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異世界太陽傳  作者: おぬし
6/6

エルフ③

 朧げな紫煙に覆われたユンフュ窟大広間の中。


 広間の中心で濛々と燃え盛る煙炎を中心にして、およそ20個の影たちがボンヤリ浮かび上がっている。うねうねと揺らいでいる。その影の正体は、薄布を一枚羽織っただけの扇情的な女性エルフ達である。彼女らは皆、ここの従業員である。


 この下世話な人間界においてエルフという高潔なる種族の希少性は推して知るべし、数名ならともかく、これだけ多くのエルフに会うなんてことはまずありえない事である。それもこのようにあくせくと働くエルフなんて言うのは彼らの特性や性格から考えてもあまりに特異。


 現実離れした光景。

 まるで夢の中に迷い込んでしまったかのような……。


 いや、実際に我々は夢の世界に誘われるのである。

 視界を覆う紫色の靄は、言わずもがな、燃焼するユンフュの枝葉から発せられる幻覚作用のある煙である。その効能は人間の脳髄の中枢に作用し、鮮明なる夢を描き出す。


 現実と夢想の中間地点をふわふわと彷徨うような感覚。やがて意識は薄れ、どっぷりと深みへ引きずり降ろされていく。すぐに夢を夢と認識できなくなり。理性は本能に上塗りされて行く。

 その精神上の安寧を一度でも味わってしまうと、どんなに意志が強い人間でも、どんなに精神力に定評のある人間でも、いともたやすく中毒患者になってしまうのだ。


 この大広間には、そんなダメになってしまった、もしくはなりかかっている大の大人たちが何人もいる。皆一様に表情は空虚。感情のない人形のように呆然とその場に配置されている。夢幻地獄とは、このことか……。



 ユンフュ窟大広間には東西南北、いくつかの扉が設置されている。


 一つは先般、ザントらが降りてきた階段、即ち、俗世界への行き来が可能な唯一の道だ。


 一つはさらに地下へ通ずる階段がある小部屋だ。

 階段を降りると、そこは先般までの広い空間とは打って変わり、どこか狭くゴミゴミとした印象のある場所にでる。ここには芸術的な世界をプロデュースする従業者たちの居室だったり、ユンフュの葉を大量にストックする倉庫だったりが存在する。

 どんよりとした静けさが漂う大広間とは違い、ここはガヤガヤと喧騒、人のものとも獣のものとも判別つかぬ怒号が常に飛び交っている。


「ここからだせー!」

「ウヒャアアア、ヒャアアアア」

「頼む、金は絶対払う、だからあと1回、1回でいいんだ吸わせてくれええ」


 階段から伸びる廊下を一直線に進んで突き当りにある一室から響いてくる絶叫。

 四方を厚さ20㎝以上の頑丈な鉄扉に覆われており、異様なほど厳重な締りのされた部屋である。たった一か所だけ備え付けられた鉄格子の嵌っている小窓には、キチガイじみた男の顔面が代わる代わる押し付けられては消え、押し付けられては消え……。


 この牢屋は、金の支払が滞った人間だの、完全にラリッてしまって市井に返すことができなくなった人間だの、もしくはこの犯罪場を秘密裡に暴きに来た騎士団のスパイだのが十数名閉じ込められており、従業員からは通称キチガイ部屋と呼ばれている。


 キチガイ部屋を左折、さらに奥へ進む。すると今度は大仰で重苦しい錠前付の扉が眼前に姿を現す。この大扉に仕切られた内部が、この世界の支配者の根城になっている。


 今、一人の長身のエルフが大広間から下りてくる。

 キチガイ部屋を通り過ぎて、懐から取り出したる錠前で大仰な鉄扉を開け、その先の執務室へと顔を出す。キョロキョロと周囲を見渡し、そのまま何も言わずに部屋を出ると、また別の部屋へと足を踏み入れる。


