幼馴染のヴィオロギア ④ (挿絵あり)
まさか休日の昼間から誰も自分の部屋に入って来ないだろうと、友達に借りたエッチなDVDのパッケージを部屋の何処かに出したままだった……。
今から雫を無理矢理追い抜いて先回りするのは、階段の幅からして難しい。もしそんな不自然な事をすれば、勘の良い雫は何か異変に気付くだろう。
ここは自然にやり過ごし、機をみてこっそり回収する事にしよう。
先に二階へと辿り着いた雫が、ドアノブに手をかけカチャリと回し部屋に入る。
脇目も振らず所定の位置へと真っすぐ向かうと、いつも使う専用座布団の隣にバッグを置いた。
おもむろに上着を脱ぎ始め手際よく縦半分に畳むと、フワッとそのバッグの上に放り投げる。
「ふぅ、疲れたぁ……」
溜め息ひとつ吐くと座布団の上にペタンと脚を広げて腰掛け、何気なく辺りを見渡す。
「あれ? なんか部屋の雰囲気変わったね? 模様替えしたんだ?」
「あ、う、うん……いい感じだろ?」
あんまりジロジロ見られてDVDが見つかってはと気が気じゃない。
「あっ!」
今度は何だ?
雫は思い出したように声を上げ、バッグからガサゴソと駄菓子の袋をひとつ取り出した。
「何だ……ビックリさせるなよ……」
それをおもむろに開封すると、ちぎった袋の切れ端を窓際の陽射しに透かし、片目を瞑って覗き込んでクジのアタリを確かめる。
「あぁ、もうまたハズレっ。最近ぜんぜんアタリ引いて来ないんだよねー、あと三枚なのに……」
残念そうな顔をすると、部屋の隅にあるゴミ箱に手を伸ばして投げ入れた。
ここまでは、いつものルーティン。
クジが当たると嬉しそうな顔を浮かべて、切れ端を大事そうに手帳に挟む。
何枚か集めると景品と交換できるのだろう。何を狙っているのか知らないが、結構な枚数を貯め込んでいるのを見た事がある。
その後はひたすら黙々と食べ始めるだけ。
それにしても、まるで自分の部屋のような立ち振る舞い。マイペースと言うかリラックスするにも程がある、幼馴染とは言え此処は仮にも男の部屋だぞ……。
作画:ミキ・ルーテシア
雫が駄菓子に気を取られている間に、キョロキョロと部屋の隅々を見渡すが問題のDVDは何処にも無い。
片付けた覚えは無いから、どっかに転がってる筈なんだけどな?
ずっと立ってるのも何だし、一度座ろうと雫の隣に並んで腰を下ろして気が付いた。
ちょうど目の前……。選りに選って一番目に入り易い所にソレは置かれてあった。
なるほど、テーブルが死角となって見えなかったのか……。
証拠隠滅を図ろうとソーッと足を伸ばすが、何食わぬ顔で雫がそれを制止する。
「あ、それね。さっきから気付いてたわよ」
「えっ! あ、これ? こ、これは、僕のじゃなくて……。ほら、借りたのは良いんだけど、まだ観てないって言うか……観るつもりもないって言うか……」
呆れたように小さく溜息。
「はぁ、もう……。問題はソコじゃないんだけどね?」
テーブルの下に無造作に転がるDVDのパッケージを、前のめりになって四つん這いへと姿勢を変えた雫が拾いに向かう。
その後ろ姿が僕の心拍数を上げ、悩ましい感情に拍車をかけた。
両親のいない隙に女の子と部屋に二人っきり……。
スラリと伸びた太腿の先にあるスカートをほんの少し捲ってしまえば、あられも無い姿がもうそこに。
雫ってどんなパンツ履いてんだろ……? ダメだダメだ、そんなこと考えちゃ……。
頭を小刻みにブルっと震わせ邪念を振り払うと、何処からともなく声がする。
『なにやってんだ瞬、これは千載一遇のチャンスだぞ。そのまま捲ってパンツまで一気にズラしちまえっ! 何なら女の方から誘ってるに違いない、でないとこんな無防備な格好する訳ないだろっ!』
僕の心の中の悪魔が囁いた……。
『なに言ってるの、しっかりしなさい瞬! 貴方があんなモノ部屋に置きっ放しにしてるのが悪いのよ。そんな事したら嫌われて、二度と口も聞いて貰えなくなるだけじゃ済まないわ! 学園でも噂になって、最後はこの街を追われる事になるのよ?』
それに対抗するように、僕の中の天使が忠告してきた。
なるほど、これは両者共に言い分は納得出来る。
暫くこの絶景を眺めながら、ディスカッションして頂こうと思う次第であります。
『うるせぇ、オマエは黙ってろ! おい瞬、この根性無しがっ! そんな事だから、いつまで経っても童貞なんだよ、やっちまってから考えたら良いんだ』
『貴方、私の事オマエ、オマエって言うけど、私は貴方の事オマエって言って無いんだから、私の事オマエ、オマエって呼ばないでくれますか?』
『じゃあ悪魔の俺様が、天使ちゃーん……っとでも呼べば良いのかよ?』
『どうでも良いですけど、オマエは止めて下さい。それより……そんな一時の衝動に流されて、今までの関係を無に帰すのですか? なんと愚かな……』
『なあ、見た事ないんだろ? パンツの中身……。大丈夫だ、怒りはしねぇよ、嫌よイヤよも好きのうちだ……さぁ早くやってしまえ』
『惑わされてはなりません! モノには順序、相手の気持ちというものが……』
そうこう言っているうちに、雫が隣に戻って来てちょこんと横に座る。
本日のディスカッション終了。
結果的に時間超過、判定の結果……思い留まったと認定され、天使に勝利ポイントが授与されます。
ところが、雫が手にして帰って来たパケージの中身は空っぽだった。
何故ならDVDそのモノは、パソコンのドライブの中に入れたままだったからだ。
開きっ放しのパッケージの隅を摘まんでプラプラさせながら、呆れがちに雫が言葉を吐く。
「ふぅん……? まだ、観てないねぇ……?」
「あ、あはっ……あはははっ、なんでだろうねぇ……」
捲られたのはスカートでは無く、咄嗟についた僕の嘘の方だった。
どうせ「スケベっ」「変態っ」などと罵られるんだろうが、スケベで何が悪い? 年頃の健全な男子の証拠じゃないか! そう開き直る準備をしていたが……。
返ってきた言葉は予想してた罵声などでは無く、むしろ耳を疑うようなパワーワードが飛び込んできた。
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凹みそうになっても元気が出ます。