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第二十六話 岐洲城の戦い・第八次攻略戦 肆

「相手はたったの三百だ、我らの城を取り戻せ! 攻め立てろ!!」


 三宅継信は怒りに燃えていた。ものの見事に三郎の策にハマってしまったのである、しかも女に目がくらんで自分から城を明け渡してしまったのだ。継信にとって最大級の屈辱でしかなかった。

 怒声を上げる継信に家臣が寄りすがる。


「殿、おやめください! 岐洲城は二千の軍では落とせませぬ! たとえ相手が小勢であっても簡単に落とせるような城ではないことは、我らが一番よく知っているではありませんか!?」

「ええい、うるさい!! 思えば、お前が『南斗家が中入りを考えている』などと報告せねば、こんなことにはならなかったのだ! お前が先陣を切って攻めろ!!」

「な……、放っておけと命じたのは殿ですぞ! それに、泥酔した八咫を攻めておれば、何の苦労もありませんでした!!」

「貴様! ワシに逆らうと言うのか!!」

「臣の言うことに耳を貸さず、無為に死ねと命じる殿など、主にござらん!!」

「黙れ!!」


 継信は刀を振り抜いた。驚きの声を上げる家臣を、一刀のもとに切り捨てる。

 首から上をなくした胴体が、川面に音を立てて倒れる。


「よいか! ワシに逆らうものはワシが殺す! 敵と戦わぬものもワシが殺す! それが嫌なら、敵と戦って死ね!!」






 継信軍は無謀な突撃を繰り返した。

 だが、死ぬとわかっての行いである、兵たちの士気は低かった。

 そこへ雨のような矢が降り注ぐのである。そのほとんどが上陸する前に倒れていった。


「三郎様、これは戦ではございませぬ。こんな惨いことは……」


 舞耶が思わず口に手を当てる。いくら勇将であっても、一方的な殺戮には悪寒を感じずにはいられなかった。


「ああ、こんな無益な戦いは終わらせないといけない」


 三郎は大きく息を吐いた。


「……これだから、バカは」


 三郎は珍しく怒っていた。

 その怒りの矛先は相手の大将に向けられている。


 相手が少しでも分別のある者なら、不利を悟って軍を引いてくれただろう。いや、相手のバカさにつけ込んで追い込んだのは三郎自身ではある。それを罪と言うなら甘んじて受け入れるが、それもこれも相手がバカなせいではないか!


「……どうしてこうも、バカが多いんだ。少し考えればわかるだろう! そうやってバカが無謀で無茶なことをして、困るのはいつもその下で働く者たちなんだ。どうしてそこに、気が付かない!!」


 三郎の叫びは城内の兵たちにも届いた。

 思わず手を止めて、皆は三郎を注目する。


「舞耶、京と合流して海から奴らを攻め立てろ。そしてあの大将を討て! 大将さえ討てば、敵は戦意をなくして引くはずなんだ。他の兵は捨て置いて構わない、この戦いはそれで終わらせる!」


 舞耶は驚いていた。無理もない、こんな激情に駆られる三郎を初めて見たのだから。

 舞耶が戸惑っていると、城内から声が上がった。


「舞耶様ー! 我らからも、お願い申し上げます!」

「俺たちだって、敵が憎くてやってるんじゃないんだ!」

「あんなひでえ大将、やっつけちゃって下さい!」

「おらぁ、三郎のお館様に仕えて、幸せだあ!」


 すると、さっきまで怒っていた三郎が頭をかきだした。

 おそらく、照れているのだろう。

 一通りかきむしったあと、舞耶の方を向いた。


「……やれるかい、舞耶?」


 三郎はまた頬を指で掻いている。 

 やはり、三郎はあの日と変わらぬ、三郎お兄様であった。


「当たり前です! 某を誰だと思っているのですか! 八咫家一の勇将、武藤舞耶にございます!!」






「殿! ダメです、城に取り付くことも出来ませぬ!!」

「ええい、どいつもこいつも!!」


 継信は完全に冷静さを失っていた。


 なぜだ、なぜこんなことになったのだ! これまでたとえどんな大軍で攻められようともことごとく打ち破ってきた。天下の堅城と全国に知れ渡るまでになったのだ。それが、たった三百の、それも穀潰しの軟弱者の引きこもりの若輩者に奪わるようなことになってしまうのだ!?


「許せん、許せんぞおおおおおおおおおお!!」

「殿、あれを!!」


 将が海の方向を指して叫ぶ。継信が振り向くと、河を埋め尽くさんばかりの船団がこちらに向かってきていた。


「あれは、大戸水軍です!!」


 見る間に、継信軍の船が次から次へと炎上する。

 大戸水軍が火矢を放ったのだ。

 燃え始めた船上から兵たちが我先にと河へ飛び込む。

 やがて継信と大戸の船との間に遮るものがなくなった。

 そして継信は見る。船団の中でも一際大きい船、その舳先に朱色に反射する甲冑に身を包んだ美しい姫武将が立っていることに。

 姫武将が弓をつがえて構える。そして、矢先が己に向く。


「ヒイッ、誰か、ワシを守れ、守らんか!?」


 だが、継信が周りを見渡しても、誰一人動こうとしなかった。むしろ、冷ややかな目で見つめているのだ。

 もはや、継信の盾となって戦おうとする者はいなかったのである。


「き、貴様ら、ワシを誰だと思っている! ワシは、貴様らの主、岐洲城の城主、三宅継信ぞ!!」

「岐洲城はすでに敵の手に落ちました! 殿は、いやアンタは、もう城主でもなんでもない!!」


 家臣の一人が、震える声で言い放つ。


「きさまあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 継信がその家臣へ飛びかかろうとしたその時。


 一本の矢が、継信の眉間に突き刺さった。

面白いと思っていただければ、ブクマ・評価などいただけると、まさやのモチベがフィーバーします!!

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