お別れのプロローグ ④
辺りは終始薄暗いものの、満月の月明りで表情や情景くらいは確認出来るほどだった。
周りに敵の影が無い事を確認すると足早に門へと近付き、美桜と並んで扉にピタッと身体を寄せて姿を隠す。
「それにしても大きな扉ね? 簡単に押したくらいじゃ開きそうに無いし、こう言うのって普通内側からカギが掛かって、何か合言葉でも言って開けて貰うんじゃないの?」
「合言葉ねぇ……。山ぁ、川ぁって具合に都合よく開いてくれたら良いけど、それにどうやって内側と連絡なんか取るんだよ? 大声出したらバレちゃうし、そもそも向こうからしたら僕たちは侵入者じゃないか」
試しに精一杯の力で扉を押してみるも鍵が掛かっているのか、それとも扉の重さなのか案の定ビクともしない。
「なぁ、美桜も一緒に体重を乗せて押してみてくれないか?」
「ちょっと何それ、失礼じゃない? まるで私が重たくて頼りになるみたいな言い方じゃないの! 謝りなさいよっ」
「い、いや……。ごめん、そんなつもりじゃ無いんだけど」
「まぁいいわ。それより瞬、このボタン何だと思う?」
ちょうど胸の位置くらいに埋め込まれた鉛色のボタンを美桜が見つけた。
色が鉄門と同じだった為、同化して気が付かなかったが紛れも無くそれはボタンだった。
しかし……明らかに不自然で、明らかに怪しい。
「ねぇ、押してみましょ?」
「ねぇ、お願いだから止めてくれないかな? こんなところにあるボタンを押してロクな事が起きる筈が無い。普通に考えてそうだろ?」
罠としか言いようが無いし、仮に違ったとしても状況が好転する期待値は限りなく低い。
何かもっと確実性のある手段を考えるべきだ……が。
「ねぇ、押すわよ……。いい?」
「ねぇ、僕の話を聞いてた? いい訳ないだろ?」
「ポチッ」
「あっ! ええっ……? だから勝手に押すなって……」
僕が言うより早く、美桜の指によって押されたボタンの跳ね返りと同時に「ピンポーン」と呼び鈴に似た音が鳴る。
「イ、インターホン?」
扉の何処かにマイクとスピーカーが埋め込まれているのだろうか?
僕が慌てふためいていると、その扉から冷静な声で確かに「はい」と返事をする声が聞こえた。
ビックリして逃げ出そうとする美桜の袖口を掴んで捕まえる。
「ちょっと待て、それじゃあピンポンダッシュじゃないか!」
小さい頃イタズラでやったアレだ。
しかし、はいと返事をした声の主は意外にも女性だった。
声を殺し顔を見合わせ、様子を伺っていると再度壁から女性の声。
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
不思議とその声は穏やかで敵意は感じられなかったが、不用意に話し掛ける訳にもいかない。
それもそうだろう、あちら側からすれば僕たちは侵入者に他ならない。誰かもわからぬ訪問者のせいで、更に警備を厳重にされては厄介だ。
かと言って、どのようなご用件ですかと聞かれて、何て答えれば良いのだろう?
「黙ってたら怪しまれて、さっきのヤツら呼ばれるぞ。美桜、早く何か言わないと……でも何て言う?」
「どぉーもーぉ……新聞の勧誘に来ましたぁ。今なら洗剤と話題のアクション映画『ハーミデーター』のチケットが付いてきますよぉ……じゃあ、ダメかしら? もしかしたら開けてくれるんじゃない? その隙に……」
「今どき新聞なんて誰が取るんだよ、それに何だその映画……僕なら迷わず門前払いだ! それに真剣にやれよ?」
「真剣に決まってるじゃない!」
「どこがだよっ」
あまり言葉に詰まって沈黙が続いても不審がられるだけだが、返す適当な言葉が本当に見当たらない。
「もう、とにかく此処は素直が一番よ……。人間になる為にやって来ましたーっ、どうか開けて中に入れて貰えませんかー? よろしくお願いしまーす……で良いんじゃない?」
「良い訳ないだろーっ。じゃあ何で今までこんな死にそうな目に合わなきゃいけないんだよ? あぁ、それは素敵な目的を持ちですね? 遠い所からご苦労様です、さぁさぁ、狭い所ですが上がってお茶でもどうぞ……って通してくれるとでも思ってるのかよ」
「そうかしら……? 見て? 狭くは無いと思うわよ?」
「そこじゃないだろっ!」
「だってぇ……ほかに何て言うのよぉ」
「だってじゃないっ!」
扉の向こうの相手は黙ったまま、無駄に時間だけが経過する。
「…………」
いよいよ沈黙の間合いに痺れを切らしたのか、扉の向こうの女性は唯一開かれた対話の窓口を閉めようとした。
「おかしいわね? 誰もいないみたい……間違いかしら?」
マズイ! このままでは切られてしまう。ええぃ……もう、どうにでもなれ!
「あのーっ、すみません……クロタマジャクシの宅急便です。お荷物をお届けに参りました、卵子様の御自宅はこちらでしょうか?」
考える間も無く思いつくまま口走るまま。新聞の勧誘よりは少しはマシだが、よく突拍子もなく平気でこんな嘘がつけたもんだ……。
この先起こるかも知れない展開の不安と若干の恥ずかしさが入り乱れ、顔から耳たぶまでカーッと熱くなって汗が一斉に噴き出した。
「クロタマジャクシったら、寛人のバイト先だったところじゃない?」
「うん……咄嗟に寛人の顔が浮かんできて、急にあんなこと言っちゃったけど……。何だろうこの胸騒ぎに似た不思議な感じ」
「アイツ、無事かしら……」
残して来た寛人の身を案じてみたが、その後の顛末を知る術は無く憂わしげな表情を浮かべる
しかし、そんな僕たちに壁の向こうから返ってきた回答は、予想を根底から覆す意外なものだった。
「ご苦労様です。どうぞ、お入り下さい……」
あまりの拍子抜けにビックリした僕と美桜は、目を大きく剥いて向き合って呆然とする。
「えっ? どうなってんだ?」
「こんな簡単に入れて貰って良いのかしら?」
その声と同時に手をかざしていた扉が軽くなると、ギギギギィィィと軋むような音を立てゆっくりと開く。
余り大きく開けて誰かに見つかってはマズイ、身体が擦り抜けれる程度隙間が開くと押す手のチカラを緩めた。
「お、お邪魔します……」
忍び込むように中に入ると、そこに広がる光景に僕と美桜は言葉を失った。
初めまして、主人公の瞬です。
お読み頂いてありがとうございます。
これから僕たちが繰り広げる活躍を楽しみにしてて下さいね?
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では、女神転精をよろしくお願いします。
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