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幼馴染のヴィオロギア ②

挿絵(By みてみん)

    ◇◇◇


「パイレーツ航空より、ご搭乗のお客様方にご案内いたします。只今から、パイレーツ航空一四一便、アテネ行きの搭乗手続きを承ります。お客様は出発カウンターH迄、お越しください。本日もパイレーツ航空をご利用頂きまして、誠にありがとうございます」


 国籍、肌の色、言語の境界を越え、さまざまな人たちがそれぞれの想いを胸に足早に行き交う。

 空港ロビーの高い天井からは幾つものアナウンスが降り注ぎ、慣れない海外旅行に戸惑う僕を更に不安にさせる。


「なんて広いんだ、すぐ迷子になっちゃいそうだな」


 ここ成田国際空港の広さに圧巻され、キョロキョロと辺りを心配気に見渡していた。

 アルファベットの書かれた看板をAから順番に目で追い、Hのカウンターを探し当てる。

 まだ搭乗手続きを行う人は誰もおらず、出発カウンターは閑散としていて余計に僕を心配にさせた。

 

「えっ? ここで合ってるよな……? Hで待ち合わせの筈なんだけど……心配だから余裕を持って出たら、少し早く着き過ぎちゃったみたいだな?」


 買ったばかりの白くて大きなスーツケースを片手に、北ウイングと書かれた出発案内板とチケットを交互に睨めっこ。表示数の多さに目を丸くすると、自分の往く目的地を上から順にひとつひとつ確かめた。


「こんな数の飛行機が往き来してるとは、さすが日本の玄関口だな。えーっと、アテネ……アテネっと。あった、これだな?」


 僕は今……ある目的を果たす為、フライトを待っている。

 今年に入って新しく開通した成田からの直行便、人気の航空会社と言われるパイレーツ航空で向かう先はアテネ国際空港。


 アテネ、それはギリシャ共和国の首都であり、三百万人が暮らす最大の都市。

 パルテノン神殿を始めとする遺跡の街として有名で、世界で最も古い神々の都市と言われてるんだ。

 卒業旅行でも無いのに、そんな遠い国に海外旅行とは優雅なもんだって?

 いやいや、そんな呑気な旅では無さそうだし、この先どんな波乱が待ち受けているのか想像も出来ないが、僕はどうしても行かなくちゃいけない。


 そして、その目的を無事果たす事が出来たら……その時こそ。


 ごめんごめん、これじゃあ一体何の話かわからないよね?

 それを説明するにはかなり時間を遡らなくてはいけないんだけど、フライトまで暫く時間がありそうだし、良かったら僕の話を少し聞いてもらえると嬉しい。


 かなり前まで遡るって、数年前? いやいや……。

 小学校の頃? まだまだ……。

 赤ちゃんの頃? いや、もっとだ。

 それは人間として生まれる前、僕がまだ精子だった頃の記憶。


 ちょっと待って! 君は今、苦虫を噛み潰したような顔をして何を狼狽うろたえてるんだ? 卑猥で下品な話だと思ったかい?

 とんでもないっ、話はキチンと最後まで聞いて欲しい。

 それに、そんな嫌悪感丸出しにして恥ずかしいだって……? 恥ずかしいのはこっちの方だよ。

 だって、君だって元を辿れば精子だったじゃないか?


 少し落ち着いて、どうか先入観を持たずに聞いてくれないだろうか?


 これから君に話すのは、そんな遠い遠い記憶の物語……。


    ◇◇◇


 事の発端は、数ヶ月前の事だった――。


 川岸に咲いた桜が寝ているように静かな水面みなもに影を映し、遠く向こうまで続く淡い桃色のアーチからは楽しそうな小鳥たちのさえずる声が聞こえる。

 窓から射し込む春の陽気と暖かい風は、買ったばかりの真新しい白いカーテンをフワリと揺らした。

 その風は眠りを誘う独特とも言える春の匂いと、桜の花びらを幾枚か僕のところへ運んで来た。


 春の息吹を身体全体に染み込ませるように、スーッと息を吸い込んでゆっくりと吐く。


「父さん、母さん、日本に生んでくれて有難うっ! やっぱこの季節は桜だよなぁ、春って最高っ!」


 日差しは幾色のプリズムとなって部屋を照らし、少し埃っぽい部屋は幻想的な空間へと姿を変えていった。

 二階にある家の中で唯一の和室が僕の部屋、休日を利用して男らしいお洒落な部屋にと大改造してみたところだった。


 壁に掛けてある時計に目をやると、午後三時過ぎ。


「ふーっ! もうこんな時間か、我ながら良く頑張った。あとはカーペットでも敷いたら完璧だな? 明日、ネトリにでも買いに行こう。部屋の模様替えもある程度済んだし、ちょっと読書でもしてのんびりするかーっ」


 読書と言っても、もっぱら漫画専門だ。

 難しい本は寝つきを良くするには持って来いだが、こんな小春日和の穏やかな日は数秒で眠ってしまうに違いない。それをチョイスするのは寝付きの悪い夜にしよう。

 枕元に転がっている、お気に入りの単行本を手に取ってベッドの端に腰掛けた。


「ニャーッ! フギャーッ!」


 読みかけのページまでパラパラ数枚捲ると、一階のリビングから飼い猫のマロンが駆け回る足音と鳴き声が聞こえて来たので、途中でその手を止めて聞き耳を立てる。

 何かオモチャか、格好の獲物を見つけ興奮してるのだろうか?


「なに騒いでんだ? うるさいぞっ!」


 それでもまだ暴れるマロンが、ドタバタと周囲の物を散らかす音が止まない。


「おい、マロン?」


 あまりに続くので心配になり、一旦漫画を閉じ様子を見に行こうとベッドから立ち上がると「ニャーォ」と一声。返事をするようにひと鳴きするとピタリと大人しくなった。


「どうせ、窓から迷い込んだ蝶々でも捕まえたんだろ。良いよなマロンは、毎日あぁやって遊んでても誰にも叱られないんだから」


 すると今度は玄関から、来客を告げるインターホンの呼び鈴の音が鳴る。


『ピンポーン』


 家族全員外出中で家にいるのは僕だけだ。インターホンのあるリビングに向かうより直接玄関に出向いた方が近いので、そのまま部屋の扉を開けると玄関へ向かった。



読んで頂いてありがとうございます。


また読んでみたいな……と思ってくれたら応援して貰えると嬉しいです。

ブックマーク、★評価よかったらお願いします。

凹みそうになっても元気が出ます。

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