「エリス様」


 と、呟くような小さな声を出す。


 真っ暗な部屋だ。照明一つない。廊下より漏れ出る光のみが室内をほんのりと照らしている。酷く殺風景な部屋だ。……というより、家財道具が何一つとしてない。文字通りのスケルトンである。


 その部屋のど真ん中に、何かが横たわっている。先程の長身のエルフの声掛けに、ごくごく微細な動きで反応をしているところを見ると、どうやら人のようであるが、敷物も布団も何もない床の上にただ転がっているさまは、あまりにもぶっきらぼうに見える。


「エリス様、”あのお方”が参りました」


 ビクリッ。今度は明確に体躯が跳ねる。ニュッ、と首を廊下側にもたげ、闇の中に紫色の眼球を怪しく光らせて、


「ザント……」


「はい、ザント様が参られました」


「そう……か。やっと来てくれた……」


「いかがいたしましょうか?」


「……私の部屋に、連れてきて……」


「承知いたしました」


 長身のエルフ女性は慇懃に一礼をし、その場を後にする。

 闇の中に蠢く人は、声色から推察するに若い女性のようである。しばらくうねうねと芋虫のように地面を這いつくばっているようであった。そして声にならない呟きをブツブツと口の中で発しているようであった。

 数分のち、ようやく立ち上がったかと思うと、廊下から漏れくる光にややまぶしそうに目をしばたたきつつ、全裸の肢体をまるで恥じ入ることもなく、そのままどこかへのろのろと去っていくのであった。




 ザントは夢の痕特有の倦怠感の中、重い瞼を開ける。徐々に正常に戻り行く脳髄の様子をボンヤリと感じながら、うつろなまなざしを宙に投げかけている。


 はてな?と、彼は思った。


「お、ここはどこだ?」


 そして彼はギョッとした。口をあんぐりと開けて、呆然自失した。

 目の前に広がるあまりにも異様なる光景。


 壁一面に張られた写真、それこそ寸分の隙間もなく埋め尽くされている。ザントはその写真に映し出される人物に気付くにつけて、いよいよ背筋は凍り付いた。

 それは、その写真は、ザント自身なのであった。


「ななな、なんだ一体ここは?」


 本能的な恐怖を感じたザントは、ベッドの上から飛び降りようとしたが、何かしら引っ掛かりを覚えて、再び慄然とし、急いで掛け布団を引っぺがす。


 そこには全裸の一人の少女がいた。ザントの腹の上にうつぶせに乗っかっている。艶のいい黒い髪の毛を腰で扇状に広げながら。その隙間から覗き見える特徴的な耳はエルフのものだ。手をザントの胴回りに、足を右足に回して、それこそコアラのようにガッシとしがみついている図である。


 ザントはそのエルフを半ば強引にはぎ取った。


「あ!」


 と、彼は叫んだ。同時に、


「ザントォ!」


 その小柄なエルフは甘い声を出した。そうして、ザントの首筋にへばりついて、クンクンとにおいをかぎ始める。


「ああ、ザント、会いたかったぁ。クンカクンカ、ああ、これ、これキクゥ……。ザントのにおい……」


 突如として変態的行為を始める少女エルフ。固まっているザントなんて全く気にかけず、ひたすらに我が世界に埋没する。ザントはようやく絞り出すように、


「エ、エリス……。なんでここにいるんだよ」


「フフ、フフフフ」


 エリスと呼ばれたエルフは答えずに、気持ちの悪い声を漏らしている。


「お、おい、いい加減にしろ……」


 抱き着くエリスを再度引きはがそうとするが、いかんせん、彼女の力が予想以上に強いのと、ラリッた後の脱力感とでなかなかうまくいかない。しばらくすると、もうどうにでもなれ、という気持ちになり、いつまで続くかもしれぬこの愛撫自体への抵抗をやめてしまう。


 が、解放の時は思いのほか早く来た。


 ザントは首筋から何やら生暖かい液体が流れるのを感じた。

 と、ふいに、彼女の力が弱まった。おや、どうしたのかな、と思って見る。その液体はどす黒い血であった。どうやら、エリスの鼻腔から滝のように流れ出ている模様。彼女は目の焦点の合わない……、惚けた表情で脱力していた。


