もし戻れるのなら
「とりゃあぁああ! くりゃえぇええ!」
「ぐえぇえええっ!」
ぱたりと倒れる一匹の男ゴブリン。
「やったぁレベルアップ!」
勇者は力がみなぎった。そして狭いダンジョンをトタトタと駆け回る。再びエンカウント。今度は女ゴブリンが現れた。手には何でも吸い込んでしまう武器を持っている。
女ゴブリンの攻撃!
勇者はほっぺたを吸い込まれて苦しそうだ。次第に涙がたまってくる。それを見た女ゴブリンは、攻撃をやめてしまった。
「もうしないからね。ごめんね」
この勝負、勇者の勝ち!
しかしラスボスは彼よりさらに小さなモンスター。
「おぎゃー! おぎゃー!」
男ゴブリンも女ゴブリンも、このモンスターの前ではひれ伏すしかない。高く頑丈な壁に守られているから、小さな勇者にとってそれは難攻不落の城であった。
勇者は一人ぼっちでダンジョンを駆け回る。
つみきの丘を越え、時にクレヨンの魔法を使い、トイレの試練を受け……。
「大人は火の子、こどもはキノコ!」
そんな迷言を残して次第に大人になっていく勇者。
みんなみんな、勇者だった。
大人になる前、みんな勇者だった。
そして、何より心は冒険で満ち溢れていた。
もしあの頃へ帰れるのならば……。
あなたがこどもの頃にした“冒険”はどんなものですか?
少しでも思い出してもらえたら嬉しいです。
純文学=硬い文章、かといえば、私はそうでないと考えます。
スッと心の中に“芸術の欠片”が入り込む要素があれば、
きっとそれはもう純文学作品だと。
私の思う“芸術”とは、純粋で澄んだ水晶のような心の投影。
こどもの書いたような文章が書きたいときだってあるのです。
隈なき作品も高尚ですが、こういった未熟っぽい作品も良いかなぁと。