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これから

ロランは今、二度目の死の感覚を味わっている。ほんの数分前、車と正面衝突したかと思えば、今は革命軍だの闇ギルドなど話が通じない二人に襲われていた。


マスターと呼ばれる男性が使用したのは《炎花火》。祭や国の式典の際に使われる魔法。決して攻撃などの為に使う魔法ではない。だが、ロランからは炎で自身を焼き殺されそうとしている絵面にしか見えない。


正直、魔法が使える二人と対峙しようが勝てないことは察しがつく。体が小さくなった状態で逃げ切ることも不可能。盆弱ながらも悪い頭をフル稼働させ必死に打開策見つけだす。

ここに俺が今存在するメリットを考えろ。この世界で俺にしか出来ないこと。

このままでは確実に殺される。脳がはちきれそうな程考え抜いた。

部屋中に置かれている大量の本に一つの名案を思いついた。


「待って、ここで俺を殺してもいいの」


軽い脅しで遊び半分でからかうマスターに向け、ロランは起死回生の打開策をぶつける。


「どういう意味だ」


カラスが鳴くような不気味な声で答えた。


「ここにある本って全部魔術に関するものなんでしょ」

「それが貴方に何の関係があるのじゃ」


ここしかない…これに全てを賭ける。小さな拳を握り勇気を掘り絞りながら、最後の希望を糧に反撃に出るロラン。


「ここにある魔術の本は何のためにあるの」


慎重に話を進めていく。


「これは全てとあるお方を生き返させるための書物。 まぁすべて無駄になったけど」


やはりそうか。異世界の魔術師を呼び出し、この世界にはない技で人間を蘇らせる気か。正気に思えない考えに顔が歪む。

ここから生き延びようとする滑稽なロランに、つい笑いが溢れそうになるローゼ。


「お……俺さ、実は毎日沢山の本読んでて。 いろんな本の内容覚えてる」

「で? それが?」

「それを利用できない俺は沢山の本を読ん読んで、それなりの知識もある」


コイツらは異世界の知識を知らない。なら適当な医学的の知識を本にして書いて渡せばいいだけのこと。

浅はかな考えと思いながらも、ここで生き延びるための最善の策を尽くす。


「俺は異世界の人間なんでしょ。だったらこの世界にない知識を沢山知ってることだし、それを役立てれるんじゃないか」

「なるほど。 面白いじゃない」

「俺は専門書とか沢山読んでて向こうの世界でも博学として有名なんですよ。その知識を一冊の本にして貴方が読んで復活の魔術でもなんでも役立つと思うのですが」


少し強引だが、強気に推し進めた甲斐はあった。ここからは、適当な口八丁で乗り切ろうとするロラン。


「その話、乗ってあげようじゃない。ただし、もしその本が書けなかったり役に立たなかったらどう責任とるつもり」


ここぞとばかりに釘を刺すローゼに引かないロラン。その姿にマスターも少しばかり男としての関心を持つ。


「俺たちの世界の知識が使えないとわかったら、好きにしていいですよ」


本を書いても、結果は見えてる。魔術を使っても人間を蘇らせることは不可能。それ以前に、ロランは本を書いたことすらない。知識なんて有るはずが無い。

だが、この場での命は繋いだ。


「最後にもう一度質問するわ、本当に魔術は使えないのよね」

「まぁ魔法というか、男が三十歳まで童貞を貫くと賢者になれるとか」


この思い空気の部屋を変えるため、冗談交じりの口調で言い放つが、ロラン自身しょうもないことを口にしたと後悔の念がジワジワと押し寄せてくるのがわかった。


「賢者ですって。噂に聞く第四異界以上の魔法を行使する神に選ばれた魔導士が…。そんな方法でなれるなんて…」

「ありえない、賢者などこの世にいるはずがない。この世界に伝わる伝説の一種をそんな方法で」


何を悔しがっている。何を本気で受け止めているんだコイツら。世界中の童貞の皆様に謝れ。

マスターとローゼの二人が驚く姿を眺めながら、魔法が使える世界で、賢者が珍しい者なのかという疑問が頭に浮かぶと共に、笑いをこらえながらも気持ちを落ち着かせる。


「俺からの質問。 何故俺を呼んだのか教えてほしい」


切実な質問だ。俺がこの世界に呼ばれたのは、偶然ではない気がする。俺がこの世界に来たのは役目があるからだと思う、いやそう思いたい。

今までのフリーター生活に嫌気がさし、新しい人生を送れそうなこの状況に期待している最低な人間と自覚するロラン。


「それは…まぁ…うん……あれだ。神に選ばれたのか…」

「わからんのかい!」

「ローゼよ、この者は異世界からの人間。 どんな病気をもっているかわかりません。 ここは奴隷市場に売る方がいいんじゃないか?」


冷たい針が雨のようにロランの胸に突き刺さる。質問を無視され、マスターの言葉に危機感を抱き始めた。


「本は書かせるは。 それであのお方が甦るのなら。 もし書けなければ奴隷行きにでもさせるは」


ローゼの目が輝きに満ちていた。その顔を見ると、後に引き返せなくなった事になる。本を書く以前にまともに読書をしてこなかったがやるしかない。 生きるために。


そんなやる気になっているロランとは対照的に、マスターとローゼの作戦は第一段階は成功した。

ロランに恐怖を与え、この屋敷から逃亡させる。抜け出した先で一人でこの国の現状を見てほしいからだ。そして、我々の真の仲間として革命軍に入るために。この国を内側から変えていく仲間として。

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