 どうやら……。

 彼女は興奮の極致に達し、逝って終ったようだ。


「おーい、大丈夫か?」


 反応はない。血はとめどなくあふれ、すでに血だまりを作っている。ザントはため息をつき、のそのそとベッドから起きだした。


 もう一度ぐるりとこの部屋を眺める。全方位から投げかけられる自分自身の視線。ゾクゾクと気色の悪い気持ちになる。と、同時に、数年ぶりに会った彼女の、その類稀なる異常性が全く以て変わっていないことを確信する。


 とりあえず……。一刻も早くこの部屋から退出しなくては。メンタルが持たない。ザントはいそいそと部屋の中から逃げ出そうとするが……。


 残念なことに。ドアに強力な結界は張られていた。今しばらく、無数の自分の顔とにらめっこをする奇妙奇天烈な時間は続くのであった。

 




 グリフォとジャンガの二人はVIPルームの中にいた。良い心持で夢の世界を彷徨していた最中、突然引っ張り起されたかと思うと、襟首を掴まれて引きずられるがままに、この絢爛豪華な部屋へと押し込まれたのである。


 そこには7,8人の美女エルフたちが待ち構えていて、まるで石油王か何かを接待するが如く、猛烈に抱き着かれ、キスをされ、もみくちゃにされるのであった。あるいは、それも夢の中の幻影だったのかもしれないが……。


 口をぽかんと開けたまま固まるジャンガ、ニタニタと笑みをたたえながらエルフたちに抱擁を返すグリフォ。正反対の二人の反応である。

 まだまだ青いジャンガはこういった酒池肉林には耐性がないのだ。彼の頭の中は真っ白。唯一薄ぼんやりと浮かんでくる思考は、性欲肉欲でもなければ、支配欲でもない。得も言われぬ不安感、こんな豪勢に遊んでしまってお会計は果たして大丈夫か、という小物じみた……。


「ところでザントは何処にいったんだ?」


 ふと、グリフォが思い出したように言う。

 そういえば、と、ジャンガも不思議に思い周囲を見回す。


「ザント様は、我が主のもとへ参られました」


 部屋の入口付近に控える長身のエルフが一礼をする。


「申し遅れました、私、当ユンフュ窟の副支配人をしております、エウフローネと申します。本日は、お越しくださいまして、ありがとうございます。あなた様方はザント様のお連れ様、最上級の御もてなしをするよう、支配人より厳重に承っております。本日はどうか、心行くまで夢の世界をお楽しみくださいませ」


「ああん? ザントがなんだって? ここの支配人と知り合い? 常連なのか? そんなこと、初めて知ったぜ」


 グリフォは少々意外そうに、しかし腑に落ちないといった感じではなく、あくまで自然な調子で言った。


「はい、ザント様と支配人のエリス様は古いお知り合いです。ですが、ザント様がお越しになるのは本日が初めてでございます」


「へー、そうなのかい。昔の知り合いねぇ、奇特なこともあるもんだ。全然知らなかったぜ。しかし、持成してもらえるのはありがたいが、これはないぜ?」


 グリフォは指で輪っかを作りながら悪びれずに言う。


「お代は頂きません」


「おお、そりゃあ僥倖、後顧の憂いなく遊べるってもんだな」


 と、いかにも厭らしそうな顔で、両脇に侍るエルフの胸を掴むグリフォ。エルフは嬌声を上げながら、彼に向ってパイプを差し出す。高級素材であるラガーワイバーンの飛膜を使った逸品である。グリフォは一口、二口と吸い、紫色の煙をもくもくさせるが、その煙幕にかすんで見える両眼は異様にギラギラと輝き、周囲を油断なく見回しているようだった。


