白の章 不思議の園のアリス ~Alice in Wonder garden.~
不思議の国の少女は、みんなアリス。(めるへんめーかー様のお言葉)
アリスの一日は、たまごを数えることから始まります。
かわらひわのたまご
よしきりのたまご
すずめのたまご
しろはらのたまご
あおばとのたまご
きびたきのたまご
アリスは、小さくてもちゃんと百まで数えられるのです。
ところが今朝、アリスは見慣れぬたまごを見つけました。
銀色の、大きなたまご。
やわらかな緑の草の上、金色のおひさまの光のなかで、たまごは静かにすわっています。おひさまをいっぱいに浴びながら、まだまだ眠っているようです。
なんて大きなたまごかしら。わたしの両手じゃ抱えられない。おべんとうのバスケットよりまだ大きい。それになんてきれいなたまご。こんな銀色はじめて見たわ。つるんとして、ぴかぴかして、まるで母さまの銀食器のよう。こんなきれいなたまごから、どんな鳥が生まれるのかしら。
こんなきれいなたまごなら、きっときれいな鳥でしょう。こんな大きなたまごなら、きっと大きな鳥でしょう。
アリスもたまごとひなたぼっこ。
あひるじゃないわ。あひるのたまごよりもっと大きい。
白鳥のたまごでもないわ。だってあれよりもっと大きい。
ドードー鳥のたまごかしら。いえいえ、もっと大きいわ。
モアさんのたまごと同じくらいもあるけれど、モアさんのたまごは銀色じゃないし。
アリスはたまごとにらめっこ。
もしかしたら、へびのたまごかもしれないわ。
きっと大きなへびになる。そうしたらアリスもたべられちゃうのかしら。
でも、へびのたまごも銀色じゃあないわ。
銀色のたまご、銀のたまご。
いったいだれのたまごかしら。
鳥でもなければへびでもない。それじゃあだれのたまごかしら。
こんなに大きなたまごなら、ドラゴンのたまごかもしれない。ジャバ=ウォッキーのたまごなら、銀色だっておかしくないわ。
もしもほんとうにドラゴンのたまごだったらどうしよう。火を吐くこわいドラゴンだったらどうしよう。
森もお家も、鳥もアリスもみんな燃えてしまうでしょう。それはこまるわ。ドラゴンはこまるわ。
だけどドラゴンのたまごって、こんなにつるつるしているかしら?
銀色のたまご、銀色のたまご。
いったいだれのたまごかしら。
鳥でもなければへびでもない。ドラゴンのたまごでもないかもしれない。
それじゃあだれのたまごなの?
もしかしたら、妖精のたまごかもしれないわ。
きらきら、ふわふわ、踊りながらとぶきれいな妖精たちなら、こんなきれいなたまごから生まれると思うの。
でもでも、妖精は朝露から生まれるんだって、バラの花がおしえてくれたわ。それに、妖精のたまごならもっとたくさん見つけてもいいはずだもの。
銀色のたまご、銀色のたまご。
いったいだれのたまごかしら。
鳥でもなければへびでもない、ドラゴンでもなくて妖精でもないのなら、いったいだれのたまごかしら。
銀色のお城のなかで、どんな子が眠っているのかしら。
お日さまのひかりが葉っぱをセロファンのように透かして、地面ではかげが踊っています。風がふいてひかりがゆれて、花のにおいをはこんできます。
アリスははらばいになって、たまごにかおをちかづけました。たまごのからは、アリスのおかおがはっきりうつるくらいにぴかぴかです。
いったいだれのたまごかしら。
いったいなにが出てくるのかしら。
風はやさしくふいています。みつばちもブンブンいうのをやめて、花のベッドにもぐりこみました。
銀色のたまごはだまったまま、きらきらひかりながら眠っているようです。
アリスもだんだんおねむになってきましたよ。
ことりたちもおしゃべりをやめて、こもり歌をうたいます。
銀色のたまご、銀色のたまご。
いったいだれのたまごかしら。
鳥でもなければへびでもない、ドラゴンでもなくて妖精でもないのなら、いったいだれのたまごかしら。
きらきら、ぴかぴか、きれいなたまご。
天使のたまごかもしれないわ。こんなにきれいなたまごだもの、きれいな天使が眠っているの。
もしも天使のたまごじゃなかったら。
あくまが出てきたらどうしよう。ドラゴンもこまるけれど、わるいあくまはもっとこわいわ。もっとわるいことをするのだって聞いているもの。
こまったわ、いったいだれのたまごかしら?
銀色のたまご、銀色のたまご。
いったいだれのたまごかしら。
いったいなにが出てくるのかしら。
あ、ひび!
ぱかん
たまごが、割れて。
たまごがはじけて、なかからキラキラ、ピカピカ、ひかりのつぶがながれ出し、しろい川になりました。
あれ、天の川。
アリスは目をさましました。いつのまにか、あたりは暗くなっています。
森のおくで声がします。おかえりアリス、はやくおかえり。
銀色のたまごはどこにも見あたりません。
かえるアリスの空のうえ。
銀色のお月さま。
こちらは白ヴァージョン。
もうひとつは黒ヴァージョンで、星新一様調。
問題ない方はもう一つの方もどうぞ。
嫌いな方には、お勧めしません。