お別れのプロローグ ① (挿絵あり)
大変長らくお待たせしました。
一度消したので前作の評価ポイントが残っておりますが……更にブラッシュアップして帰って来ました。
約120話……毎日連載するので良かったら読んで下さい。
きっと作者は泣いて喜びます。
では……僕の回想シーンから物語は始まります。
回想……。そう、物語の結末はここへと繋がる。
僕が人間になるには、過酷な戦いが待っていたのだ……。
◇◇◇◇
遥か四方に果てし無く広がる草原。
いつか見たような夕陽に照らされ、オレンジ色に輝く草花が微かな風になびき揺れている。
次第に冷たさを増す風の中、振り返る南側には先程抜けて来た市街地が遠くに映り、西側と東側にはノコギリの歯のような山々が蜿蜒と連なる。
そして茜色の空に薄く望む事の出来る城壁が、進むべき道は北側のみであると知らせていた。
そんな僕たちの眼前に立ちはだかる屈強な戦士。見上げる程大柄なその男は、自らをゴリアテと名乗った。
大きく口を開けた獅子の姿が彫り込まれた、黄金に輝くアーマープレートが上半身を包み、細い楔形の板を幾枚も重ねたスカート状の鎧が下半身を護っている。片手で自らの身長を遥かに超える大槍を肩に担ぎ、仁王立ちして僕たちの往く手を阻んでいた。
「此処で殺されるのが貴様らの運命だ。もはや引き返す場所もない、侵入者は死あるのみ」
作画:ミキ・ルーテシア
僕たちの倍近くある高い位置から、見下ろすように放った低音のアルトボイス。
自信に満ちたその口調と、その豪華絢爛な身なりからしても察する事が出来るが、何よりまず本能的に恐怖を覚えた。
今まで相手にしてきた相手とは断然格が違う実力を、この直後まじまじと見せつけられる事となる。
「やれるもんならやってみやがれ、俺たちを舐めるなよ!」
「イクぜ、俺が一番乗りだ」
「私もイク!」
勇敢なのか無謀なのか、強硬突破を図った数名の男女たち。
ゴリアテは大きな体を半身後ろに捩じると、持っている大槍を旋回させる。
巨漢という圧倒的質量と柔軟な筋肉が生み出す強烈な一振りで、その者たちは断末魔を上げる間も無く真っ二つに斬り裂かれた。
少し離れた場所にいた僕と美桜も風圧だけで数歩後ろにたじろいだ。そんな攻撃の威力に目を丸くした瞬間、頬がスゥーと裂け数滴の血が飛び散った。
衝撃波……空気さえも斬り裂くそれは、音よりも速い超音速。ブォンという音はその後から遅れてやって来た。
「うおりゃ!」
間髪入れず野太い声と同時に繰り出された次の攻撃は、デカい図体の割に俊敏なものだった。
滑らかな動きで左足を踏み出すと同時に、大槍の先端が蒼い炎の弧を今度は縦に描きながら振り下ろされる。
草に足を取られ僅かに出遅れた寛人は、半身擦れ擦れで避けるもバランスを崩し草原をクルクルっと転がっていく……。そのまま素早く立ち上がると、右手で金属バットを再度ギュッと握り締め再び向かい合うが、そんなふたりの姿は対照的だった。
ゴリアテの身体は鎧の上からでも隆々とした筋肉が覗い知れ、更には良く手入れが施された大槍の先端は、まるで生きているかのように青黒く鈍い輝きを放っている。
一方の寛人は黒縁メガネに無精ヒゲ。だらしなく弛んだ腹は愛らしく、中肉中背の風貌は学ランを着ていなければ誰も高校生だとは思いもしないだろう。
その手に強く握った金属バットは使い込まれた感はあるものの所詮バット、渾身のフルスイングを撃ち込めば多少のダメージは必至。しかし、倍の背丈はあろうかと言うゴリアテを真っ二つに斬り裂く事は疎か、切傷ひとつ付ける事も叶わない代物。
「肉を斬らずに骨を断つ」そんな芸当が出来れば話は別だが、彼我戦力の差はイカダVS宇宙戦艦……それくらい明白なものだった。
想像を絶する果てし無い距離の行軍と、往く手を阻む敵との戦いで、僕たちの仲間は当初の一割すらも残存していなかった。
体力と気力は疲弊し、誰もがそろそろ限界に近付いていた。
おそらく遠くに霞む城門を越えれば目的の場所。しかし此処へ来て、思いもしない強敵により、まさか全滅の危機に見舞われようとは……。
「あの時もこんな感じだったのかな……?」
傷も無いのに何故か不思議と痛んだ右胸に手を当て、恐る恐る確かめるように離すと掌を見つめた……。
大丈夫だ……。血ひとつ出ていないじゃないか?
「僕は生きるんだ、ここで死ぬわけにいかない……。僕には守らなきゃいけない相手がいる、だから今度こそ――」
そう言って再び寛人とピッタリ並んで拳を構えた。
見上げるほど大きな的だったが、どこに撃ち込んでも届く気がしない。
息で肩を弾ませる寛人が僕を庇うように余った左手を一文字に差し出し、バットの先端をゴリアテの咽元に向けると力無い笑い声を上げた。
「ははは……どえらいのが現れよった。最初からクライマックスやがな……? 俺には似合わん役回りやけど、こうなったらしゃあない……」
その右手は度重なる疲労なのか、はたまた武者震いか微かに震えてる気がした。
鼻息を更に荒げジリジリと距離を詰めて来るゴリアテに押され少しずつ後退すると、寛人は左手をバットに添え両手でしっかりと握り直し僕に振り返った。
「お前が最初に言うてた、ゲームでフラグが立つ言うんはコレの事やな?」
「な、いきなり何の話だよ?」
「まぁ俺はテレビゲームなんてもん、いっぺんもやった事ないけどな……。せやけどな瞬、俺も言うてみたかったんや……こんな格好えぇ台詞」
「おい、まさか……縁起でもないこと言うんじゃないだろうな?」