☆エピソード7 研究所と破壊兵器と灼熱と笑顔
機械の巨人がいた。無人だ。しかし自我を持っていた。巨人の個体名はガラナ・ゼータという。かつてこの地にあったガルドラン帝国の跡地にて大量生産されていた破壊兵器ガラナシリーズの第六世代にして、最強の一機である「彼女」は、アルファやベータともども撃墜され、その機能を停止。やがて主戦力である彼女らを失った帝国ともども、魔国領へと廃棄されたーーのだが。
「よーし、これで完成だ。後は魔力炉に魔力をありったけ、ぶっこんでやれば……」
彼女は動かない瞳で少年を見つめていた。自分の欠片を集め、修理してくれている少年を見つめていた。ーー物好きがいたものだ。こいつの技術は天才の域だ。きっと将来は立派な科学者になるか、悪名高いマッドサイエンティストになる事だろう。ーーそんな風に呆れたり、感心したりしながら。
「さあ。修理は完了した。再起動できるはずだよ………ガラナ・ゼータ」
「機能回復率20%を上回りました。究極破壊兵器ガラナ・ゼータ再起動……完了。アナた、私ヲ知っていテ修理したノ。」
機械の巨人の大きな単眼がギョロリと動き少年を捉える。威圧的な言葉を放つが、彼女は少し眠そうだ。
「ああ。そうさ」
「戦争を始めルつモり?」
「そんな事はないが、戦ってはもらう。そうそう俺はザッカール!新たなマスターの名だ、覚えておけ!」
「そウ。ナラば実力を試さセて貰ウね。強制転送」
少年は白い空間へと転送された。目の前には人間らしき少女が一人。
破壊兵器ガラナ・ゼータが現れた!
ガラナ・ゼータ/破壊兵器ガラナシリーズ上位個体
Lv30_Atk280_HP4000/4000
「術式準備中……戦闘……開始シマす……」
研究員ザッカールは冷静に周囲を分析している。
ザッカール/中級学徒
Lv10_Atk40_HP210/210
「……ふむ。戦闘用の空間を展開できるのか。力比べというわけかい、ゼータ。シンプルで分かり易いのは好きだ」
「攻撃術式起動。ガラナトマホーク」
「なめるなよ?防御術式起動、レッドスター!」
【ガラナトマホーク】
判定開始。4回攻撃。4d6の3以上で1回ヒット。6によるヒットはダメージを倍化する。判定のダイスは……5、5、1、2。
総火力、280+280=560。
少女ゼータが掌をかざすと、虚空からザッカールへと巨大なミサイルが放たれた。が、ザッカールも負けじと赤い光を集めて、星形の盾を展開した。
【レッドスター】
判定なし。下級魔石を1つ消費し、1000ダメージ以下のあらゆる攻撃をこのターン中に限り無効化する。
どぉん!
「広域殲滅術式起動。ガラナブラスター」
「今のを完全に相殺したんだから少しは誉めて欲しいもんだね。術式多重起動、スターランス!スターソード!」
【ガラナブラスター】
3d4を振り、出目=攻撃回数とする。武器の届く敵味方へ全体攻撃。伏せている者には当たらない。判定のダイスは……3、2、4。9回攻撃。総火力、258×5=2520。
少女ゼータが浮き上がると、両手から極大の光線を放ちながらグルグルと回転しはじめた。惑星の自転のようにその場で回って徐々に勢いを増す彼女。撒き散らされる光線を光の槍で穿ち散らし、光の剣で切り裂き散らすザッカールから、思わず苦悶の声があがる。
【スターランス】
判定なし。下級魔石を3つ消費し、3000ダメージ以下のあらゆる攻撃をこのターン中に限り半減する。
【スターソード】
判定なし。下級魔石を2つ消費し、2000ダメージ以下のあらゆる攻撃をこのターン中に限り無効化する。
「くっ、全く厄介な。流石に究極兵器の名は伊達じゃないな!」
惑星のように自転していた彼女だが、攻撃が通じていないと見るや、やがて白い空間中を高速で"公転"しだした。自転の角度も一定ではなくなり、空間中に光の雨が降り注いだ。様々な角度からの横殴りだ。
ブワァァァァ……と低い音をたて、或いはピキィィィィィン……と高い音をたて、破壊の光線が暴れ回った。
「20%でリブートしてる時点で、スペックとしては5分の1。そこから尚且つ人の姿になってまで加減して、これほどとはな。超級術式起動!来いッ、ホーリーブレイド!!」
