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第十一話 三次川の戦い・本戦 肆

 南斗軍第八陣の猛攻は凄まじかった。

 第一陣から第六陣に至るまでをことごとく蹴散らしてきた拓馬軍である、勢いに乗って第七陣をも突破にかかったが、それ以上の突進力を持って逆撃を被ったのだ。

 拓馬軍は勝ち続けて士気が高かったとは言え、連戦の疲れは蓄積している。そこへそれまで戦ってきた連中とは明らかに士気も練度も違う、いや遥かに上回っている精鋭を突きつけられたのである。

 ここに来て、前進が止まったばかりか、一気に押し戻されるハメになった。

 この時、拓馬軍は一気に片をつけるべく、全軍を投入していた。そのため、拓馬軍の本陣から先鋒まで一直線に軍がひしめき合っていたのである。そこへ最前線が押し戻されたことによって、後方から前進してきた軍が次々と渋滞を起こした。


 ここに、戦場において一種の停滞した時が訪れた。

 全軍に渡って渋滞を起こしたため、軍の動きが止まってしまったのである。そして、陣形が縦に伸び切っているため、無防備な側面を晒してしまっている。

 拓馬軍の将の内、機微に聡い幾人かは気づいた。


 今、横から攻められれば、戦線が崩壊する、と。


 だが、敵に予備兵力などないはずだ、それまでに蹴散らした軍はまだ立て直せていないはず、残る敵は今戦っている第八陣だけなのだ。だから大丈夫なはずだ、こんな絶妙な刻を見計らって攻撃できる部隊など、いるはずがないのだ。

 そうやって、不安を打ち払おうとした刹那、


「殿、あれを――!!」


 誰かが悲鳴をあげる。

 それは、闇夜の中から突如現れた。地響きと怒声と悲鳴を伴って。


「敵です!! あれは――八咫軍です!!」


 拓馬軍の将は一斉に戦慄を覚えた。






「かかれェーッ!! 敵は無防備だ、そのまま突っ込めェーッ!!」


 すぐ後で舞耶が叫ぶ。相変わらずうるさい。

 だが、皆の戦意を高めるには十分だった。

 八咫軍は駆けてきた勢いそのままに、敵の横っ腹に一気に突入した。


「な、言ったとおりだろ?」


 三郎は馬に振り落とされないようにしがみつきながら、舞耶に問いかけた。


「三郎様はお人が悪くございます!」


 舞耶が後から抗議する。だが、口調は厳しくない。


「どういうことかい?」

「初めからこうなることを予期されておられたのでしょう! だから、あのような指示を!」

「ああ、そのことか」


 まあ、私は知っていたからな、こうなることを。


 三郎は敵味方の配置を見て、前世における『姉川の戦い』のようだと気づいていた。


 『姉川の戦い』、それは織田・徳川の連合軍が、浅井・朝倉の連合軍を打ち破った戦いである。

 合戦の全容はこうだ、両軍は姉川を挟んで対峙し、織田軍は十三段に至る縦深陣を構えていた。しかし、浅井軍の猛攻にあい、十一段まで打ち破られ劣勢に追い込まれてしまう。ここで、徳川家康が伸び切った敵の戦列の横を突いたことで形勢が逆転、浅井・朝倉連合軍は大敗を喫することとなる。

 三郎は前世でも歴史の研究を多少なりともしていたため、この事例を覚えていたのである。

 そしてその類似性から、こちらにも勝機はあると考えていたのだ。


 ……だからあの時、具体的にどう『勝つ』のか教えてくれ、って言ったんだけどな。まあ、所詮はバカばっかだから誰も思いついてなかったんだろうけど。


 ただ、『姉川の戦い』が起こったのは一五七〇年、三郎が生きている今世ではまだ未来のことである。ましてや、織田信長も、徳川家康も存在しない。つまり、この世で知っているのは、三郎を除いて他にはいないのだ。


「この戦に勝つためには、縦深陣で敵を深く誘い込むこと、敵の陣形を前後に長く伸びさせること、そして伸び切った敵陣の横を狙って突くことだったからね。誰もそのことに気づいてなかったから、横を突く役割は我々がすることになるだろうとは思ってたけど」

「火を消さないのはすぐに動けるように身体を温めるため、軽装に切り替えたのは長距離を駆けても疲れないようにするためだったのですね!」


 そういうこと! と三郎は笑いながら頷いた。

 舞耶がわかってくれて嬉しかった。


「さあ、このまま突破だ!」

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