表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

エピソード6 魔神イザベルの雷《いかずち》

でん、でん、でん。

ぴしゃん、ぴしゃん、ぴしゃん。

雷みたび、天より注ぐ。


どん、どん、どこ、どん。

どこ、どこ、どん。

雷雲ごろごろ、楽しげに。


でん、でん、でん。


雷が三匹の人間を貫いた。仔犬の魔獣を苛めていた悪い奴らだ。仔犬の毛皮を剥いで、眼玉を抉り取って、お金に変えてるらしい。ふざけている。


だから、少女は太鼓を鳴らす。雲に乗って太鼓を鳴らす。血塗れになりながらも、仔犬は森に逃げていった。


「ふぅ、お仕事完了。おやつでも食べるか」


少女の名はイザベル。魔獣を統べる魔神だ。

といっても、この《ツベラの大樹海》一帯のみの管理と守護を任されただけの新米。魔王どもに作らせていた神殿だって漸く完成したばかりだ。


「さて、今日のお供えものは~?」


イザベルが祭壇の間に行くと、ちょうど祭壇が輝き出した。どうやらお供え物が転送されて来る時間のようだ。転送といっても、遠方にある神殿の仮設祭壇に供えられた供物はなくならない。正確には複製や転写をしている、と言うべきか。


「お。《魔国ミゼール》産の唐揚げじゃありませんかー。……やったぜ!魔王ミゼール君ナイス!」


魔獣の神でも動物は食べるらしい。魔国産の鶏は大ぶりで油がよく乗っている。串にささってるものと、バラのものがある。少女はバラの方に目をつけると、ひょいと掴む。手掴みだ。


ぽいっ。もぐもぐ。


「至福ーー!至福過ぎるーー!」


ぽいっ。もぐもぐ。


「やめられなーい、止まらなーい」


その時、祭壇が再び輝き出す。輝きが収まると、そこには半裸の女がいた。人間だ。しかも何やら薬物等の嫌な匂いがする……非合法の遊女や娼婦の類いだろう。穢らわしい。金でも尽きて生け贄にされたのか。こんなものを貰っても嬉しくない。人間の悪意は時おり同族をも食らう。


ーー不快。


「殺」

「お待ちください」

「やだ」


でん。

ぴしゃん。


太鼓を鳴らすと雷の天誅が飛んだ。


「……おや。手を抜いた適当な雷撃とは言え、天誅を耐えたか。耐性持ち。それだけでも冒険者として一財を築けるだろうに」


「魔神様。どうかこれをお納め下さい」


半裸の女がフラフープをくれた。なんじゃこりゃ。魔神の少女は舞台で踊るつもりなども微塵も……おや。


「雷を強化するアーティファクトか。希少な品だ。まあ、いいだろう。見逃してやるからさっさと失せろ。薬物臭くて叶わんし、その痣もボロキレも見るに耐えん」


魔神の少女は女にエリクサーをぶちまけた。女を蝕む毒や痣がみるみる消えてゆく。続いて右手で空間に小さな穴を開け、庶民的なローブを取り出して女に着せた。


「あ、あれ?至れり尽くせり……こんなにして頂いてよろしいのですか」

「いーから、いーから。さっさと失せろ。お帰りはあちらね」

「っ、はい。ありがとうございます」


女はフードを深く被ると一礼して去っていった。しかし少女はハッと気付くと女を追った。この神殿の外、魔獣だらけ。


「さすがに情けをかけて助けてやったからには、町までくらいは面倒見てやりますか。はあ。一応私、神ですし?暇ですし?」


外に出ると、魔獣である黒い仔犬が人間に飛び掛かっていた。つーか噛んでる。ガブガブ噛んでる。女、めっちゃ叫んでる。ところで魔神は魔獣の神であり、戦うなら当然魔獣の味方をするべきものだ。人間の味方をして魔獣を殺したりすれば、魔神としての神格が最悪なくなりかねないらしい。……まあ、戦うならの話だが。


「我が同志よ、そやつはわらわの客である。汝、退きたまえ」

「がるるる……!?オオセノ……ママニ……魔神様」


へなへなと崩れ落ちる女。もはや死を覚悟していたようだ。再びエリクサーを振る舞う少女。ローブは……多少ワイルドになったか。でも外にいれば、このぐらいは常識的な傷みかなと判断し、ローブの替えは出さない。


「まあ、なんだ。町までは護ってやる。乗れ」


そう言うと、少女は黒雲と無数の太鼓を呼び出し、さながら雷神とでも言うべき形態へと変化した。雲は手足のように動かせるらしく、雲は少女を《掴み》、その背に《乗せた》。


「えっ。なんですかコレ」

「貴様なら痺れないだろう?この千年の間で、私の雷雲に乗せてやった人間は貴様で4人目だ。光栄に思えよ、にしし」


少女は先程とうって変わり、テンション高めの様子だ。何故だろうと女が思っていると、二人を乗せた雷雲は思いきり空へと飛び上がった。


「ひゃっほーい!空の旅路は楽しいよなー。もぐもぐ、もぐもぐ」


少女は唐揚げを食べ出した。手を虚空に突っ込むと次々と無数に出てくるようだ。マイペースな魔神である。


「おいフラフープ女!魔国産の唐揚げ食わないか?アーティファクトの礼に少し分けてやろう。町はまだ遠そうだしなー」

「い、頂きます。うわ辛ッ」

「だろ!超高級な香辛料がドカドカかかってるかんな!あははは!」


少女の愉快そうな笑い声とともに、雷雲は加速した。


「お前らもさ、食ってく為に必死なんだよな。理解はしているが、うちら魔神にも体裁があるんだ。この樹海で魔獣狩りしてる連中に言っといてくんねーか?魔神のいねートコでやった方がいいよ」


「……お優しいんですね。魔神様は人間から凄く恐れられていて、生け贄になった時はもう終わりかと。でも、誤解していたようです」


どん、ど、どん、ど、どこ、どこ。

雷舞うよ。


「いや、全然殺すつもりだったけどね」

「貴方達と人間は相容れないんでしょうか?私、そんな事ないって、今日思いました」

「……そーかい」


どこどん、どこどん、どこどこ、どん。

少女は笑うよ、楽しげに。


ーーかくして、魔神イザベルと生け贄女の長い旅は始まった。

そう、コレは長い長い物語の序章に過ぎない。

生け贄女を無事に町に届ける事、それはイザベルにとってかつてない重労働となるだろう。


何故ならこの生け贄女、死亡フラグ抱えまくり、死神に愛されまくり。とある方法で何度も何度も時を越え、やり直しにやり直しを重ねて、漸く「第一の難関である魔神を攻略した」に過ぎないのだ……!

いやはや、今回特にカオスですね。とある闇鍋小説企画に参加しようと奮闘してた時の供養用なもので。


企画内容はリプで集まった8つの要素をぶち込んだ小説を書くという、三題噺ならぬ八題噺でした。集まった要素は以下の通り。


1夢/2黒い犬/3タイムリープ/4ストリップ

5フラフープ/6深海/7太鼓/8唐揚げ


まぁ、海底と夢は未だに消化できてないんだよな……。今回の登場キャラが絡む回で、いつか指定要素をクリア出来ればなと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