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異質への気づき

周りと自分との「違い」を自覚したのはその一年後、小学四年生のときだった。



その頃の僕はというと、詳しく習いだした理科に夢中になっていた。


なんで気温は変わるの?

なんで氷は溶けるの?

なんで昼と夜があるの?


そんな小学生ならだれでも抱くような、ごくありふれた自然への興味でいっぱいだった。

同じ興味をもつ友達と図鑑を眺めたりするのが好きだった。


よく晴れたある日のこと、水の蒸発についての実験をすることになった。


「今日は地面少し湿ってるよね?昨日雨が少し降ってたからねー。じゃあ、この湿った地面がどうして乾くのかな?それがわかる実験を今日はしますよー」

担任の熟練の先生が言った。


「やった!実験だって!」

「そだね!『僕』くん、どんな実験するんだろね?」

そんなふうに『理科好きの友達』と僕はいつものように自然のことについて話し合って、盛り上がっていた。


そうすると校庭の朝礼台の横に、担任の先生は透明なバケツをひっくり返しておいた。


「はーい、見えますかー?今バケツをおきましたけど、これを今日、家に帰る前にもう一度見てみましょうね!」


「え?おわり?」

二人ともがキョトンとして、拍子抜けをくらった。

あーあ、こんなの実験じゃないや。

不貞腐れながら教室へ戻り、算数の授業を受けて、給食を食べた。

昼休みにはみんな校庭に出て遊ぶんだろーな。

そう思うと、ひっくり返ったバケツのことがきになってしょうがなかった。

誰かにひっくり返されたら、あれ台無しになっちゃうんじゃないの?

そんな不安が僕を襲ったのだった。


みんなが残したコッペパンをおかわりして、お腹も膨れたところでチャイムが鳴った。

やっぱり心配だな。

そうして校庭の朝礼台へ向かった。


そこで目にしたのは、懸念したとおりのことだった。

名札を見た。あの色は六年生だ。

最上級生が、僕たちの実験のバケツを蹴飛ばしている。


僕は、なにも出来なかった。

固まったまま、その光景を見ていた。

笑いながら、談笑しながら自分の好きなものが貶される光景を。


だが、自分でも驚いたのはこの後だ。


チラチラと視線を動かしている六年生たちの会話が聞こえてきた。


「え、それはまじでキモい。なんかこっち見てるっぽくない?」


それが聞こえた時には、目の前の光景は一変していた。

さっきより距離の縮まった六年生たち。

明らかに驚き、戦いている。

そして、ひりつくように焼けるのど。


ああ、そうか。

実験を無下にされても動けなかったのに、自分がバカにされてキレたのか。

それを理解するのには、少しの時間がかかった。


六年生たちはとまどいを隠しきれず、戸惑いながらもそそくさと姿を消していった。

辺りを見渡すと、昼休みだけあって賑やかで、大声を出しても特に気づかれてはないようだ。


だけど、少し離れたところに『理科好きの友達』がいた。

さっきの六年生たちと同じ顔をしていた。


目が合うと、走って行ってしまった。

ああ、怯えさせてしまったのかな。

そう思うと心苦しかったが、とりあえずバケツを元に戻して教室へと戻ることにした。


教室へ戻ると、担任の先生と『理科好きの友達』が話していた。

「『僕』くん、ちょっといい?」

優しい口調で先生は僕のことを呼んだ。


なんて友達は言ったのかなぁ。

それを気がかりに思いながら、僕は先生に連れられて非常階段へときた。


そこで先生の口から出たのは意外な言葉だった。

「『僕』くん、すごいね。バケツが蹴っ飛ばされてるの見て、飛び出したんでしょ。『理科好きの友達』くんから聞いたよ。正義の味方みたいだね!」


とても驚いた。

『理科好きの友達』は僕がなんと言ったのか聞こえていなかったのだろうか。


しかし僕はここで、嘘をついた。

「はい、そうです。好きな理科の実験を邪魔されて、どうしても許せなくって…」

なせだか、涙がこぼれた。


涙なんかこぼすものだから、先生はこの嘘をしっかり信じ込んで

「そっか。ありがとうね、『僕』くん。どんな子だったか覚えてる?」

なんてことを言い出した。


僕は名札に書いてあった名前を覚えていたので、その名前を答えた。

少なからず、仕返しをしてやりたかったのだろう。

もちろん、自分のことをバカにしたことに対して。


そして今度こそ教室に戻った。

『理科好きの友達』とは少し距離を感じるようになったが、相変わらず趣味嗜好は同じなので変わらないように振る舞い、話した。


しかし内心では、怯えていた。

同級生で僕の本性を知っているのは、こいつだけなんだから。


その次の日になると、六年生たちが教室を訪ねてきた。

「『僕』くん、ごめんね?別にうちらはそういうつもりじゃあなくって…」

「大丈夫です。自分も正直驚いてて、なんて言ったのかも覚えてないから気にしないでください」


また、嘘だった。

本当は、なんて言ったのか、一言一句もらさず覚えている。


確かに目の前が一瞬真っ白になったのは確かだが、その後でこう怒鳴った。

「ふざけんな、それが年下にいう言葉か!?だれがキモいんじゃぼけぇ!!」と。


この出来事で、僕は周りとは感覚が大きくズレていることを自覚した。

まず、自尊心が桁違いに高いこと。

二つ目に、保身のためならスラスラ嘘をつけること。

三つ目に、規律は絶対と信じ込んで底抜けの正義感があること。


こうした傾向が突出した出来事は小学校時代にまだいくつかあったが、どれも悲惨なものだった。


水筒にイタズラをされるがためにそのイタズラっ子を殴ったり。

ジャンケン負けで荷物持ちをさせる登校班の班長に切れて登校拒否したり。


しかし、多感な時期である中学校時代には更に複雑な出来事が重なってゆく。


これは、そんな僕が、人間らしさを求めて変わろうとしていく物語である。

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