 彼独特の獣じみた嗅覚が彼に何かしらの警鐘を鳴らしているのである。

 このままここにいると、なにか、とんでもないことに巻き込まれる気がする。一刻も早く、お暇するべきだ、と。


 しかし同時に、もっとこの快楽の中におぼれていたい、とも思う。グリフォは本能に忠実な人間だ。

 女、金、ギャンブル、酒、ドラッグ。

 ありとあらゆる快楽に通じ、自ら身を投じてきた男だ。その中でも、今目の前に広がっている酒池肉林は、未だかつて体験したことのない蠱惑的な世界であったのだ。


 理性か本能か。二者択一のこの場面。

 ああ、考えるまでもない。彼は直ぐに観念してしまった。


 約1時間後。

 ザントは抱っこ人形のようにへばりついた少女エルフを片脇に携えて、この部屋へ入って来たのであったが。場のあまりの惨状にさしもの彼も、思わず「ゲッ」と声を漏らしてしまう。


 一匹の獣と化した全裸の中年男性と、その周辺に力なく倒れ込む数名のエルフ。彼女らも全裸。明らかに事後である。

 また、もう一方の筋骨たくましい若い男性のもとには。10名を超えるエルフたちが群がり、彼を巡って醜い女の争いをしていた。物凄いモテようだ。後で聞いた話なのだが、彼はどうやら、エルフを骨抜きにする独特のフェロモンを発することのできる特異体質らしい。猫に木天蓼、エルフにジャンガ。人は見かけによらないものである。

 惜しむらくは、ジャンガが女なれしていないことか。女あしらいどころか、まるで抵抗が出来ないと見え、半泣きの表情でザントに助けを求めてくる。ザントはもちろん取り合わない。


 パンパンッ! と掌を叩く音が聞こえる。

 いつの間にやら、VIPルームに戻ってきたエウフローネは、


「あなたたち、時間です。今日はここまで、部屋から退出しなさい。さあ早く。ぐずぐずしていると、お仕置きですよ」


 ビクリッと、部屋中のエルフの動きが止まる。今しがたの劣情激情はどこへやら、彼女らは慌てた様子で部屋に散らばった服という名の布切れを纏って、部屋から一目散に飛び出していく。


「お、おい」


 と、追い縋ろうとするグリフォであるが、彼女らの動作のあまりの速さに、力なく上げられた右手は空を掴むのみである。ガックシと肩を落とす。


「ちぇ、なんだよ。みんな急に消えちまいやがった。こっからがいいところだったっていうのによ」


 ガックシと肩を落とすグリフォである。ザントは大きなため息をついた。


「……ん? おお、ザントじゃねえか? 今までどこ行ってたんだよ? すごかったんだぜ、さっきまで。エルフのかわいこちゃんが何人も、何人も。ほんと何処に行ってたんだ? さすがの俺様も随分と参っちまったぜ、ヘヘヘ。そう、まるで夢のようだった。……ん? 待てよ、これも夢の続きなのか? 幻影なのか? よくわかんなくなってきやがったぜ。……まあ、いいや。それよりだ、ザント。水臭いじゃねえか。この店のオーナーと知り合いだったなんて、全然知らなかったぜ。もっと早くいってくれよな、そういうことは。そうと知ってれば、もっと早くからいい思いができたのによ。……ところで、その小脇にしがみついた、ちっちゃいエルフはなんだよ?」


 一気にまくしたてるグリフォ。視線をあっちにこっちに、行ったり来たりさせている。一か所にとどまらず、目まぐるしく変わる思考と、それに合わせるように素早く回る口。ユンフュ脳患者の典型的な症状である。


「こいつか?」


 ザントは、しがみついた女の髪の毛を引っ張る。


「いたたたた。ザント、痛いよぉ」


 女は顔を上げ、何故か嬉しそうに抗議をする。が、一ミリたりとも動く様子はない。


「おいおい、ザント、可愛そうじゃねえか」


「いいんだ、こいつは精神異常者だからな。このくらいじゃ堪えるどころか、むしろご褒美くらいに感じてるんだ。……おい、いい加減に離れろよ、いい加減うっとおしいんだが」


