パーティーの始まり
しばらく毎日更新
ゴブリン騒動から数日後、俺はリリアさんに連れられて、街の教会を訪れていた。
教会は、石造りの重厚な建物で、ステンドグラスから差し込む光が、内部を神秘的な雰囲気で満たしている。ここは孤児院も兼ねており、多くの子供たちがここで生活している。孤児たちが楽しそうに遊ぶ声が響き、その中心には、先日俺が助けた藤色の髪の少女がいた。彼女は、子供たち一人ひとりに優しく話しかけ、その小さな頭を撫でていた。その姿は、まるで聖母のようだった。
「デイヴィッド様、あちらにいらっしゃるのが、先日お助けいただいた方ですよ」
リリアさんが、俺の小さな手を引いて、彼女のほうを指差した。
俺は、胸の高鳴りを感じながら、思わず駆け寄った。まだたどたどしい足取りだが、気持ちは逸る。
「あの、こんにちは!」
俺の声に、美少女さんは驚いた顔で振り返った。その藤色の瞳が、俺を捉える。
「あらあら、あなたはこの間の…デイヴィッド様、ですよね?」
「デイヴィッドです。この間はありがとうございました」
俺は精一杯の笑顔で挨拶した。まだ言葉はたどたどしいが、感謝の気持ちは伝わったようだ。ミリアさんは、その表情を和らげ、優しく微笑んだ。
「私はミリア・ルーナです。神官見習いをしています。あなたこそ、あの時は本当に助けてくださって、ありがとうございました!まさか、あんなに小さなお子さんが魔法を使われるなんて…わぁ、びっくりしましたよ!」
ミリアさんは、驚きを隠せない様子で俺を見た。その視線には、純粋な好奇心が宿っている。
「僕、魔法使えるんだ!」
俺は得意げに胸を張った。この世界の人間が、俺の魔法にどう反応するのか、少し不安もあったが、ミリアさんの反応は好意的だった。
「ええ、見せていただきましたよ。あの火魔法…とてもユニークな使い方でしたね。棍棒に火魔法を当てるなんて、普通の火魔法使いさんにはできない芸当だと思います!」
ミリアさんの言葉に、俺は内心でニヤリとした。前世の知識を応用した成果だ。ただ火を出すだけでなく、対象の温度を上げるという原理を理解しているからこそできたことだ。
「ミリアさんは、どうして僕の魔法が特殊だとわかるんですか?」
俺は尋ねた。彼女の言葉には、魔法に対する深い知識が感じられたからだ。
「私は回復魔法を専門に学んでいますから、魔力の流れや性質には敏感なんです。あなたの魔法は、一般的な火魔法とは少し違う、独特の魔力の使い方をしているように感じました」
ミリアさんは、そう言って、俺の小さな手をそっと取った。その手から、微かな温かさが伝わってくる。
「ミリアさんは、エルフなんですか?」
俺が尋ねると、ミリアさんは少し驚いた顔をした。
「ええ、そうですけど…どうしてそれを?」
「なんとなく、耳の形とかで…」
俺はごまかした。なろう小説によくエルフについて書かれているので、それとなく聞いてみたのだ。
「えへへ、鋭いですね。私はハーフエルフなんです。人間とエルフの間に生まれた者は、どちらの種族からも完全には受け入れられないことが多いんですよ。だからこそ、私は神官見習いとして、皆さんの役に立ちたいと強く願っています。誰かの役に立つことで、私自身の存在意義を見出したいなって…」
ミリアさんはそう言って、孤児たちに目を向けた。その瞳には、強い意志と、どこか寂しげな影が宿っていた。彼女の言葉からは、種族の壁を越えて人々に尽くしたいという、純粋な願いと、ハーフエルフとしての宿命が感じられた。
「デイヴィッド様は、これからどうされるのですか?その魔法の才能、きっと素晴らしいものになるでしょう」
ミリアさんが尋ねた。
「俺は、大魔導士を目指すんだ!」
俺は迷いなく答えた。前世で果たせなかった夢、そしてこの異世界で手に入れた新たな力。それを最大限に活かしたい。
「大魔導士さん…!わぁ、それは素晴らしい目標ですね!もしよろしければ、私も協力させていただけませんか?あなたの魔法には、まだ未知の可能性が秘められているように感じますし、私も回復魔法の専門家として、何かお役に立てることがあるかもしれませんから!」
