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酢豚定食とニュートリゲノミクス ①

挿絵(By みてみん)

 この時間の此処は、聖域サンクチュアリ


 お昼休みともなれば、誰しもが食欲をそそる魅惑的な匂いを周辺に漂わせる。

 しかし、選ばれざる者の一切の立ち入りを認めない神聖なる場所。

 それ故に、聖域と呼ぶに相応しい。

 そんな神々しい場所を、昨日までは指を咥えて見ていたが……今、僕たちは此処にいる。


「ちょとぉ、横入りしないでよっ! あっ……酢豚定食を三つ下さい」


 口を尖らせながら、三年の男子生徒に冷たい視線と口調で注意を促し、同時に三枚の食券をカウンターに差し出す美桜。その背後に隠れるように、雫が並んでいる。

 さすがの先輩たちも、美桜の活発艶麗な容姿と傍若無人な態度に返す言葉もなく、素直に回れ右をして列の最後尾へと向かった。


 そして僕はと言うと……。腕をめいっぱい広げて、聖域と呼ばれる食堂のテーブルに覆いかぶさっていた。


 この食堂で、神メニューと称される定食がある。

 なかでも唐揚げ定食と焼肉定食、そして酢豚定食が『学食の三位一体』とまで言われる程、学園内で絶大なる人気を誇っていた。

 当然、その食券は幻のプラチナチケットであり、他の食券でさえも入手は困難を極める。

 そればかりか席を確保することすら、この聖域に於いては至難の業。

 入学したばかりの一年生は、此処に近寄ることさえ躊躇うほどである。

 この春で二年生になったことだし、念願叶って初の食堂デビューを果たしたって訳だ。


 当日の朝一番に三年生が殆どを買占め、即完売してしまう幻のプラチナチケットをどうやって入手したかって?

 どういう経緯だか聞いてないので知らないが、「これはきっと、神の恵みよ」とか言って、美桜が酢豚定食の食券三枚を嬉しそうに見せびらかして来たのが事の始まり。

 僕たちは訳のわからぬまま歓喜の声を上げ、とりあえずご相伴に預かる事にしたんだ。


 そして、ここは男子のプライドを賭け、難関なミッションである席の確保をしようと、両腕をこうやって伸ば――


「おい、二年。ちょっと俺たちは大事な話があるんだ。この席悪いけど座らせてもらうぞ」


 テーブルに両腕を伸ばしたまま頭だけ振り向くと、青いネクタイをぶら下げた三年生の男子ふたりが僕を見下ろしていた。

 きっと僕の赤いネクタイを見て、二年と認識したのだろう。

 ひとりは短髪に筋肉質、もうひとりは背の高い色黒の男。


 なんだか面倒な展開になってきたが、僕の定食も持って並んでくれてるふたりを思うと、あぁそうですか……と易々席を明け渡す訳にはいかない。ましてや四人掛け、じゃあ込み合ってるので仲良く相席でも……なんて言っても席がひとつ足りない。

 ここは後から来た先輩に諦めて貰う他ない。


「あ、すみません。ここは僕と友達のふたりが座ろうと思って、こうして確保してるんです……悪いけど、他をあたって貰えませんか?」


「そうか、じゃあ相席で良いだろう」


「あっ……こっちは三人なんですけど……?」


 三年生のふたりは、焼きそばを乗せたトレイを『ガンッ』と音を立ててテーブルに置くと、それぞれ向き合って席に着くなり話し始めた。

 どういう事だ……? まさかの相席選択とは、何を聞いてたらそうなるんだ?

 だから席が足りないと言ってるじゃないか。なるほど僕の存在は、お構い無しって訳だな?


「おい、聞いてくれよ! 俺の酢豚定食の食券……なぜか無くなっちまったんだ」


 おいおい、勝手に話を進めているが聞いて欲しいのはこっちの方だ。


「ちょっと待てトシ。そりゃ、どういうことだよ? 食券が勝手に無くなる訳ないだろ? 知らないうちに落としたか、盗られたんじゃねぇのか?」


 だから、ちょっと待って欲しいのはこっちだって。

 テーブルにへばりついたままの僕を挟んで、ふたりは一向に気にする素振りもなく、淡々と会話を続けるじゃないか。

 なるほど……この短髪に筋肉質で、ついでに横柄な男がトシって言うのか……。

 うーん、いまのところ最低な奴だな。


「それがさぁ……今朝いつものように、ビリケンが食券買いに行った迄は良かったんだけど、あいつ急に自殺するとか言い出して……」


 ふむふむ、食券は自分で買いに行かず誰かに並ばせてるのか?

 って、それに死んでやるとか、朝から尋常じゃないな……。

 もしかしてイジメか? いよいよ最低な奴じゃないか。


「ビリケンがそんな事を? そいつはマズイな、自殺なんて……どうにか止めないと」


「あれこれ言い聞かせてるうちに、思い留まったみたいだけど。その隙に食券は何処か無くしちまうし。もう、こうなったら俺たちで何とかするしかないだろ?」


「何とかするって、どうやって? 相手はタイゾウだぞ。俺たちだけでどうするって言うんだよ」


「ちくしょう! わかってるよ……。ビリケンのヤツが変な真似だけ起こさなきゃ良いんだが……」


 何の話か知らないが、黙って一部始終を聞いてても埒が明かないので、身体を起こし立ち上がってアピールしてみる。

 しかし、視線すら変える事無く……無視!


 とことん無反応なふたりに正直イラっとしたが、ここはとにかく穏便に。

 少し遠慮気味に会話を遮る事にした。


「あのぉ……さっきから聞いてます? ここ僕たちの席なんですけど?」


「…………」


「はぁ? 誰だ、お前? 今大事な話してんだ、あっち行ってろ!」


 そう言ってトシは座ったまま僕を見上げると、眉間にシワを寄せて鋭い眼光で睨みつけてくる。

 何の大事な話か知らないが、僕の知った事ではない。

 それより、早く退いて貰わないと困るのだ……。


 僕もまたその眼を見据えて離そうとしなかった。


「なんだぁぁぁ? その反抗的な眼は?」


「ここは僕たちが先に取っていた席です。いくら先輩でも、食堂のルールは守って下さい」


「食堂のルールだと? そんなもん、今はそれどころじゃねんだよっ!」


 トシが苛ついて大きな声を出した瞬間、まるで横笛のように澄んでキリっとした声がそれを諫めた。


みなさん、こんにちは雫です。


あ、あの……評価、ブックマークしてくれると嬉しいな。

少しでも沢山の人に読んで欲しいです。


よ、よかったら☆☆☆☆☆から応援してくれないかな?

ねっ? ウーちゃん……。



あ……あれ? いないみたい……。


これから物語の秘密が少しずつ解明されていくから飽きずに読んでね?


『女神転精』


よろしくお願いします。

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