してなんとかお許しをいただいた。
はぁ、もう眠い、時間は午後7時30分。姉の言いつけ通り、今日は8時前には眠りにつけそうだ。
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