 ザントは力を込めて引っ張る。


「いーーーやーーー。絶対離れない」


「おい、ジャンガ。悪いけど、こいつ引きはがしてくれ。お前、力だけは無駄にあるだろ」


「悪いが……無理だな」


 ソファに全身をうつ伏せのまま深く深く埋めているジャンガは、ザントの方を見るそぶりもなく断る。


「で、その女はいったい誰なんだ?」


 改めて問うグリフォに、ザントはため息をつき、


「このユンフュ窟のオーナーだよ」


「あ? まじでか? このガキが?」


「アン? 誰がガキだって? もしかしてこの私に向かって言ってる? 何様?」


「お、おう、やけに態度のデカいちんちくりんだな」


「………………。そう、聞き間違えではないようね」


【マノス】。


 少女エルフはグリフォに鋭利な目線を投げかけ、口の中でつぶやく。すると、ジャンガの後方に黒い靄のようなものが発生した。


「な、なんだ?」


 グリフォはギョッとして、飛び退ろうとしたが、それよりも早くその靄の中から出てきた影のような物体が両手両足に絡みつく。無数の暗影はそのまま彼の身体をぐるぐると簀巻きにしてしまう。


「ゲッ、ちょ、ちょっと、どうなってやがるこれ! や、やべえって、おい、ゲホッゲホッ、喉締まって、……息が、ゲホッ、できない……」


「おい、エリス。その辺にしといてやれ。このおっさん、一応俺の友達なんだ」


「えー。そうなの? こんなのが? ザントのお友達なんだぁ。……ふーん。じゃあ、解放してあげてもいいけど……。その前に」


 エリスは上目遣いで甘えるようにザントの瞳を覗き込みながら問うた。


「ねね、私は、エリスはぁ、ザントにとってなに? お友達? ……それとも、もっと大切な関係?」


 頬を薄紅色に上気させ、恥ずかしそうに、でもどこか期待の帯びた声で。


「……お、おい。早く、ほどいてくれ。これ、まじで……シャレになんねえぞ」


「うるさい!! いまいいところだから黙って!! ……ね、ザント、正直に、答えてほしいな♪」


「お、おう……」


 ザントはあまりに突拍子もない、場違いな質問にどもってしまう。そして思う。

 何を言ってるんだ、このサイコパスは、と。


 友達? もっと大切な関係? 彼女の質問の意味が全く分からない。確かに、彼女は古い知り合いではある。が、前述の通り、ここ数年は顔を合わせることすらなかったわけで。

 まるで毎日顔を合わせる恋人のような質問を投げかけられる謂れは全く以ってないのである。


 だが同時に、彼はやっぱりな、と、どこかしら納得してもいる。彼女の抱える闇……。

 この女は、エリスは超ド級のストーカーなのである。ザントに対してキチガイじみた執着を見せる……恐怖のストーカー女。その行き過ぎた言動は、彼の別の旧友からとある呪を受けて行動制限をさせられるくらいに常軌を逸していた。


 ザントは私の恋人。彼女の思考回路の中では、そんな湾曲された情報が真実と化していても、何ら不思議はない、そう思えるのである。


「ねね、ザント。どうなのかな? 私は、ザントの大切な人?」


「あ、ああ。そうだな……。うん」


「キャ! うれしい、ザント!」


 猛烈に抱き着き、斬斗の頬に雨のようなキスを降らせるエリス。

 傍らでは長身のエルフ、エウフローネがハンカチで目尻をぬぐいつつ、「ああ、よかったですね、エリス様」と、感無量といったご様子。

 ザントの救援信号など全く気付いていない。


「ああ、ザント、ザント。うれしいよお、私、ずっと待ってたの。ザントから、私に会いに来てくれるのを。もう絶対、離さない。絶対に離れない。一生、一生、一緒だからね……。フフフフフ、ザント……」


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