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第二十八話 戦い終わって

第三章、始まります!

 また、三郎はまどろみの中にいた。


 シャツとスラックス、そして革靴を身に着けている。やはり、前世の夢だった。

 三郎は社用車を運転していた。

 助手席を見ると、誰か座っている。

 まだ光沢のある黒の女性物スーツを着て、やや暗めの茶髪に染めた髪を後ろでくくっている。どうやら新入社員のようだ。

 営業部の先輩として、三郎はまだ慣れない新入社員を連れて得意先を回っていたのだ。どうやらこの夢は、その帰りの場面らしい。


 彼女が不意に呼んだ。


「先輩! 仕事って楽しいんですね!」

「そうかい? まあそう感じてくれたなら、連れてきた甲斐があったよ」

「これから私、バンバン営業かけて、先輩の分まで仕事取ってきちゃいます!」

「おっ、言うじゃないか! いやあ、今朝まで『知らない得意先に行くの怖いですー』なんて言ってたとは思えないな」


 そ、それは~、と後輩が頬を赤く染める。三郎は笑っていた。


「……先輩。私、この会社に入って良かったです」

「うん、なんで?」

「だって、こんなに良い先輩に巡り会えたから……」


 まだ初々しさの残る汚れのない笑顔が、三郎を見つめていた。


 ……この頃は、まだ良かったな。


 感慨深く三郎が眺めていると、後輩の顔がみるみる険しくなっていく。


「また! いつまで寝ているのですか!?」

「お、おい、どうした?」

「いい加減に、起きろ!! この甲斐性なし!!」


 さっきまで柔和だった後輩の目が、切れ長のするどい目に変わり、細面ながら整った顔立ちは鬼の形相をしており、そしてしっかりとボリュームのあった胸元はいまや風船がしぼんだかのように起伏を失い、それはもうまるでどこぞの舞耶のようであり、舞耶そっくりであり、むしろ舞耶そのものであり、というか舞耶本人じゃないか!?






「いい加減に、起きろ!! この甲斐性なし!!」


 三郎は目を覚ました。

 寝ぼけ眼を向けると、そこにまさに夢の中で見た舞耶の姿があった。


「おお、舞耶じゃないか」


 うんうん、やっぱり舞耶はきれいだなあ。夢の中の再現度もバッチリだったな。


「特に、その胸」


 三郎は満面の笑みで言った。


「ぺったんこ」


 次の瞬間、八咫の館に雷鳴が轟いた。


「このっ、破廉恥がああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」






「なに、岐洲城が落ちたのか?」


 ここは拓馬家本拠、瀬野城。

 聞き返したのは当主の拓馬茂利(たくましげとし)だ。

 だが、どうも驚きが薄く、覇気の抜けた印象を与える。


「はい、城主の三宅殿もお討ち死にを……」


 報告する家臣が頭を下げる。


「そうか、お労しいことだ」


 茂利は目をつむった。

 一方の鹿嶋長政はさもありなんとばかりに鼻で笑った。


 ……三宅継信は城の防備に頼るばかりで、己の知恵を働かせようともしていなかったからな、いずれ落城しても不思議ではあるまい。だいたい、女ごときにうつつを抜かすような低能なのだ。どうせ、目の前のことに目がくらんで、判断を誤ったに違いない。やはり、無能は度し難い。

 だが問題は、継信の猿を手玉に取ったのは一体誰か。


 長政は家臣に声をかけた。


「岐洲城を落とした、敵将は誰であるか?」

「……それが、例の八咫でして」


 その言葉に一同はざわめく。またしても奇術にやられたのか、いやいやまたまぐれであろう、しかしあの三宅殿まで倒したとなると、と口々に言う。

 誰もが、穀潰しの軟弱者の引きこもりの若輩者など認めたくはないのだ。

 だが、


「ククク……、そうか! やはり八咫か!!」


 長政は声を上げて笑った。

 そうだ、そうでなくてはな! こんな呆けた老いぼれどもばかりでは面白くない! 貴様のようなやつがいなければ、手応えがなさすぎる!


「それで、奪われた岐洲城はどうやって取り戻すのだ?」


 茂利が一同に訊く。自分で考えるつもりは毛頭ない。

 だが、控える一同もただ顔を伏せるばかりである。岐洲城の堅牢さを皆わかっているのだ。五万の軍勢でも落とせないと言われたあの城だ、攻めたところで失敗するのは目に見えている。ここで貧乏くじなんて引きたくなかった。

 だが、鹿島長政は周囲のその様子を見て心底呆れ返った。


 所詮、無能は無能か、揃いも揃って怖気づきおって。兵が足りないなんてのは言い訳に過ぎん、だいたい、八咫は三百足らずで落としたというではないか、ようは発想を転換させられるかどうかなのだ、その程度もわからないから、貴様らは無能でしかないのだ!


「なんだ、誰もやらぬと言うのか」


 茂利は落胆した。かと言って責めるわけでもない。一番不甲斐ないのはこの男である。当主がこれでは、家臣も骨抜きになるのは仕方のないことかもしれない。


「俺に、お任せを!」

「おお、鹿嶋殿か」


 一同は振り向いた。これまで鳴りを潜めていた生意気な小僧が出しゃばったのである。


「必ずや、南斗家の連中をこの国から駆逐し、岐洲城を取り返してご覧にいれよう!」

「うむ、よく言った。貴殿に任せよう」


 長政は不敵に笑ってみせた。


 貴様ら無能に、物事のやり方というのを見せてくれよう。せいぜい、参考にすることだな、まあ、それが出来る頭があればの話だが。

 そして。待っていろ、八咫! 貴様の相手は、この俺だ!!

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