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過去と夜について

狼蛾から数十枚の符が展開された。

狼蛾の体が一回り大きくなったかのようだった。

筋肉の代わりに気力が漲り、符の群れは発光しながら右手に集う。

殺意に沸騰し、容赦の一切ない攻撃を繰り出すべく――


「遅いよん」


その工程は、実戦慣れしている者にとっては、致命的な鈍重である。


サラは、いつの間にやら手にしていたお手玉を即座に投げていた。

座った姿勢から立つ動作に繋げるような投擲、それは螺旋を描いて飛翔し、展開されていた符を貫通し、回避すら許さず鈍い音を立て直撃した。


「ぐ、ぅぁ……っ」


符群と持ち主は、あっけなく崩れ落ちた。


「いえい、あたしの勝ちー」

「だからって俺が君のものになるわけじゃないからね」

「サラって呼んでー」

「あと、なにか勘違いしてるかもしれないけど」


ぜひとも言わなければならないことだ。まっすぐにサラを見つめる。


「俺は、男だから」


サラはキョトンとした顔をした。


「あっはっはー」


手を叩いて笑った。

わかっていますよ、皆まで言うなという理解のある笑いだった。


「さー、そろそろ日が暮れるから、準備しないとだねー」

「待て、待った、絶対に理解してないよね、それ!!」


サラは「かわいいなー」という顔で続く反論を聞き流した。




黃旺サラは、本当に妙な旅人だった。

というよりも、まだ旅慣れていないらしい。


飯はいらぬと言っていたのに、十束が雑炊を作ると興味を示し、一口味見を欲して、結局は半分を食べた。


夜になり、寝る段階になると十束の制服は勝手に変化する、ふわふわもこもこの寝巻きと化す。

当然のようにサラは抱きついて寝ようとしたが断固として拒否した。


「いろいろ言いたいことはあるけど、とっさに身動きが取れなくなるのはダメ」

「ケチケチだぁ」


結局は、変形した膝枕の、Tの字に眠ることが妥協点となった。


「あと、俺本当に男なんだけど、理解してる?」

「十束、ふともも硬い、もうちょっと柔らかくして?」

「いやいや――」


何いってんの、と言おうとしたが、鍛えた筋力が、ふよん、と緩み、脂肪が適度に乗った感触へと変わった。


「ふふん、いいではないかー、身体はもうあたしのだね」


ご満悦のサラに対し、十束は何も答えられない。

恐怖のためだ。


身体が、女子高生化している――


それに気がついた。

禍津泡に近い性質を持つ制服のためだろう。

身体の変化の方向性は、明らかにそれだった。


――俺はこの服を着ることに納得した、技の見事さを体感できることに感謝した、他からおかしな執着をされることも不本意だけど妥協できる、けど、これは、違う……っ


己の体を勝手に変えられる恐ろしさがあった。


脱がなければ、と思う。

可能ならば今すぐにでも。

三年も経てば、きっともっと完璧な『女子高生』にされる。


「ねー、あたしねー?」


絶望に恐れおののく十束など知らぬように。


「妖異に成ったんだよねー」


太ももを枕にしたまま爆弾発言を放った。




十束は、その言葉をすぐには理解できなかった。

サラは、どう見ても人である。


「……え?」

「もちろん、半分ね? ぜんぶじゃないよ、でも、黃旺邦の中でがんばってるうちに、いつの間にかそうなってた」

「それは――」

「まー、それは割とどうでもいいんだけど」

「どうでもいいの!? というか黃旺邦に生存者っていたの!?」


思わず上半身を起こしてツッコんだ。

枕が動いて不満そうに唇を尖らせるサラの顔が見えた。


「動かないの、でもね、妖異化の方向性がねえ、ちょっとねー」

「え、なに」

「妖異を倒す妖異、そういうのに、なってた」


十束はまばたきを繰り返した。


「それは、まだマシな変化じゃないか?」

「うん、そだねー、でもね、違うんだ」

「どういうこと」

「他の生き残ってる人たちも、妖異になりかけてた」


サラは妖異を殺す妖異である。他は妖異となりかけている。

だからこそある日、いつものように皆に声をかけている最中、ごく自然に思ってしまったのだ。


――あ、そうだ、コイツらそろそろ殺さないと。


妖異殺傷の方向性が確固としてあった。

どうあっても黃旺サラは彼らから、邦から離れなければならなかった。


「ホントにね」


目を閉じ、こぼすように。


「禍津泡は、人の話を聞かない、あたしの想いを叶えない。本当にそうだ……」


自嘲に似た笑みを浮かべた。

まったく似合わない笑みだった。


「痛かったか?」

「え」


十束は気づくとそう言っていた。

痛い、何が?

彼自身にもよくわからなかった。

だが、なぜだか確信していた、きっと黃旺サラにとってそれは「痛いこと」だったのだと。


「その妖異化は、サラの頑張った証明だ。そういう概念となるくらい、邦の皆から、妖異から、禍津泡からも想われた。へんてこで、いらない思いやりだけどね」

「うん……」

「何ができるわけじゃないけど、枕代わりくらいにはなるよ」

「……子守唄もうたって」

「わがままだなぁ」


思わず笑った。

優しい笑みだった。


気絶より起きた狼蛾は、十束のその表情を見た。

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