ミリアさんは真剣な眼差しで俺を見た。彼女の言葉は、俺にとって非常に魅力的だった。
「ほんとうに…?」
俺は少し考えた。ミリアの回復魔法は、俺の魔法使用によるMP消費の倦怠感を補うことができるかもしれない。それに、彼女の知識は異世界の魔法体系を理解する上で役立つだろう。何より、この世界で初めて、俺の秘密を共有できる相手が現れたことに、心が躍った。
「うん!いいよ!一緒に頑張ろう!」
俺はミリアの申し出を受け入れた。こうして、俺とミリアの協力関係が始まった。それは、大魔導士への道を歩む俺にとって、大きな一歩となる予感がした。
教会を後にし、リリアさんと共に屋敷に戻る道すがら、俺はミリアとの出会いを反芻していた。彼女の回復魔法は、俺のMP枯渇問題を解決する鍵になるかもしれない。そして、彼女の持つ異世界の知識は、俺がこの世界で生きていく上で、かけがえのないものになるだろう。なにより、美少女との出会いは、何ものにもかえがたい。
「デイヴィッド様、ミリア様と仲良くなれてよかったですね」
リリアさんが優しく微笑んだ。
「うん!」
俺は元気よく返事をした。新たな仲間を得て、俺の異世界での生活は、さらに彩り豊かになっていく。大魔導士への道は、一人で歩むよりも、きっと楽しいものになるだろう。
屋敷に戻ると、俺はすぐに父上に教会での出来事を報告した。父上は俺の話を真剣に聞き、ミリアが孤児たちを献身的に世話していることに感銘を受けたようだった。
「デイヴィッド、お前が助けた少女が、そのような志を持っているとはな。我々ドバルコ家としても、教会への支援を惜しむべきではないだろう」
父上はそう言って、教会の孤児たちのために、いくらかの寄付をすることを約束してくれた。俺も貴族の子供として、ささやかながらも寄付をさせてもらった。これで、孤児たちや、ミリアが少しでも快適に過ごせるようになれば嬉しい。
翌日、俺はミリアに手紙を送った。内容は、今後の協力関係について、具体的な提案をしたいというものだ。数日後、ミリアから返事が届いた。彼女もまた、俺との協力関係に大きな期待を抱いているようだった。
「デイヴィッド様、あなたの魔法と私の回復魔法が合わされば、きっと素晴らしいことができるでしょうね!私も、あなたの目標達成のために、全力を尽くしますから!」
手紙に書かれたミリアの言葉に、俺は胸が熱くなった。なにより、幼児のお手紙に真剣に返事を書いてくれるなんて、立派な子。ミリアさんへの好感度はバク上がり中である。
俺たちは、まずはお互いの魔法について深く理解し合うことから始めた。ミリアは俺の火魔法の使用法に興味津々で、俺は彼女の回復魔法の仕組みについて質問攻めにした。
「ミリアの回復魔法は、どうやって傷を癒すんだ?細胞を活性化させるのか?それとも、魔力で直接組織を修復するのか?」
俺の質問に、ミリアは目を丸くした。
「えっと…そこまで深く考えたことはありませんでしたね。ただ、祈りを捧げて、魔力を流し込むと、傷が癒えるんですよ。」
ミリアは困ったように笑った。やはり、この世界の魔法は、科学的なアプローチとは異なるようだ。しかし、俺は諦めない。前世の知識を活かせば、この世界の魔法をより深く理解し、応用できるはずだ。
俺とミリアの協力関係は、順調に進んでいった。俺はミリアからこの世界の常識や魔法の基礎知識を学び、ミリアは俺のユニークな魔法の使い方に驚きと発見を繰り返した。
「デイヴィッド様、あなたの魔法の考え方は本当に斬新ですね!まるで、違う世界からもってきたような気がしますよ。」
ミリアの言葉に、俺は内心で冷や汗をかく。そのとおりです。異世界知識をそっくり当てはめているだけなんです。。
大魔導士への道は、一人では困難なもの。ミリアという最高のパートナーを得て、俺の異世界での冒険は、今、まさに始まったばかりだ!
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