2人の、出会い
突如引退した伝説のトップアイドル“ケットシー(仮)”
このアイドルをプロデュースしトップアイドルにしたプロデューサーの“米小路 純”は、彼女たちが引退してからはこれといった活躍もなく、人々からも忘れ去られていた・・・
大御所プロデューサー…そんな肩書きだけが米小路に付きまとう。
かつて彼女らをプロデュースしていた頃のようなギラギラした目つきは彼にはなく、俗にいう死んだ魚のような目つきをして、今日も四畳半のアパートでカップ酒を飲む…
そんな毎日を送っていた。
ある日ー
米小路が現役の頃に、米小路にお世話になったという番組プロデューサーの男性が米小路の元を訪れ
「アイドル発掘オーディションをしませんか?!」
と話を持ちかけられた・・・。
初めは乗り気でなかった米小路だが、公園のベンチに座りながらふいにポケットの中に手を入れると、ポケットの中にあったのはシケモクと数枚の小銭・・・そしてキャラメルの包み紙・・・
それを見て米小路はオーディションにプロデューサーとして参加する事を決めた。
(どうせ大した子はいやしない・・・)
“ケットシー(仮)”が引退した直後は自社のアイドルをプロデュースして欲しいと様々なプロダクションなどから声がかかったが…
皆彼の厳しいレッスンについて来れないのだ。
休みは無く、くる日もくる日もレッスン…
年端いかない少女達は、人前に出ることも無く休みも無く…ただひたすらにレッスンをする日々に耐えられなくなり、一人…また一人…と米小路の元を去って行った。
(彼女達を越える子はもういない…)
そう思いながら、米小路はプロデューサー米小路 純と書かれた札が置いてある席に座った。
「ふぅ・・・」
『米小路 純プロデュース アイドル発掘オーディション』
と書かれた看板の前で少女は胸に手を当て、ため息をこぼした。
(ついにこの日が来た・・・)
胸に当てた手に緊張のためか力がこもる。
不意に怖くなり、引き返そうかな・・・という気持ちが頭をよぎったが、笑顔で送り出してくれた両親の顔も浮かびまたその場に留まった。
「ふぅ・・・」
またため息をついてしまう。
(なんで私はこう…)
せっかくここまで来たのに・・・
パパもママも応援してくれてるのにー
ギュッと目をつむったと同時に後ろから
「ねぇ」
と声がした。
ハッとして振り向くとそこには
ピンク髪で髪は可愛く編み込みで後ろにまとめられており、クマのショルダーバッグに、ピンクハウスの服を着た『かわいい』いう言葉かピッタリな少女が立っていた。
少女は腰に手を当て、指を指し
「さっきからずっとそこにいるけど、アンタもオーディション受けるんじゃないの?」
少女は見た目とは裏腹な喋り方で聞いてきた。
「う・・・うんッ!!!!」
突然の問いにさっきまで悶々と考えていた事が一気に吹き飛んだ。
ピンク髪の少女はニッと笑い
「私も受けるんだけどさ、看板の前で美人が一人で百面相してるんだもん・・・気になっちゃって!」
と言い、これまた見た目とは裏腹に豪快にアハハ!と笑った。
その話を聞いて、見られてたのか…と恥ずかしくなり赤面していたが、少女の豪快な笑いにフフッとつられて笑ってしまった。
「私星真衣」
そう言ってピンク髪の少女は手を差し出した。
「あ・・・私は森理恵!」
嬉しくて語尾が強くなってしまった彼女・・・理恵に向かって、真衣は小さく「うるさっ・・・」と言いつつもはにかんだ笑顔を見せ、お互い握手をした。
「負けないよ」
真衣がそう言うと、理恵も
「わ、私も!!」
と…思わずまた語尾が強くなってしまった。
(あ・・・)
と思い真衣の方を見ると、
くくくと笑いながら「またかよ〜」と笑っていた。
そんな真衣の姿になんだか勇気を貰い、さっきまでの緊張はもうすっかりどこかへ飛んでしまっていた。
(精一杯頑張ろう…)
さっきまではとは打って変わって清々しい顔をして前を見る。
自分の少し前を歩きながら「置いていくよー」とこっちを見て声をかけてくる真衣に向かって「待ってー!」と言いながら駆け足で会場へと向かった。