【ホーリーブレイド】
中級魔石を1つ消費し、3000ダメージ以下のあらゆる攻撃を今後Xターンに渡り無効化する。また、無効化した攻撃の余波が届くほどの近距離に敵がいる場合、無効化したダメージのX割を敵に跳ね返す。X=1d4で判定する。
判定のダイスは……3だ。3000ダメージ以下のあらゆる攻撃を今後3ターンに渡り無効化され、そのうち3割のダメージが相手へと返される。
星光の槍と剣を捨て、更に巨大な剣を作りあげたザッカール。斬馬刀のような大振りの剣だが、重さはほとんどないのだろう。光だから。少年でも振るえるという訳だ。
「攻撃術式再起動。ガラナトマホーク」
判定開始。4回攻撃。4d6の3以上で1回ヒット。6によるヒットはダメージを倍化する。判定のダイスは……6、5、1、4。
総火力、560+280+280=1120。
斬馬刀のように大きな光の剣がゆらりと戦場を凪ぐと、放たれたトマホークを全て払い落とした。ーーちゅどん!!ちゅどん!!ーートマホークの爆発はガラナ・ゼータを襲った。
ガラナ・ゼータ HP4000→3664
「ッハア、ッハア!どぉぉりゃーー!!効かねえ!効かねえな!ブラスターとトマホークはもう攻略した、全部切り伏せてやるぜッ降りて来い!次だ次!次の術式見せてみろー!」
少年の前に降り立つ少女。ゼータはまだまだ眠そうだ。
「現在のスペックでハ試行でキる攻撃手段がモうアリませン。最終術式【自爆】を起動シマす。……あ、イマ破壊サレるそこノ私ハ投影でスかラ」
そう断ると、少女の体から光が溢れはじめた。
きゅいぃぃぃぃぃぃぃぃん……!
「もういいだろ。自爆はだめだ。やめろ。その少女の姿で爆発四散する気かよ」
きゅいぃぃぃぃぃ……シュウン
「それモそうデスね。マスターザッカール」
「認めてくれたか。よろしくゼータ」
こうしてゼータとザッカールは出会い、手を組んだのだった。ザッカールと握手をかわす少女姿のゼータの顔は、笑顔のアバターになっていた。そこに、もう眠そうな表情はない。
ーーー
白い空間から出て、埃臭く薄暗い工房に戻ってきたゼータとザッカール。
「マスターザッカール、言語パッチ二異常がアりそうデス。修理でキませンカ」
「確かにおかしいな。初代となるアルファや二代目三代目辺りまでなら仕方ないが、お前は第6世代だろ。もっとすらすら喋るように、直るわけだが……どれ顔ン中ぁ見せてみなよ。ゼータ」
にーーー、ガシャン。ぱかっ。
ふしゅーーーん。ゼータは後頭部を開いた。
「あーうん、魔石がだめだね。割りと重要な部分を担う魔石の幾つかにヒビが入ってんよ。言語中枢だけじゃなく、情報伝達関連もズッタズタ。論理的には直せるけど現実的には直らんわ」
「デしょうネ……現在の修復率は約20%ですカら」
魔石は高級な魔道具だ。滅んだ帝国だって、第六世代となるゼータ種はたったの3機しか生産できなかったんだ。さてどうしたものか。
その時、工房に……
「やあザッカール。って何だそれは!!」
アリン所長がやって来た。騒々しい彼女は泥まみれの煤まみれ。きっとまた何か変なものを作っていたのだろう。ザッカールも今の戦闘で、服が焦げてたり破れてたり、足元を魔石の欠片まみれにしているので人の事は言えないが。
「動いてる!?ゼータが再起動したのー!やったわザッカール!これで政府からの資金援助が増えるわ」
「資金援助ですか。ならそれが入れば、ゼータの言語中枢くらいは容易く直してやれるかも知れんな。ま、すぐではないが」
ーー
この物語は、機械の巨人を少しずつ直してゆく物語。話が進むに連れて巨人は本来の力を取り戻してゆくだろう。だが、決して簡単な話ばかりではない。この少年だって人間だから、機械と違って寿命があるし、銃で撃たれりゃおしまいだ。それ以前に工房は常に金欠病であり、アリン所長は節制を知らない。だから、ザッカールには何かの小さな部品や鉄屑の塊一つすらお宝なのだ。
「紅茶はいかがかしら。一息いれようよ、ザッカール」
「所長、また高そうなものを……」
ーー