エピソード11 私は地底人
金のかかるものが嫌いなんだ。維持費のかかる家や車や体。光熱費、何かの年会費、定期預金、税、宴会、冠婚葬祭。要らない。沢山だ。何かの糸がぷつりと切れ、そんなヤバい思想の雷に打たれた私は、ほぼ全ての財産を売り払い、体をいじくりまわして、気付けばサイボーグになっていた。
別に、やけを起こしたのではない。自殺願望じゃないんだ。全ては合理性を求めた結果。命はないといけないし、痛いのも苦しいのも嫌。じゃあ肉の体は要らないじゃないか。敵意や悪意にさらされるのも無理。どこかに隠居したい。地上はダメだ。人が多すぎる。空もダメだ。空も人の所有物みたいなもの。ならばと、私は海底や地中に引きこもる事にしたのだ。
神鉄オリハルコンすら砕く万能ドリルアームをちゅいんちゅいんと言わせながら担ぎ、思い至るや即座にお豆腐ハウスを作る私。浮遊機能あり。気ままに空なんて飛べば、どっかの国にミサイルや魔法で打ち落とされそうですけどね。掘削機能あり。基本は地中を移動する。地中にはゾンビが沢山いた。土葬やめろや。教会め、埋葬の祈りが雑なんだよ。キモいのですぐに火炎放射機能を搭載して焼き払った。
ちょっとしたホームシックにより地上に立ててみたお豆腐ハウスは、行政機関がうるさいので爆破して破棄した。やはり地中がよい。土地は私のだが不動産屋に売り払った。大した金にならないようで、今の火炎放射10回分くらいの値段だな。
さて地下を沢山掘ると鉱石類があれよあれよと取れる取れる。これが誰にも怪しまれずに金になったら言うこと何もないんだけどなぁ。ま、いいさ。自分の体とこの家の補強に使うとしよう。
私は金属の体で生きているんだ。日々沢山の血と栄養を必要とする手足は義足と義手にした。毎日肉や野菜といった短期間で腐る食料が必要なんて、効率が悪すぎるからな。体は全て脳波を読み取り電気信号で動く。人間程度の筋肉より力が強くハイスペックだ。内臓もほぼほぼ機械で代用した。これならガンにも盲腸にもなるまい。むしろ自前の部位など心臓と脳と右目だけだ。食費がかからず実にコスパが良い。ダメになった部位の交換はありあまる鉱石で自給自足だ。誰にも搾取されないのが良い。
掘り進めていると、水中に出た。深い。広い。海……いや湖だな。録画装置だけをシュノーケルのように水面から出し、水上及び周囲を観察する。多分周囲から見たら完全にネッシーだな。ネッシーの正体はきっと私の同族さ。地中を掘り進めていたら湖に出ちゃって、周りを見てたら騒がれたんだろ。さっさと偵察を終えよう。……おや、周囲が騒がしいな。
「ドラゴンだ!湖にドラゴンがいるぞ!」
「きゃあ!村が焼かれてしまうわ」
「自警団に連絡を!早く!!」
湖にドラゴンが!?鉢合わせたら大変だ。すぐに音響振動によるマッピングを開始しよう。きーーん。
「超音波攻撃だと!?奴もこちらに気付いているのか!」
「きゃあぁぁ!耳から……耳から血がっ」
「逃げよう!あれはヤバい!!」
ドラゴンなんていねーじゃん。むしろ何もいねぇ。あ、もしかして私ですか。……ゴーグルでかくし過ぎたかな。竜の首に見えるほどのつもりはなかったんだが、客観的視点は分からんな。ま、目撃者は消しておくとしよう。私の安寧を脅かし兼ねん。
「キリングレーザー起動。タスク開始15秒前。13、12」
運のない奴らだ。
「3、2、1、」
……消え去れ。
「照射」
安寧は守られた。めでたし、めでたし。あれ?なんで私は泣いているんだろう。右目も義眼にしようか。肉の体はバグまみれだ。鬱陶しくて、大嫌い。
そういえば私の名前は、何だっけ。年齢は……だめだな。いつの間にか、思い出せない。でも、別に良いじゃないか。だって今、私はこんなにも自由なんだから。最高さ。