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没落、そして冒険者へ

東の森の異変がもたらした被害は甚大だった。上壁の外の区域は壊滅的な打撃を受け、多くの領民が家を失い、生活の基盤を失った。


俺が賢者の石の力を遮断し、森の異変を解決した功績は、神官長を通じて王都に報告された。その功績が認められ、俺は「月光の守護者」という名誉ある称号を賜った。だが、それはあくまで名誉のみで、金銭的な報酬は一切なかった。おそらく、俺がまだ幼児であったため、実質的な褒美は与えられなかったのだろう。むしろ、街の復興費用はドバルコ家が負担することになり、また、街の壊滅の責任を問われ、父上は左遷されることになった。突然の出来事に、眼の前のことに対応するだけで時間が過ぎていった。俺たちの生活は一変した。


屋敷は縮小され、今まで当たり前のようにいた使用人たちの姿はほとんど見られなくなった。食卓に並ぶ料理も質素になり、俺の部屋も以前より狭くなった。貴族としての教育も、もはや意味をなさない。俺は、この現実を目の当たりにし、貴族としての道が閉ざされたことを痛感した。


夜、自室の窓から星空を見上げていた。満天の星が輝いているが、俺の心は鉛のように重かった。

「俺のせいだ…」

思わず呟いた。東の森の異変を解決したはずなのに、結果として街は甚大な被害を受け、父上は左遷され、家族は困窮してしまった。俺がもっと早く、もっと強力な魔法を使えていれば、こんなことにはならなかったのではないか。無力感と後悔が、俺の心を深く蝕んでいく。

前世の知識とこの世界の魔法を組み合わせれば、何でもできると思っていた。しかし、現実は甘くなかった。俺の力は、まだあまりにも未熟だった。貴族としての未来も、大魔導士としての夢も、全てが遠のいていくように感じられた。


そんな俺の異変に、いち早く気づいたのはミリアだった。ある日の午後、俺が書斎でぼんやりと窓の外を眺めていると、ミリアがそっと部屋に入ってきた。

「デイヴィッド様、最近、元気がないように見えますわ。何か、お悩みですか?」

ミリアの琥珀色の瞳が、俺の心を真っ直ぐに見つめてくる。俺は、何も言えずに俯いた。

「…俺は、無力だ。家族を守れなかった。父上を、領民を、救えなかった…」

絞り出すように言葉を紡ぐと、ミリアは何も言わずに俺の隣に座り、そっと手を握ってくれた。その温かさが、凍り付いた俺の心にじんわりと染み渡る。

「そんなことはありませんわ、デイヴィッド様。あなたは、この街を、そして私たちを救ってくださったのです。もし、あなたが森の異変を解決してくださらなければ、もっと多くの被害が出ていたでしょう。あなたは、私たちにとっての希望ですわ。」

ミリアの声は、優しく、そして力強かった。

「でも…俺は、貴族としての道を失ってしまった。もう、家族を支えることもできない…」

「貴族の身分が、デイヴィッド様の価値を決めるわけではありませんわ。あなたの魔法は、人を助けるためにあります。あなたの知識は、この世界の謎を解き明かすためにあります。そして、あなたの優しさは、多くの人々の心を温めます。それこそが、デイヴィッド様の真の価値ですわ。」

ミリアは、俺の目を真っ直ぐに見つめ、力強く言った。

「それに、私は、デイヴィッド様がどんな道を選ばれても、ずっと隣にいますわ。共に歩み、共に困難に立ち向かいましょう。あなたの夢を、私が全力で応援します。」

ミリアの言葉が、俺の心に深く響いた。彼女の温かい手と、真っ直ぐな瞳が、俺の心を溶かしていく。そうだ、俺にはミリアがいる。リリアさんも、母上も、父上もいる。俺は一人じゃない。


ミリアの言葉に勇気づけられた俺は、顔を上げた。

「ありがとう、ミリア。俺、決めたよ。」

「…何をですの?」

ミリアが首を傾げる。

「俺は、貴族の道は諦める。でも、大魔導士になるという夢は諦めない。この世界には、まだ俺の知らない魔法がたくさんある。そして、賢者の石の謎も、転移の理由も、まだ何も分かっていない。だから、俺は冒険者になる。自分の力で、この世界を旅して、もっと多くのことを学び、もっと強くなる。そして、いつか、この世界に潜む全ての闇を打ち払えるような、真の大魔導士になってみせる!」

俺の言葉に、ミリアは満面の笑みを浮かべた。

「はい!デイヴィッド様なら、きっとできますわ!私も、全力でサポートさせていただきます!」

ミリアの笑顔が、俺の心を明るく照らしてくれた。


俺は、父上と母上にも、冒険者になる決意を伝えた。最初は心配されたが、俺の固い決意と、ミリアの説得もあり、最終的には理解してくれた。

「デイヴィッド、お前の決意は分かった。だが、まだお前は幼い。いきなり冒険者になるのは危険すぎる。まずは、街の学園でしっかりと学んで、力をつけなさい。学費は、父さんが何とかする。それが、今の父さんにできる精一杯の援助だ。」

父上はそう言って、俺の頭を撫でてくれた。母上も、涙ぐみながら頷いた。

リリアさんも、寂しそうな顔をしながらも、俺の背中を押してくれた。

「デイヴィッド様、お気をつけて。いつでも、この家があなたの帰る場所ですからね。」

リリアさんの言葉に、俺は胸が熱くなった。


こうして、俺は貴族の身分を捨て、学園で学ぶことを決意した。

東の森の異変は、俺の人生を大きく変えた。しかし、それは同時に、俺がこの異世界で本当に成し遂げるべきことを見つけるきっかけにもなった。

賢者の石の真の力、転移のさらなる手がかり、そして微かにほのめかされる「星の欠片」の存在。新たな謎が俺を待ち受けている。

第二章では、学園で成長した俺が、ミリアと共にこの広大な世界を旅し、様々な出会いと困難を経験しながら、真の大魔導士への道を歩んでいく物語が始まるだろう。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

これにて第一章は一旦クローズ。もし「続きが気になる!」と思っていただけたら、〈いいね〉や評価、さらには感想で応援してもらえると励みになります。反響を目安に第二章の執筆を検討します。


なお今は、魔法社会の社畜ライフ(?)を描く

『【悲報】スライムのせいで今日も残業。俺、伝説級の魔法使い(※ただし儀式が恥ずかしいので封印中)』

Nコード:N7719KP

を執筆中です(R7.6.20朝投稿開始予定)。よろしければ、こちらもチェックしていただけると幸いです!

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