君主国家
ロランが異世界に転移して二時間が経過したにも関わらず、ロランは自分の置かれた現状が全く把握できていなかった。
ここで生き延びるためにロランは、二人と約束した通りに本を書くことを試みる。
ふかふかの絨毯を踏みしめながら、本棚に並べられている本を手に取り、パラパラと適当に流し読みをすると、不思議に思うことが幾つもロランの頭をよぎった。
「何で俺…この国の字が読めるんだ…」
先ほども二人の喋る会話の内容が全て聞き取れた。そんなことを考えながら、ふと天井を眺めながらため息をする。
「今はそんなことどうでもいいか。適当に日本の知識でも書いておくか」
覇気のない言葉を吐き捨てるように、適当に本棚にある本を数冊手に取り、部屋の中心に置かれた椅子に腰掛ける。
手に持っていた本を机の上に無造作に並べ、この世界の知識も学ぼうとする。すると、一冊の本がロランの目に留まった。
「現在の国の成り立ち」
それは書物としてはとても小さく、重要な内容が書かれてある本には見えない。
他の本と違い、明らかに誰かが作った形跡のある自作らしい本。
単純にタイトルに興味を惹かれ、気がつけば何ページも読み耽っていた。
この世界について知るため、読書嫌いにも関わらずとても早いペースで読み上げていく。
最終ページを読み終わり、そっと本を閉じ考えた。そこに書かれた内容の要点を白い紙にまとめ書き出す。
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他の国と比べても比較的大きな国土と国力を持つラルクハル・バハトン帝国。全ての政治を王が統一する絶対君主体制国家。
森と林に囲まれてた木々を開拓し、魔法と騎士が隣国に多大な影響を与える程絶大な力をを誇る。国民の三分の一が、魔法を使い国民の為になる魔導士ギルドに属するか、騎士となり国王と国を守る盾になる。
国王の意思により、《人種こそが全対》という理念のもとに成り立っている。人種以外の他種が街で生活する方法はとても少ない。大抵は奴隷となるか、力を買われ魔導士ギルドに属するのみ。
そのため、この国の周りに小さな村がいくつも点々と集まり集落となっている。そこに耳長族で人よりも数倍の寿命を持つエルフや、神々しく輝く立派な羽を背に持ち魔法に特化した妖精種など様々な人種以外が共に暮らしている。人が暮らす街や帝都には足を踏み入れることさえできない為、主に畑を耕し生活している。
ラルクハル・バハトン帝国の現十代目国王の、ユール・ラ・バハトン・オスマンズ王は、卓越した頭脳を持つ。数年前までこの国ではよく内紛が勃発していた。理由は国民全てが知っていた。何代にも続く絶対君主体制により、恥やプライド、尊厳全てを奪われた他種による反乱。それに加担する人種の魔導士達。この何十年も続いた内乱を、十代という若さで全てを収縮させた天才。父親であるグリエル・バハトン・オスマンズ王の死去、二十歳で国王の座についた。
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この国の情勢を知るため、最大限の知識を得る為読んだ本の内容。魔法などという単語が並べられ、ロランは自分が異世界にいることを再確認する。
そして、先ほどマスターと呼ばれていた男性が話していた内容を思い出す。
「確か最初に革命がなんとかって」
少しの静寂が部屋を包む。長い沈黙の後、ロランは何となくだが理解した。先ほどの二人が、この国を変えるために働く人間だということに。
先ほど読んだ本には、王が内乱を収めたと書いてあった。なら何で革命をする必要がある。もし彼らが革命軍ならただのテロリストじゃないのか。
ロランの頭に沢山の疑問が頭をよぎる。そしてある決意をした。
「この屋敷を出よう」